後進の育成とは?人材育成との違いや育成方法・注意点を詳しく解説
人材不足の組織において、事業継続の観点からも後進の育成は喫緊の課題です。ベテラン社員の技術を後輩社員にうまく引き継ぐことができたかどうかで、企業の持続的な成長にも影響します。この記事では、ベテラン社員が育てた大切な技術やノウハウを後進の育成で適切に引き継ぐ方法について解説します。
人材不足の組織において、事業継続の観点からも後進の育成は喫緊の課題です。ベテラン社員の技術を後輩社員にうまく引き継ぐことができたかどうかで、企業の持続的な成長にも影響します。この記事では、ベテラン社員が育てた大切な技術やノウハウを後進の育成で適切に引き継ぐ方法について解説します。
目次
後進の育成とは、組織のなかで特定の役割や職務を担っている社員の経験や技術を次の人に適切に引き継げるよう、経験値や技術力が未熟な人材を先輩社員の元で育てることをいいます。
「後進の育成」は「人材育成」の一部と考えられます。「人材育成」には広い意味があり、組織全体の生産性の向上や事業推進のために、個々の従業員の能力や知識を向上させることを指しします。
その取り組みのなかでも、特定の役割や職務を担うベテラン社員のノウハウや技術を若手社員に引き継ぎ、習得させることを「後進の育成」と呼びます。
「後進」とは、先を進む「先進」に対して、文字通り「後を進む人」を意味します。平たくいえば、「後輩」と言い換えられます。一方、「育成」は特定の技術や役割を担えるようになるまで人を育てることを指します。
「後進の育成」は組織のなかでこれまで培われてきた技法や専門知識などを、「次の世代」に引き継ぐことを意図しているため、「後進」という言葉が使われていると考えられます。
対して「育成」は、必ずしも組織内の既存の技術や専門知識に限定されません。業界の最新技術や知識を身につけたり、新規事業に必要な専門知識やITスキルを修得したりすることを含めて「将来の事業運営に必要な人材、多様な分野や部署で活躍できる人材を育てる」といった、広い意味を持っています。
では、「後進の育成」という言葉は実際どのような使われ方をするのか、いくつか例を挙げてみましょう。
例えば、人事担当者が技術を持つベテラン社員に対して、「〇〇さんもあと数年で定年になるから、そろそろ本気で後進の育成に尽力してもらう必要があります」と使う場合があります。
または、対外的に会社の人材育成状況について「弊社では、社内で培った高度な独自技術を継承するため、後進の育成に務めています」のように、使われるときもあります。
「後進の育成」という言葉をそのまま使う立場の人は、経営層や人事に関わる人やベテラン社員などで、自分が育成の対象者となる世代や職位の人が口にすることはほとんどないのが特徴といえるでしょう。
「後進の育成」と似たような言葉に「後輩の指導」「後輩の教育」「部下の教育」などもありますが、「指導」や「教育」は「育成」とは異なり、業務上における特定の課題に対してできるようになってもらうための、いわばピンポイントの関わりというニュアンスで使われる点に違いがあります。
独自の技術を開発し、長年維持してきた特定のベテラン社員は、間違いなく会社にとって重要な存在です。一方で、特定の人に技術やノウハウを俗人化させておくことは、企業の持続可能な発展を考えたときにリスクにもなります。
どんな優秀な社員にも、いずれ高齢になり退職する時期がきます。場合によっては、定年前であっても、予期せぬ事故や病気などで急な退職を余儀なくされるかもしれません。
もしそのような状況になったとき、そのベテラン社員が技術を後進に伝授しておかなければ、たちまち会社の事業が立ち行かなくなってしまいます。
企業を持続的に発展させるためにも、会社の事業継続に重要な技術やノウハウを後進に軽症するサイクルを、適切なタイミングで計画的に回していく必要があるのです。
後進の育成は、事業の中核を担う技術やノウハウを持つ社員が高齢化している中小企業にとっては、適切に取り組めばそれだけ得られるメリットが大きくなります。得られるメリットには、次のようなものがあります。
後進の育成に取り組むメリット |
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・事業の持続性が高まる ・社内コミュニケーションの活性化につながる ・優秀な人材の獲得につながる |
後進の育成が進めば、会社にとって重要な技術やノウハウを特定の社員に属人化した状態を避けることができます。それまで特定の社員に依存していた事業があっても、適切な後進の育成がされていれば、その社員が不在となった後でも事業の持続性を確保できます。
後進の育成は、多くの中小企業では特定の技術やノウハウを持つベテラン社員が後輩社員に伝える形で行われます。そのため、後進の育成を積極的に行うことにより、組織内でも特に世代間のコミュニケーションが促進されます。
さらに、後進の育成のサイクルを繰り返していくことにより、社内全体のコミュニケーションの活性化が期待できます。
会社が後進の育成に積極的に取り組んでいる事実を対外的に情報発信することで、採用および定着が難しいとされる優秀な若年層の人材獲得につながる可能性が高まります。
組織全体の高齢化傾向が特に強い中小企業では、後進の育成が奨励されていない組織だと見られてしまうと、若年層の中途応募や新卒の採用がより厳しくなってしまいます。
後進の育成への積極的な取り組みには、単に技術の継承に留まらず、将来的な優秀な人材の確保につながるメリットもあるというわけです。
後進の育成をスムーズに進めるために、以下のポイントを押さえておきましょう。
後進の育成をスムーズに進める方法 |
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・育成の目的と目標の達成 ・育成対象者の適格性の確認 ・適切な育成方法の設計 ・目標達成後のフォロー |
後進を育成する目的とその達成のためにどのような目標を設定するかを決めておくことは、育成が成功するために不可欠な要素です。言わずもがなと思われる場合であっても、あえて明確に文字化して社内に共有することで、その後の育成プロセスをよりスムーズに進められるようになります。
誰を育成するべきなのか、その人選や時期が適切かを確認しておくことは、育成開始後のトラブルを避けるうえでも重要です。
具体的には、過去の業務実績や人事評価、能力テストなどを活用し、客観的な視点で能力やスキルを評価します。その際、職務遂行能力だけでなく、コミュニケーション能力や問題解決能力なども評価項目に含めるとよいでしょう。
また、なぜ会社が当人を適格だと判断しているのか、どのような期待をもっての人選なのか、育成開始後の経営陣側の支援体制についてを本人に十分説明し、本人が納得したうえで育成を開始できるかどうかも、適格性の要素の一つとなります。
特定の技術やノウハウは、ベテラン社員が自分で創意工夫と改善を繰り返しながら、その人が歩んできた業務のなかで培われたものです。しかし、その過程と同じパターンでベテラン社員が後進を育成することが適切とは限りません。
なぜなら、ベテラン社員が自分自身が技術やノウハウを活用して業務を高い品質で遂行することができることと、後輩社員を適切に育成指導するための能力を持っていることとは別の能力だからです。
もしベテラン社員自身の育成能力が足りないと判断される場合は、どうやったらノウハウや技術を後進にわかりやすく伝えられるか考える必要があるでしょう。
例えば、細かい説明よりも先輩社員の行動や手順を目の前で観察しながら真似する、または手順をイラストや絵などでイメージするほうがコツをつかめる、またはベテラン社員のやり方をできるかぎり言語化し、文字情報をもとにしてロジックを整理する形でポイントを自分でつかんでいく人もいるかもしれません。
また、OJTや指導者側の研修を事前に実施する場合は、対象後輩社員の学習パターンの特徴をあらかじめ知っておくことで、それにあったOJTカリキュラムや研修内容にアレンジできます。
意外と忘れられがちなのが、設定した目標を達成できた場合、その後育成された社員がどのような方向で仕事を進めて行くのかをフォローすることです。
会社にとって重要な技術やノウハウが後輩社員に引き継がれたあと、それをその後の会社の事業経営にどのように活かしていくのかを適切にフォローすることで、育成後の社員のモチベーションを前向きに保てます。
後進を育成するにあたって、具体的な方法を3つ紹介します。
メンター制度とは、メンティー(支援の対象者)にメンターをつけて育成を支援する制度です。メンターは業務上の指示や指導は基本的に行いませんが、定期的な対話の機会を設けて、メンティーのメンタルを確認したり悩みの相談にのったりします。
メンター制度のメリットは、メンティーのモチベーションを維持できる点です。メンターとの信頼関係を構築していくなかで、メンティーは「自分は見守られ、応援されている」と感じることができます。組織の一員として認められているという実感は、帰属意識の向上に寄与します。
さらに、メンターとの信頼関係が深まることで、仕事やプライベートの悩みを自分一人で抱え込まずにいられるのもメリットです。社内の人間関係に課題があっても、自分を理解してくれるメンターの存在は心の支えとなります。
一方で、マッチングには配慮が必要です。メンターはメンティーと対等な立場で接し、緊張せずに本音を話すことができる人が望ましいでしょう。メンティーと信頼関係を作れる立場の人で、メンティーからも学ぶという姿勢を持てる人が適任です。
メンターについては、下記記事で詳しく解説しています。
後進を育成するには、実際の業務を通して学びを得ることが不可欠です。しかし、失敗を恐れて、挑戦する機会を与えられないケースも少なくありません。もちろん、後進にいきなり難しい業務を任せることは、不安や負担が大きくなってしまい、逆効果になる可能性もあります。
まずは小さな成功体験を積み重ねられるよう、難易度が低く、短期間で完結する業務を任せることから始めましょう。業務の進捗状況を定期的に確認し、相談しやすい関係性を築くことで、後進は安心して業務に取り組めるようになります。
また、後進が「新しい挑戦をしたい」という意欲を示したときは積極的にサポートし、挑戦できる環境を整えることが大切です。
企業は、後進に対して、業務に関連する資格取得を推奨し、積極的に支援する必要があります。資格取得を目指す過程で、後進は必要な知識やスキルを体系的に学ぶことができます。また、資格取得を通して、自信や達成感を獲得し、さらなる成長意欲を高めることも期待できます。
企業は、研修受講や受験費用を補助する制度を設けたり、資格取得のための休暇制度を導入したりするなど、後進が資格取得しやすい環境を整えることが重要です。
後進の育成に取り組む際は、以下のような点に注意しましょう。
後進の育成に取り組むときの注意点 |
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・育成によって伝える技術やノウハウは本当に必要か ・育成のゴールは明確になっているか ・育てた後進が離職しないような制度設計はできているか |
確かにこれまではベテラン社員独自の技術やノウハウが会社の事業運営に必要不可欠だったかもしれませんが、果たしてそれは本当にその後も会社にとって必要なものでしょうか。
「当たり前だ」と思うかもしれませんが、業界の技術やITテクノロジーは日進月歩です。ベテラン社員によって磨かれ守られてきた技術やノウハウは、他の汎用技術を導入すればより簡単に実現できる可能性はないでしょうか。
これまでのやり方や技術をそのまま後進に引き継ぐことが会社の今後の事業計画に適しているか、一度立ち止まって考えてみる必要があるかも知れません。
後進の育成は、ベテラン社員から何をどこまで伝授されれば達成なのかを明確にしておく、つまりゴールを設定しておくことも重要です。
なぜ特定の技術やノウハウを後輩社員に受け継いでもらう必要があるのか、何ができるようになれば良いのかを明確にせずに育成を初めてしまうと、ゴールが不明なために、いつまで経っても育成が終わらない、または必要な情報や技術がすべて伝わっていない段階で育成を終了してしまうなどの状況が発生してしまう可能性があります。
育成を始める前に、育成のゴールをどのような状態とするのかを明確にしましょう。
企業にとって後進の育成は未来への投資ですが、時間をかけて育成した人材が辞めてしまう可能性はゼロではありません。特に、成長意欲の高い若手社員ほど、より良い待遇や環境を求めて転職を考える傾向にあります。
企業は後進育成の成果を逃さないため、そして、社員が成長を実感し、長く活躍できる環境作りのために、効果的な制度設計を行う必要があります。
まず、社員のモチベーションを維持し、定着率向上を図るためには、努力が正当に評価され、報酬に反映される仕組みが不可欠です。明確な評価基準を設定し、多様な評価軸を設けることで、社員の多様な能力を評価できる体制を整えましょう。
そして、昇給や賞与、昇進など、評価結果を報酬に反映し、社員のモチベーション向上とさらなる成長意欲の促進につなげることが重要です。
風通しの良いコミュニケーションを促進し、意見交換や情報共有を活発化させ、柔軟な働き方やワークライフバランスを重視した制度設計など、働きがいのある環境づくりに取り組みましょう。
人材の育成は、先の見えない不確実な未来を進まなくてはならない中小企業の経営活動のなかにおいて最重要課題の一つです。後進の育成は社内で進められる取り組みではありますが、その取り組みの様子は顧客や取引先などの社外の人々の目にも触れる機会があります。
顧客や取引先の担当者などは、その企業の後進の育成についての実態を想像以上によく見ています。上司や先輩社員が後輩社員にどんな言葉遣いや態度でかかわっているかを少し観察していれば、すぐにその会社の後進の育成の方針や考え方を感じとることができます。
自社の経営理念、技術やノウハウを後輩社員にしっかり引き継ごうと自分の経験や技術を丁寧に伝えようとしている場合と、後進の育成という視点や概念を持たずに先輩である自分の都合を優先して情報を伝えるにとどまっている場合とでは、社外の人が受けるその企業に対する印象と信頼度が変わってきます。
その積み重ねがお客様や取引先からの支持につながることを知っていただき、今日からでも真剣に後進の育成に取り組んでいただければと思います。
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