目次

  1. 人材戦略とは
  2. ステップ1:経営課題と人材課題を見つめ直す
  3. ステップ2:人材戦略を検討する フレームワークを活用
    1. 第1の窓:中核人材採用型
    2. 第2の窓:中核人材育成型
    3. 第3の窓:業務人材採用・育成型
  4. ステップ3:人材戦略を実行する
  5. 人手不足への対応事例

 中小企業庁の「中⼩企業・⼩規模事業者⼈材活⽤ガイドライン」によると、多くの中小企業経営者が頭を悩ませている「売り上げが伸びない」「利益が⼗分に確保できない」「新事業への進出に不安がある」といった課題の根幹には、⼈材活⽤に適切に取り組めていことが影響している場合があるといいます。

 そこで重要となるのが、人材戦略です。人材戦略とは、企業の目標達成のために、必要な人材を「採用」「育成」「活用」するための計画のことを指します。

 人材戦略は人事部門の仕事と考えられてきましたが、人材こそが企業の競争力を左右する時代では、人材戦略は経営戦略と一体的に取り組むべき重要な経営課題です。

 では、採用のミスマッチをなくし、本当に自社の課題の解決に役立つ人材を採用できるよう、人材戦略と経営戦略を一体となって取り組む方法について紹介します。

 効果的な人材戦略を立てるには、まず自社の「経営課題」と「人材課題」を明確にする必要があります。チェックリストを活用しながら、自社が抱える課題を洗い出してみましょう。

課題1 営業が不十分/販路を拡大できない
課題2 商品・サービスの開発・改善ができない
課題3 技術力の向上に取り組めず、研究開発が進まない
課題4 生産管理が十分にできていない
課題5 財務体質を改善できない/価格転嫁ができない
課題6 デジタル化等による業務効率化やコスト削減の必要がある
課題7 人材確保に努めているが採用に至らない・定着しない
課題8 賃上げができない
課題9 人材育成が十分にできていない
課題10 事業を承継する後継者が見つからない

課題1 営業が不⼗分/販路を拡⼤できない/課題2 商品・サービスの開発・改善ができない/課題3 技術⼒の向上に取り組めず、研究開発が進まないのチェックリスト
課題1 営業が不⼗分/販路を拡⼤できない/課題2 商品・サービスの開発・改善ができない/課題3 技術⼒の向上に取り組めず、研究開発が進まないのチェックリスト
課題4 ⽣産管理が⼗分にできていない/課題5 財務体質を改善できない/価格転嫁ができないのチェックリスト
課題4 ⽣産管理が⼗分にできていない/課題5 財務体質を改善できない/価格転嫁ができないのチェックリスト
課題6 デジタル化等による業務効率化やコスト削減の必要がある/課題7 ⼈材確保に努めているが採⽤に⾄らない・定着しない/課題8 賃上げができない/課題10 事業を承継する後継者が⾒つからないのチェックリスト
課題6 デジタル化等による業務効率化やコスト削減の必要がある/課題7 ⼈材確保に努めているが採⽤に⾄らない・定着しない/課題8 賃上げができない/課題10 事業を承継する後継者が⾒つからないのチェックリスト
課題9 ⼈材の育成が⼗分にできていない/課題10 事業を承継する後継者が⾒つからないのチェックリスト
課題9 ⼈材の育成が⼗分にできていない/課題10 事業を承継する後継者が⾒つからないのチェックリスト

 これらの課題について、より具体的な問題点を掘り下げていきます。例えば、「取引先に営業はかけているが、受注を増やせない」という課題があるなら、さらに背景にある悩み「国内外で潜在的な需要がどこにあるか分析できない」「新規顧客獲得のマーケティング戦略が描けていない」など、繰り返し問いかけることで問題点を具体化していきます。

 さらに、それぞれの問題点の背景には、どのような人材関連の悩みがあるのかを分析します。「営業担当者向けの研修を実施しておらず、営業のスキルアップが図られていない」という問題であれば、営業担当⼈材の知識・経験の不⾜や、販路拡⼤に挑む意欲の⽋如が課題となっている可能性があります。

 このように、経営課題と人材課題を紐づけて分析することで、人材戦略の必要性と方向性が見えてきます。

 自社の経営課題と人材課題を把握したら、「どのような人材戦略を実行していくか」を検討します。⼈材戦略の⽅向性は、確保したい⼈材のタイプに応じて、⼤きく以下の3つに分けられます。

  1. 「中核⼈材の採⽤」
  2. 「中核⼈材の育成」
  3. 「業務⼈材の採⽤・育成」

 ⼈材戦略の⽅向性を決めるのに役立つのが、「3つの窓」という考え方です。求める人材のレベルと人財確保手法から整理する方法です。

⼈材戦略の検討における「3つの窓」
⼈材戦略の検討における「3つの窓」(経産省の中⼩企業・⼩規模事業者⼈材活⽤ガイドラインから)

 即戦力となる「中核人材」を外部から採用する方法です。短期間で課題解決を図れる、新たなノウハウを獲得できる可能性がありますが、採用ハードルは高く、求⼈像の明確化や、求める⼈材が「ここで働きたい」と思うような職場環境づくりが必要だといいます。

 既存社員を「中核人材」に育成する方法です。社員のモチベーション向上、企業文化の継承という点で有利ですが、育成に必要な時間を創出するための業務改善・効率化や、従業員が能⼒・スキルを⾼めたいと思うような⾵⼟、評価制度づくり等が必要です。

 定型業務を担う「業務人材」を外部から採用・育成する方法です。業務⼈材を採⽤・育成するためには、多様な働き⽅を実現するための働き⽅改⾰、社内⼈材による計画的なOJT・OFF-JTの導⼊等の職場環境づくりが必要です。

 人材戦略の方向性を決めたら、具体的に取り組むことを決めていきます。この記事では、中途採用と副業・兼業/シニア人材等の活用を例に紹介します。

 中小企業のおける中途採用は、企業の成⻑の肝となります。ミッション/ビジョン/バリューに共感してくれる⼈材を採⽤する共感採⽤等、経営⽅針に沿った戦略的な採⽤活動に取り組みましょう。

 具体的には、まず採⽤⽅法を⾒直してみましょう。

 新たな採⽤対象(学歴条件、第⼆新卒、外国⼈等)、採⽤⼿法(SNS、ダイレクトリクルーティング等)、採⽤時期(通年採⽤等)などに視野を広げ、⼈材の特徴を⾒極めながら、⾃社にあった採⽤戦略を検討しましょう。

 応募者は忙しいこともあります。内定までスピード感をもって対応できているか、内定・⼊社後のフォロー実施ができているかなど、今までの採⽤⽅法を⾒直して応募者をひき付けましょう。

 つぎに情報発信にも力を入れましょう。ホームページ・SNS等で採⽤に関する情報発信に努めましょう。加えて、普段から様々な発信をし続けることが、認知度向上には重要です。

 ガイドラインでは、支援先として以下を紹介しています。

プロフェッショナル⼈材戦略拠点に相談する
⾦融機関に相談する
ハローワーク・外国⼈雇⽤サービスセンターに相談する
⺠間の⼈材サービス(求⼈媒体・イベント等)を活⽤する
経済産業局が実施するセミナー・マッチングイベントを活⽤する
中⼩企業整備機構のハンズオン⽀援を活⽤する(経営戦略等の⾒直し)
よろず⽀援拠点・商⼯団体・中⼩企業診断⼠に相談する

 業務の企画・管理の能⼒、専⾨技術等の⾼度な知⾒や能⼒を有する⼈材は引く手あまたです。そこで、採⽤によって実現したいことを整理し、副業・兼業/シニア⼈材が活⽤できないか検討してみましょう。

 具体的に必要なことは、固定観念にとらわれず、⻑年培った経験・ノウハウが豊富なシニア⼈材、副業・兼業⼈材の活⽤など、⼈材層や働き⽅の視野を広げること。つぎに、取り組んでもらいたい業務の切り出しや稼働期間の設定などをあらかじめ検討すること。さいごに、経営者⾃⾝が⼈材と接し、企業の魅⼒、とりわけミッション/ビジョン/バリューを語り、共感が得られるようにしましょう。

 中小企業庁はガイドラインのほかにも、中小企業・小規模事業者の人手不足への対応事例集を公表しています。ツギノジダイ編集部でもこれまでの取材のなかから役立つ事例をまとめています。