目次

  1. 人材育成の考え方とその方法
  2. 人材育成で大切なこと 中小企業の事例を紹介
    1. 社員が自ら学びつづける組織をつくる側島製罐
    2. 「育成」を経営ビジョンに据えた愛媛FC
    3. 量販店を超える付加価値は「人」 超野球専門店CV
    4. 人材を定着させるために教育制度を整備した豊和工業
    5. 「人をコントロールしない育て方」の関屋リゾート
    6. 業務効率化へ70代従業員もタブレットを活用
    7. スポーツ界の「モデリング」を左官業の人材育成に応用
    8. 再雇用のマイスターが若手育成 技能伝承の仕組化

 企業が人材を育成する目的は、経営課題を克服できる人材を育成し、企業と社員の成長を促すことにあります。人材育成をするうえで重要なことは、意図説明、実施、フォローの流れを忘れずに行うことです。

 人材育成には、OJT、Off-JT、自己啓発の3つの手法があります。

 OJTは日常業務の中で行われる教育訓練で、即戦力を育成するために有効ですが、仕事を俯瞰しにくいというデメリットもあります。

 Off-JTは通常の仕事を一時的に離れて行う教育訓練で、多角的な視野を学ぶ機会となりますが、コストがかかります。

 自己啓発は社員が自らスキルや知識を身につけることで、会社はその促進をサポートすることが求められます。

 それでは、人材育成をするうえで大切なことについて、それぞれの手法を用いている中小企業の事例を紹介します。ポイントは以下の通りです。

  • 社員自ら学び続ける仕組みづくり
  • 人材育成の目標を明確に掲げる
  • スキルアップに必要な要素を明確化する
  • ベテランから技術を学べる仕組みづくり
  • 教育制度を整える
  • 一人ひとりの理解度に合った進め方を心掛ける

 このほか、厚生労働省は「地域で活躍する中小企業の採用と定着 成功事例集」を作成し、採用や定着に成功している20社にヒアリングし、成功事例を冊子(PDF方式)に取りまとめています。

自己申告型報酬制度の宣言シートの見本(側島製罐提供)

 愛知県にある創業117年の缶メーカー「側島製罐」6代目の石川貴也さんは、代表取締役に就任した2023年、「社長」という肩書をなくして、みんなで経営する自律分散型の組織となることを掲げました。

 2023年から「自己申告型報酬制度」を採り入れ、社員それぞれが自分の役割(学びたいことも)と報酬を宣言しています。

愛媛FCのフィロソフィーブック

 2023年のサッカー・Jリーグ3部(J3)で優勝し、3年ぶりのJ2復帰を決めた愛媛FC(松山市)。「育成」を経営ビジョンに据えて強化部との連携を深めたり、スポンサー開拓の幅を地元以外に広げたり、クリエーティブ人材の参加で情報発信力を高めたり、矢継ぎ早の改革を推進しています。

野球用品のメンテナンス技術の高さを売りにしました

 千葉県鎌ケ谷市の超野球専門店CVは、バットやグラブなどの野球用品に特化し、豊富な品ぞろえで顧客を全国に広げています。

 3代目は、大手量販店に対抗するため、野球用品への特化を加速。採用は高校野球経験を必須とし、接客だけでなく野球用品の修理・加工ができるように指導し、店の売り上げを黒字に転換させました。

整備した人材育成制度・キャリアパス(豊和工業提供)

 地上にある電線を地中に埋める、土木工事の施工管理を専業とする「豊和工業」(東京都大田区)。「仕事は現場で覚えるもの」という考えが元々根強く、研修もそこそこに現場に即配属していました。

 しかし、人材を定着させるために教育制度づくりに取り組みます。

真剣な中にも笑顔が見られる社内研修

 1965年創業の「関屋リゾート」(大分県別府市)は、温泉の種類が豊富で湧出量が日本一の別府市で、絶対的個性の旅館やホテル3施設を展開する企業です。人材不足や離職率が高い旅館ホテル業界の中でも、離職はほとんどありません。

 そこには「人をコントロールしない育て方」という取り組みがありました。

70代のスタッフもタブレットを使いこなしている(明治クッカー提供)

 明治クッカー(千葉県市川市)は明治の牛乳やヨーグルト配達する会社です。2代目社長は、解約数が増えるなどの課題に直面しながらも、従業員向けの勉強会などで改善を繰り返し、顧客数は事業承継当時の10年前と比べて約6倍に。年間売上高は約7倍になりました。

 業務効率化のため、Google Workspaceを活用。

 1人でも例外をつくると業務の生産性は下がってしまうため、いかに業務が楽になるかを説明して、タブレットの使い方のフォローもしました。いまでは、70代の従業員もタブレットを使いこなしています。

「モデリング」によるトレーニング風景(原田左官工業所提供)

 建設業界では、人手不足や職人の高齢化が深刻な課題となっています。そんななか、東京都文京区の原田左官工業所は、スポーツ界で採り入れられている人材育成システムや女性職人の活用、働きやすい環境づくりに取り組んでいます。

マイスターから指導を受ける若手従業員(同社提供)

 埼玉県羽生市のキットセイコーは、人工衛星など特殊な用途で使われるねじの製造に特化したメーカーです。

 3代目社長は、マイスター制度による技能継承や工場内の整理整頓、働き方改革を進めて家業の課題解決を図り、小惑星探査機はやぶさやF1のレーシングカーに使われるねじの受注につなげる土台を作りました。