目次

  1. 業務委託とアルバイトの違い
    1. 労働者性の有無
    2. 社会保険の種類
    3. 対価の支払い方
    4. 最低賃金の適用
    5. 契約時の書類
    6. 【早見表】業務委託とアルバイトの違い
  2. 企業が業務委託契約を結ぶメリット・デメリット
    1. 業務委託契約を結ぶメリット
    2. 業務委託契約を結ぶデメリット
  3. 企業がアルバイトを雇うメリット・デメリット
    1. アルバイトを雇うメリット
    2. アルバイトを雇うデメリット
  4. 業務委託とアルバイトを使い分けるポイント
    1. 業務の性質
    2. かけられるコスト
    3. 業務の継続性
  5. 業務委託とアルバイトに関する注意点
    1. 業務委託に指示命令や勤怠管理をしてはいけない
    2. 安易にアルバイトを業務委託に切り替えない
    3. 契約時に本人へよく説明する
  6. 業務委託とアルバイトの違いを知って使い分けよう

 業務委託とは、依頼された成果を納品したり業務を遂行したりすることで報酬を得る個人事業主やフリーランスのことを言います。一方、アルバイトは雇用主の指示を受け、仕事をおこなった時間の対価として賃金を得る労働者のうち短時間で働く人のことを言います。

 そのほか、違いのポイントを5つ解説します。

 アルバイトは、企業の指示命令を受けて仕事をおこないます。アルバイトの勤怠管理も企業に義務付けられているため、労働状況を把握し、残業が発生すれば残業手当も支払います。アルバイトでも、ただ労働時間が正社員に比べて短時間というだけで「労働者」に違いありません。

 業務委託は、指示命令を受けずに自身の裁量で仕事を進めます。企業による勤怠管理もありません。このことを「労働者性が無い」とも言います。労働者性が無いため、アルバイトと比べて労働各法が適用されず、深夜手当も残業手当、有給休暇も発生しません。

 社会保険は、広義で国民健康保険や国民年金のほか、協会けんぽや健康保険組合が運営する健康保険・厚生年金保険・雇用保険のことを言います。

 協会けんぽや健康保険組合が運営する健康保険・厚生年金保険・雇用保険に加入していると、傷病のための欠勤などについて手当金が申請できたり、年金が手厚くなったり、育児・介護休業の給付金が受給できたりします。

 アルバイトは、労働時間や企業規模によって、健康保険・厚生年金保険・雇用保険に加入することもあります。一方、業務委託は、社会保険ではなく市区町村が窓口となる国民健康保険・国民年金に加入します。

 業務委託には、成果の対価として「報酬」を支払います。企業は所得税を天引きした報酬を支払い、国民健康保険料や国民年金、住民税は業務委託者自身で納付します。

 アルバイトは、労働の対価として「賃金(給与・ボーナス)」を得ます。企業は賃金から所得税や社会保険料、住民税を天引きしたうえで支払います。一部を除いて年末調整をおこない、源泉徴収票を交付する必要もあります。

 業務委託は、対価として受け取るのが報酬であり、最低賃金の適用はありません。また、どんなに時間をかけたとしても基本的には当初の契約に基づいた報酬が支払われます。

 アルバイトは、都道府県毎に最低賃金が設けられています。試用期間などであっても最低賃金以上の支払が必要となり、歩合制などで成果がなかったとしても労働時間に応じた賃金を企業は支払わなければなりません。

 業務委託は、契約時に「業務委託契約書」や「業務請負契約書」といった業務内容や報酬、秘密保持事項などについて定めた書類を取り交わすのが一般的です。

 アルバイトの場合は、労働条件通知書を明示したうえで「雇用契約書」や「労働条件通知書」にサインするのが一般的です。

 このように、それぞれ契約時に交わす書類名や記載内容が異なります。ただし、トラブルとなってしまったときには、契約書の名称によらず契約書の内容や業務実態で判断されます。

 業務委託とアルバイトの違いについて、一覧表にまとめました。

項目 業務委託 アルバイト
労働者性の有無 なし あり
社会保険の種類 国民健康保険(業界によっては健康保険組合)
国民年金
健康保険
厚生年金保険(企業によってはさらに企業年金制度)
対価の支払い方 所得税天引き後に報酬を支払う 所得税・住民税・社会保険料天引き後に賃金を支払う
最低賃金の適用 なし あり
契約時の書類 業務委託契約書
業務請負契約書 など
労働条件通知書
雇用契約書

 企業が業務委託契約を結ぶメリット・デメリットについて見ていきましょう。

業務委託契約を結ぶメリット 業務委託契約を結ぶデメリット
・高度・専門的なスキルを利用できる
・人件費がかからない
・必要なときだけ依頼できる
・コミュニケーションコストがかかる 
・情報漏洩対策が必要 
・適した人材が見つからないこともある

 業務委託は、自社にはない高度・専門的なスキルを持つ人材に業務を依頼できる点がメリットです。業務委託で支払う報酬は一般的に「外注費」として計上され、人件費がかからず、人を雇用するよりもコストを抑えられます。

 短期・単発のプロジェクトなど、必要なときだけ働いてもらうことができるのも業務委託のメリットです。

 業務委託には、業務内容や成果物を正しく伝えなければなりません。であるのに指示命令はできないため、齟齬やトラブルがおこることもあり、コミュニケーションコストがかかります。業務中に知った情報について、漏洩対策を講じる必要もあります。

 また、雇用している訳ではないので、欲しいときに適切な人材が見つからない・依頼を受けてもらえないというリスクもデメリットとして挙げられます。

 続いて、企業がアルバイトを雇うメリット・デメリットについて見ていきましょう。

アルバイトを雇うメリット アルバイトを雇うデメリット
・教育訓練や人材育成ができる
・業務ノウハウを蓄積できる 
・信頼関係を構築できる
・入退社の手続きが必要
・勤怠管理が必要
・人件費がかかる

 アルバイトを雇用すると、きめ細やかな指示ができたり、定着を期待して教育訓練や人材育成したりできます。継続して業務に就かせることで、ノウハウも自社内に蓄積されていきます。

 安定した雇用を通して信頼関係も構築されるので、シフト調整など働き方についても相談しやすいのもメリットです。

 雇用保険や社会保険は、労働時間などの要件を満たしていると加入しなければなりません。アルバイトであっても雇用保険・社会保険に加入することは多く、その場合雇用保険加入手続き・社会保険加入手続きをしなければなりません。勤怠管理も義務付けられています。

 そして、正社員と同様に、労働時間が1日8時間を超えた場合には残業手当、22時から5時の間に働けば深夜手当といった割増手当の支払が必要となり、人件費がかかります。

 業務委託とアルバイトを使い分けるポイント3点を解説します。

業務委託とアルバイトを使い分けるポイント
・業務の性質
・かけられるコスト
・業務の持続性

 業務が「都度指示が必要か」「成果物が定まっているものか」といった観点から、性質に合わせて使い分けることがポイントです。

 臨機応変な対応が必要な接客などの業務は、都度指示することができるアルバイトが適していることが多いでしょう。

 一方、成果物が決まっている資料作成などの業務は業務委託が適しています。業務委託を通じて、これまで自社には無かった知見やテクニックを得られることもあります。

 業務に対して、コストを抑えたい・予算上限が決まっている場合には成果報酬型の業務委託がよいでしょう。

 アルバイトだと労働時間に応じて賃金を支払うため、労働時間が多くなればなるほど賃金も多くなり、予算どおりにいかないこともあります。また、社会保険に加入している場合は、会社負担分の社会保険料や教育訓練費用といった福利厚生費がかかってきます。

 業務が継続的にあるときには、長期目線で見るとアルバイトの方が結果的にコストが抑えられることもあります。アルバイトの場合、ノウハウが蓄積されるというメリットもあるため、継続的にある業務の場合はアルバイトの活用を先に検討しましょう。

 一方、年に数回の業務や短期的プロジェクトの場合は業務委託がおすすめです。

 業務委託とアルバイトは、完全に切り分けて管理することが重要です。注意点を3点解説します。

業務委託とアルバイトに関する注意点
・業務委託に指示命令や勤怠管理をしてはいけない
・安易にアルバイトを業務委託に切り替えない
・契約時に本人へよく説明する

 業務委託者に指示命令や勤怠管理をして、実態として雇用されていると判断された場合、企業は遡及して社会保険の加入手続きをおこなうほか、次の金額を計算して支払う必要があります。

  • 社会保険料
  • 残業手当・深夜手当

 また、請負契約と契約しているにもかかわらず、指示命令や勤怠管理をおこなうと労働者性が認められ「偽装請負」に該当することがあります。偽装請負となった場合は、職業安定法64条に則り、企業に対して1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される恐れがあるため注意が必要です。

 指示命令や勤怠管理をしても、ただちに雇用されている・労働者性があるとされる訳ではなく、実態をみて判断されます。もし、作業開始時に連絡がほしかったり、進捗を求めたりしたい場合には、契約時に相談して明確にしておくようにしましょう。

 社会保険料が負担なのでアルバイトを業務委託に切り替えたい、という声を聞きます。アルバイトからしても、それまで社会保険料や住民税、所得税がひかれていた給与が所得税のみが天引きされた報酬となり手取り金額が増えるため、了承するアルバイトもいます。

 ただし、アルバイトが業務委託のフリーランス・個人事業主となると、指示命令ができなくなります。もし業務委託に変更したうえで従前同様に指示命令のもと働かせていた場合、上述のように遡及して社会保険加入手続き・社会保険料・各手当支払いなど煩雑な事務手続きをおこなわなければなりません。偽装請負のリスクもあります。

 また、元アルバイト人材が外部へ流出する可能性も多大にあります。アルバイトの社会保険料が負担になった場合でも、安易に業務委託に変更するのではなく、先にシフト量の調整などを本人と相談するようにしましょう。

 Uberや配送業務委託が生活に浸透し、個人事業主やフリーランスは身近なものとなりました。隙間時間を活用したバイトマッチングアプリも流行しており、労働者側の「雇用されているアルバイト」か「業務委託のフリーランスか」という垣根は曖昧になっていると感じます。

 バイトマッチングアプリでは、業務委託とアルバイトが混在しているものもあるため、企業がこういったサービスを利用する際には労働者に対して、あなたは業務委託/アルバイトどちらであるか、ということをしっかり説明するようにしましょう。

 明記してあっても労働者が理解していない可能性もあるため、記載内容がわかりやすいよう工夫したり、労働条件通知書や業務委託契約書といった契約時の書類を事前に作りこんだりしておくのもよいでしょう。

 業務委託とアルバイトには社会保険の種類や最低賃金の有無などの違いがありますが、大きな違いは「労働者性の有無」という点です。業務委託契約であるのに指示命令や勤怠管理をおこなうと、雇用されている労働者とみなされ遡及して社会保険加入の手続きや手当の支払が必要となったり、偽装請負と判断され1年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科されたりする恐れがあります。

 注意点を把握したうえで、業務委託とアルバイトを適切に使い分ければ、コストを抑えつつ高度専門的なスキルを活用できたり、継続的かつ柔軟に働いてくれる人材を確保できたりします。それぞれの違いを正しく知ったうえで、業務の性質やコストから使い分けられるとよいでしょう。