物流包装の「KAIZEN」を社外に拡大 TSK4代目が挑む事業再構築
松田珠子
(最終更新:)
1939年創業のTSK(富山市)は、自動車や電子部品などの包装サービスを手がけ、物流を下支えする事業を展開しています。20年にわたって、1人あたり月4件、年間2500件超の「KAIZEN」(カイゼン)活動に取り組んでいます。元フラメンコダンサーという経歴を持つ4代目の高木亮太さん(39)は、2022年に父の後を継ぎました。工場のショールーム化や、社外の物流課題をコンサルティングするサービスを立ち上げるなど、KAIZENを社外へと広めながら、事業再構築に挑んでいます。
物流のコーディネートを担う
TSKは富山製紙所として創業し、製袋業としてダム建設や戦後の復興事業に必要なセメントの袋から、化成品の原材料の袋へと展開。1990年代にはエレクトロニクス製品の緩衝材事業に進出しました。包装するアイテムは現在、自動車部品、電子機器、日用品にまで広がっています。
2019年、TSKに社名変更し、メーカー向けに物流のトータルコーディネートを手がけています。社名には「とってもすてきな会社」という意味を持たせました。
事業内容は包装資材の提案、台車やコンベヤーなどマテハン機器の設計・製造・販売、配送の代行、物流関連システムの提案など多岐にわたります。年商は約33億円、従業員数は111人(2024年5月時点)です。
高木さんが子どものころ、父・悦郎さん(現会長)が社長でした。「父は朝早く出て夜遅く帰り、土日にも会社にどっぷりでした。時々、僕と妹も連れて出社し、2人で中庭の木に登って遊んでいたのを覚えています」
祖母からは冗談まじりに「4代目!」と呼ばれたものの、父から仕事の話をされた記憶はなく、継承を考えたことはありませんでした。ただ、印象に残る中学生時代の思い出があります。
「夏休みに父の書斎にあったビジネス本『ビジョナリーカンパニー』(ビジネス思想家・ジム・コリンズの代表作)を読んで、読書感想文を書きました。自分なりにビジネスや経営に興味を持っていたのかもしれません」
フラメンコダンサーから転身
高木さんは慶応大学時代からフラメンコにのめりこみました。2009年に国内コンクールで優勝すると、プロダンサーとして、日本とスペインを行き来します。
しかし、目標だったスペインのコンクールで予選落ちしたタイミングで、父から『そろそろ帰ってこい』と連絡がありました。人生の岐路で選んだのは、家業への入社でした。
「事業承継は選択肢の一つでしたが、絶対に継がなければという義務感があったわけではありません」
「自分がフラメンコで実現したかったのは、より大きい舞台に立つことでした。無料より1万円を払っても見たいと思える公演の方が価値があります。ただ、『観客動員数×客単価』が売り上げと考えると、一人のダンサーが出せる数字よりも、経営者としてチームを作るほうが、社会に与えられる価値や影響は大きいと思い至り、TSKへの入社を決めました」
年2500件のKAIZEN
TSKの強みは、2004年から始めた独自の「KAIZEN」(カイゼン)にあります。生みの親は父・悦郎さんです。
カイゼンといえば、業務効率化で生産性向上を目指すトヨタ自動車に端を発しますが、TSKはその意味合いが少し異なるようです。
「TSKの場合、不況で工場の雰囲気が悪くなったときに、社員たちにどうやりがいを持ってもらうかという観点からスタートしています。社員たちが自分で考えて職場をより良くする中で、やりがいを持ってもらうところが主になっています」(高木さん)
約20年にわたり、1人あたり月4件、年間2500件を超えるKAIZENを継続しており、企業文化となっています。「KAIZEN」は2022年に商標登録もしています。
高木さんが入社した2013年は、「改善実施報告」が社内の文化として根付いたころでした。当初、「月4件の提案は大変だな」と思ったものの、自身も提案をする中で、KAIZENがTSKの土壌となっていると感じました。
花壇づくりが社長賞に
社内では、室内の清掃からシステムの効率化まで、大小さまざまなKAIZEN提案が出されます。提出者には全員に褒賞があり、月2回、「社長賞」や「NO.1賞」などで、発案者をたたえています。
雑草が茂っていた工場(石川県かほく市)の敷地に花壇を作って、きれいにしたという取り組みも社長賞に選ばれました。主導したのは、ガーデニング好きの社員だったといいます。
高木さんは「最近では(富山市の)本社でも有志を募り、『花笑みガーデン』と名付けて花壇の整備に取り組んでいます。各社員の好きな分野を生かしながら、現場改善に関する様々なノウハウが社内に蓄積する。それが社風や基盤になっています」といいます。
コロナ禍では、TSKで開発したフェースシールドや防護服、ついたてなど、包装資材を応用した感染対策商品が、1億円の売り上げを計上しました。
フェースシールドは、会社にある素材で世の中の役に立てないかと若手社員を中心に企画し、試作を重ねて生みました。これもKAIZENの土壌があったからといえます。
ベトナム工場をゼロから立ち上げ
高木さんは入社した後、工場勤務と東京での営業を半年ずつ経験。その後、「スペインにも行っていたし、海外は慣れているだろうと」(高木さん)、ベトナムに1人送り込まれ、ゼロから工場の立ち上げに奔走しました。
用地候補として案内された先が廃虚のような場所だったり、完成して受注体制が整ったところで初年度に予定していた仕事が頓挫したり。いくつもの試練がありました。
「最初は社員5人ほどで工場の掃除から始めました。予定していた仕事がなくなったので営業にもまわり、そちらから先に仕事が入りました」
初年度は売り上げが上がらず苦しい状況でしたが、2年目から注文が入るようになり、5年ほどで黒字化を果たしました。「工場が軌道に乗ると、生産性やロスの削減を意識するようになり、現地でもKAIZENを導入しました」
ベトナムで新規顧客の開拓が進んで成長期に入ると、高木さんは帰国し、2022年、社長に就任しました。
フラメンコの経験が「共創」に
社長就任時、高木さんが決めた経営テーマは「共創」です。そのために掲げたのが、次の3項目でした。
・本音で話そう
・規律と自律
・顧客価値
高木さんは、ある社員から「会長はリーダーシップを持って率いるリーダー像ですが、社長(高木さん)の場合は社員とフラットにパートナーとして仕事している感じがします」と言われたことがあります。
社員とフラットな目線で話す姿勢は、フラメンコで得た経験の影響が大きいといいます。
「フラメンコは、ギタリストや歌い手と一緒に舞台を作りあげていきます。ベテランも新人も、舞台の上では対等なパートナーなんです。バシッとかみ合えば楽しく、クリエーティブな空間になり、お客さんも巻き込んでいける。まさに『共創』のイメージです」
工場をショールーム化
高木さんは就任と同時に、第3次中期経営計画をスタート。その核となったのがKAIZENを軸にした事業再構築です。
具体的には、工場をショールーム化して顧客が見学できる空間にしました。そのため、工場内に散らかる工具を1カ所に収納することから始め、それに関連したアイデアに、社長賞を贈りました。
社外からの工場見学希望が増えたことで、TSKのKAIZENを社外へと広める機運が高まりました。
「工場見学に来たお客様には、社員が自分で考えたKAIZENを紹介するようにしました。お客様の悩みを解決する提案を強みとする、『KAIZENカンパニー』を目指したのです」
高木さんは2023年、新サービスとして「KAIZEN BANSOパック」を立ち上げました。顧客の物流現場が抱える課題の整理、物流コストの見える化、改善手法の提案などを行うサービスです。
具体例としては、自動車部品メーカーの工場における工具置き場の省スペース化の実現、作業効率をアップするための台車の導入などが挙げられます。
そのために取り入れたのがデザイン思考です。「共感」「定義」「概念化」「試作」「テスト」という五つのプロセスで課題解決に導くデザイン思考は、TSKが目指す方向性に通じるといいます。
現在、KAIZENのコンサルティング事業を一般社団法人として独立させ、新たなステージに入りました。
工場見学に来る顧客のニーズは人材育成が中心といいます。工場で働く従業員が自発的に改善に向けた行動を取るようにするため、TSKが人材育成のワークショップを共同企画する試みも始めています。
「工場を見学して終わりではなく、どんなKAIZENを持ち帰っていただけるかが大切です。今後はワークショップなどの付加価値を事業化したいと考えています」
世界のモノづくりを円滑に
包装業界は紙袋などの需要が減少し、事業構造の転換が求められています。TSKも事業を取捨選択している段階です。次の海外展開として、メキシコに法人設立をする準備を進めています。
高木さんは「世界のモノづくりを円滑にすることで、豊かさの実現に貢献したい」と意欲を燃やします。
国内では「物流の2024年問題」で、労働環境の改善や、業務効率化が一層求められています。TSKもデッキラックによる積載効率改善など、荷物の輸送効率を高めるための具体策を示し、導入事例を積み上げています。
TSKの看板には「現場の物流デザイン」という文言が入っています。「現場の物流にまつわるリアルな課題を、人に寄り添い、デザイン思考でKAIZENする会社として、今後情報発信の仕組みも構築していきたいです」