行動変容とは?従業員へ行動変容を促すアプローチや具体例を紹介
木村千恵子
(最終更新:)
行動変容とは(デザイン:苗代澤真祐)
行動変容とは、簡単にいうと人の行動が変わることです。企業において組織の成長や生産性向上には従業員の行動変容が必要ですが、人間の行動を変えることは簡単なことではありません。行動変容を促すためには、影響する要因を見つけ、外的要因を整備したり、行動変容に必要な知識と技術の習得をしたりすることが必要です。この記事では、行動変容とは具体的にどのようなことを指すのか、なぜ組織にとって重要なのか、どうすれば従業員の行動変容を促すことができるのか、その具体例を紹介します。
行動変容とは?
行動変容とは、端的に言うと人の行動が変わることですが、単に表面的な行動の変化だけでなく、考え方や習慣も含めたより深いレベルでの変化を指します。例えば、従業員の働き方を変えたり、新しい製品やサービスを導入したりするなどです。
他にも、喫煙や飲酒の習慣を変えたり、運動習慣を身に着けたりするなどの健康面での行動変容や、学生の学習意欲を高めたり、新しい学習方法を身に着けさせたりするなどの教育分野などさまざまな分野で行動変容が求められています。
行動変容が難しい理由
行動変容は、難しいと感じる人も多いでしょう。なぜなら、「人は変わりたい」という気持ちも無意識に働いている「現状を維持したい」という気持ちを持っているためです。
その他にも、行動変容が難しい理由にはいろいろな要因がありますが、大きく分けると心理的な要因と環境的な要因が考えられます。
心理的な要因には、例えば以下のようなものがあります。
現状維持バイアス |
脳科学的に知られているバイアスで、人は現状を維持しようとする傾向があり、変化を伴う行動に対して抵抗を感じるといわれている。 |
恐怖 |
新しい行動によって失敗することや周囲から評価されないことを恐れることがある。 |
習慣 |
人の行動の多くは習慣から成り立っているため、長年続けてきた習慣を変えることは、神経回路を書き換えるようなものであり、多くの場合はとても困難。 |
低い自己効力感 |
前述した恐怖や習慣の影響も関係するが、「自分にはできない」という思い込みが、行動変容の妨げになることも少なくない。 |
一方、環境的な要因としては次のようなものがあります。
社会的な圧力 |
周囲の人々の言動や価値観、場合によっては特定の慣習や文化の影響を強く受けることで自分の行動に影響を与える。 |
物理的な環境 |
長年過ごしてきた物理的な生活環境や仕事環境の特徴により、新しい行動を起こす妨げとなる場合がある。 |
情報不足 |
行動変容を起こすのに必要な知識や情報が不足している場合がある。 |
モチベーション |
行動変容の目的や目標があいまいな場合や現実的な場合や、サポートが不足していることなども行動変容を起こすモチベーションの低下になる。 |
行動変容をサポートする必要性
行動変容には多くの課題要因があるため、従業員個人の努力だけでは行動変容はなかなか実現できません。身近な例は、禁煙やダイエットなどです。1人で行動変容するのは困難で時間も要します。そのため、医者や家族などの周囲の人間が本人をサポートすることに価値が生まれます。
これは、ビジネスシーンに置き換えても同様です。従業員個人の行動変容を促すには、組織的に従業員をサポートする体制や取り組みが必要です。サポートする方法はさまざまありますが、まずは小さなことから始めましょう。例えば、部下が主体的に動けるようにするために、指示の出し方を工夫してみたり、部下の主張を最後まで聞き入れてみたりするなどです。相手の主体性を大切にし、あくまでサポート側に徹するのが重要です。
行動変容の5つのステージモデルとアプローチ方法
行動変容を促すときは、まず行動変容の仕組みを理解することが重要です。
一般的に、人が行動変容を起こすときには次の5つのステージを通るとされています。これを、行動変容の5つのステージモデルといいます。
ステージモデル |
簡単な説明 |
アプローチ方法 |
無関心期(前熟考期) |
問題を認識していない状態で、行動を変える意思は全くない状態。 |
問題に対する気付きを促し、行動を変えることに対する抵抗感を減らすため、行動変容を実現することのメリットとデメリットの両方を正直に伝える。 |
関心期(熟考期) |
問題を認識した状態で、行動を変えることに関心を持ち始めたものの、まだ何も行動の計画をしていない状態。 |
問題に対応するために行動を変えることのメリットとデメリットを比較して、具体的な事例と共にデメリットの克服法なども提示して具体的に検討してもらう。 |
準備期(準備期) |
行動を変えるために具体的な行動の計画を立て始めた状態。 |
行動計画の立て方や行動するための目標を設定する具体的なステップをサポートし、目標達成の妨げになりそうな要因を予測して対策を考えてもらう。 |
実行期(行動期) |
行動計画に基づいて実際の行動を始めた状態。行動自体が習慣化していない段階のため、この時期には挫折のリスクが高いとされている。 |
行動計画に基づいた行動を継続できるように支援する。行動状況を記録して可視化し、小さな成功体験を積み重ねて自信をつけてもらう。 |
維持期(維持期) |
行動が習慣化して安定している状態。しかし、油断するとすぐに元の状態に戻ってしまう危険性があるとされている。 |
行動の継続をサポートし、必要に応じて目標を長期的な視点で見直し、行動の継続によって生じたストレスを軽減する方法を探す。 |
ビジネスシーンで行動変容を促すポイント
ビジネスシーンで行動変容を促すポイントについて、特に重要な3つに絞って解説します。
ポジティブで明確な目標を設定する
どのような行動変容を求めるのか、目標は明確でポジティブな目標であることが重要です。同じ明確な目標であっても、ネガティブまたは否定的なニュアンスの目標ではなく、達成することによるメリットを想像しやすい目標を設定することが行動を継続するモチベーションに影響します。
部下が取り組みやすい方法とコミュニケーション手段で説明する
行動変容に取り組んでほしい部下には、できるだけその部下が取り組みやすい方法とコミュニケーション手段を使って説明します。変化を期待する行動について部下がその重要性と目的を理解していなければ、望ましい行動を起こすことは難しいでしょう。
行動変容につながるチャレンジ行動を起こしやすい職場環境を整備することで、新しい行動を促せます。例えば、従業員に新しいツールを使用してもらいたい場合、必要な手順を分かりやすく示す、すぐに使用できる物理的な環境を整えることなどが考えられます。このように部下が適切に理解できる方法と手段を検討することが大切です。
行動計画の作成と実行の継続を組織全体で支援する
行動変容のための計画と実行については、組織全体で継続的に支援することも重要です。周囲の支援があれば、その継続に対する本人のモチベーションは大きく変わります。
また、従業員に対して組織全体が目指すべき方向を示し、従業員一人ひとりの行動変容が組織全体の成功につながる点を明確に伝えることで、それぞれのモチベーションを向上させます。
従業員の行動変容を促す施策の具体例
従業員の行動変容を促したいと考える人に向けて、具体的な施策の例を紹介します。
OJTや1on1ミーティングの導入
OJTや1on1ミーティングを行い、従業員の行動変容への取り組みの経過や成果について、報告を受けるのもいいでしょう。従業員の成果だけではなく、従業員が抱える不安や疑問点を解決できるきっかけにもなります。
この施策は、行動変容に取り組むために極端な環境の変化を必要としないため、従業員は日々の業務の中で大きな心理的な抵抗を持たずに取り組めます。メリットとしては、行動変容への取り組みによる大きなコストを必要とせず、比較的短期間で実行に移すことができる点です。
評価制度・表彰制度の導入
目標の達成度や成果に応じた評価制度や表彰制度を導入する施策です。従業員が取り組む行動変容の重要性や組織全体への影響度により、通常の評価制度とは別に成果に応じたインセンティブを与えるという場合もあります。
この施策のメリットは、成果に応じて期待できる評価や報奨の内容によっては従業員のモチベーションに大きく影響を与え、行動変容を起こしにくい課題に対しても、従業員のチャレンジを期待できる点です。
筆者が支援したある企業では、従業員が受け身の姿勢で業務に取り組む傾向があったため、社長が従業員に対して組織や顧客へのサービスにとってより好ましい行動を主体的に取ることを求めていました。
そこで、それまでは上司と社長のいわば一方的な指標や基準に基づいた評価制度を見直しし、どのような行動や成果がプラスの評価につながるのか、逆にどのような言動や態度がマイナスの評価となるのかの例を示し、望ましい行動変容を明確にしました。
評価の基準を明確にしたことで従業員のモチベーションが明らかに上がり、結果として望ましい行動変容を促すことができたのです。
定期的な集合研修の実施
昇進や昇格を伴う職務の変更では、これまでにない役割や職責を担う必要が生じます。その分、職務相応の行動変容が求められるため、対象者およびその候補となる従業員に対して定期的な集合研修を実施するという施策です。階層別研修や管理職研修などがそれにあたります。
この施策を実施することで、組織内で定期的に集合研修が実施されているという認識が従業員の中で自然に醸成されます。そのため、行動変容の必要性について、従業員に急に特別なコミュニケーションをとる必要がなく、自然な流れで行動変容に取り組んでもらうことが期待できるメリットがあります。
社内SNSの導入
行動変容を実践するには、新しい行動を理解して正しくその行動を繰り返す必要があります。行動の内容が複雑な場合や難易度が高いものである場合、自分一人では効率よく新しい行動を繰り返すのは難しいかもしれません。
そのような場合でも、社内SNSを活用しタイムリーに上司や先輩に気軽に質問できたりアドバイスをもらえたりすることで、困難な状況に陥っても新しい行動を継続しやすくできるのがこの施策のメリットです。
行動変容を促して企業の生産性を向上させよう
企業やチームの行動を変えるための実践的な方法には、さまざまな手法やツールを活用できます。一人ひとりがモチベーション高く行動変容に取り組めるよう、自社の環境や従業員の特性にあった手法を検討してください。ポジティブな目標を掲げて実践を支援し、組織の生産性の向上をはかりましょう。