目次

  1. 車体整備とは
  2. 適切な価格交渉を促進するための9つの指針
    1. 自社の責任と考えによる見積の作成
    2. 人件費等の上昇を考慮した工賃単価の提案
    3. 作業時間の実態を踏まえた価格請求
    4. 「見積書・領収書」・「作業記録簿」の標準様式の使用
    5. 損害賠償における代車費用の支払いに関する考え方の理解
    6. 透明性・公平性が疑われないような請求・説明
    7. 損害保険会社との交渉における留意点
    8. 協定に時間を要する場合の対応
    9. 依頼者に対する適切な情報提供
  3. 日本損害保険協会もガイドライン

 車体整備とは、車のキズやへこみ、車の骨格のゆがみを修正する仕事で、自動車鈑金塗装とも言われています。

 国交省の公式サイトによると、車体整備業界には、独特の商慣行があります。自動車ユーザーが車体整備事業者と修理請負契約を結び、交通事故の場合には、自動車保険を利用して費用を確保することが一般的です。

 保険契約者であるユーザーは多くの場合、保険金の範囲内での修理を希望するため、「修理作業を請け負う車体整備事業者」と「保険金を支払う損害保険会社」が直接交渉し、修理価格を決定する慣例となっています。

 しかし、公正取引委員会の特別調査でも、「労務費の転嫁率が低い受注者(転嫁率 10%未満)」の割合が最も高い業種であることが示唆されており、価格設定における労務費の転嫁が不十分であることが明らかになっています。

 さらに、車体整備事業者による請求根拠の説明と、損害保険会社による請求に応じられない理由の説明の双方に不足があり、ミスコミュニケーションにつながっているといいます。

 また、車体整備事業者と損害保険会社の間の日頃の対話や協定に向けた交渉において、保険契約や賠償実務における原状復旧の考え方などに関する損害保険会社の説明及び車体整備事業者の理解が不足し、認識に差異が生じている。

 車体整備の課題を解決するため、国交省は、車体整備事業者が損害保険会社と価格交渉を行う際に、請求の透明性・公平性を確保しつつ、労務費の転嫁を含めた適切な価格交渉を行うために「車体整備事業者による適切な価格交渉を促進するための指針」をまとめたものです。

 指針の基本的な考え方として、車体整備事業者は、高度な技能や大規模な設備投資を考慮した適切な技術料を設定する必要があるとしています。

 一方、その作業内容・工程は修理後の外観からは容易に確認できないため、修理内容と価格項目について透明性をもって説明し、依頼者や損害保険会社の納得感を得ることが重要です。車体整備事業者が取り組むべき事項としては次のようなことを挙げています。

  1. 自社の責任と考えによる見積の作成
  2. 人件費等の上昇も考慮した工賃単価の提案
  3. 作業時間の実態を踏まえた価格請求
  4. 見積書、作業記録簿等の標準様式の使用
  5. 代車費用の支払いに関する考え方の理解
  6. 透明性・公平性が疑われないような請求・説明
  7. 損害保険会社との交渉における留意点
  8. 協定に時間を要する場合には依頼者に判断を仰ぐ
  9. 依頼者に対する適切な情報提供

 損害保険会社に見積を委ねるのではなく、自社の責任と考える必要があります。

 車体整備事業者は、自社の費用構造(人件費、設備投資、光熱水費等の割合)を分析し、消費者物価指数のみならず、人件費の上昇率、電気代の上昇率、塗料や副資材などの材料費の上昇率等を考慮して工賃単価を設定することを求めています。

 最低賃金の上昇率、春季労使交渉の妥結額などを参考にします。設備投資費、光熱水費等の価格転嫁にあたっては、事故車修理の費用として負担を求めるべき妥当な範囲を検討します。ただし、工賃単価などを共同で取り決める行為は独占禁止法に抵触するおそれがあるため、絶対に行わないでください。

 自研センターが定めた指数を用いて修理価格を算定する場合、車両状態が悪い場合や付随作業が発生するのであれば、作業時間が延びることを保険会社に丁寧に説明する必要があります。

 前提とする条件を満たしてもなお実際の作業時間と著しく乖離する場合は、国交省の情報提供窓口へ、具体的情報(対象車両の車名・型式、具体的な作業内容、乖離の原因と考えられる理由等を情報提供してください。

見積書
見積書
車体整備記録簿
車体整備記録簿

 車体整備事業者は、「見積書・領収書」、「作業記録簿」の標準様式も参考にしながら、作業内容及び価格項目(修理作業のほか、代車費用、廃棄物処理費用など付随する費用を含む。)を明らかにし、作業内容に応じた請求をするよう求めています。

 複数の価格項目をまとめることや総額値引きは、透明性を損なうおそれがあるため、注意を呼び掛けています。

 自動車メーカーの修理仕様書と異なる作業を行った場合は、作業記録簿に明記し、保険会社に説明することも求めています。

 「わ」、「れ」ナンバーによる代車費用の保険金の支払いは、個々の保険契約の内容や事故の過失割合、保険契約者の意向等を踏まえて判断されるものであるため、必要に応じ、依頼者にその旨を説明し、損害保険会社や事故の相手方等に確認してもらうことが大切です。

 例えば、依頼者と事故の相手方の責任割合が「0:100」でなければ、代車費用に対する損害賠償金(対物賠償保険金)が支払われないと誤解している人がいることにも注意しましょう。

 なお、代車費用が自動車保険で全額支払われない場合は、依頼者との間で後日トラブルになるおそれがあるため、損害保険会社が依頼者の意思を確認していることの結果も踏まえて貸出の判断をしてください。

 保険修理と自費修理で請求内容に恣意的な差異を設けないよう求めています。具体的には、不当に高い初期価格を提示しないこと、不合理な総額値引きをしないこと、修理内容または価格に変更が生じたときは、営業担当者と技術者が共有することなどを挙げています。

 損害保険会社からの価格の透明性に関する指摘には真摯に対応する必要があります。

 修理方法や修理範囲等について丁寧に説明し、建設的な対話を行ってください。自動車保険の仕組みや損害賠償の考え方について説明を受けたうえで、損害保険会社が示す見解・根拠に疑問がある場合には説明を求めてください。

 不合理な説明により交渉が進まない場合には、国土交通省が設置する窓口に情報提供することを求めています。

 損害保険会社との間で修理内容または修理価格の折り合いがつかず協定に時間を要する場合、依頼者に対して、修理内容、見積等を説明し、判断を求めるよう書かれています。

 その際、協定が長引くことにより依頼者に不利益が発生するおそれがある場合には事前に説明してください。

 実施するまたは実施した修理の内容・方法等について丁寧に説明してください。例えば以下のような項目があります。

  • 必要に応じ、保険による修理では「原状復旧」を超える修理は認められないこと
  • 「原状復旧」の考え方では認められない修理内容
  • 使用できない部品等があること、保険金を使用して更に差額を支払うことで「原状復旧」を超える修理も可能であること

 損保会社などでつくる日本損害保険協会も「修理工賃単価に関する対話・協議のあり方にかかるガイドライン」を公表し、損害保険会社と車体整備事業者の建設的な対話を促進しています。

 対話・協議の進め方としては、丁寧な説明と対話、対話・協議の前提となる関係性の構築が推奨されています。このガイドラインを活用することで、価格交渉の円滑化に役立つことが期待されます。