下請法、改正法案を閣議決定 手形払いを禁止・運送委託も対象取引へ

政府は2025年3月11日、下請法(下請代金支払遅延等防止法)と下請振興法(下請中小企業振興法)の改正法案が閣議決定しました。開会中の国会に法案を提出します。サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を定着させるようと、協議を適切に行わない代金額の決定の禁止、手形による代金の支払等の禁止などを盛り込んでいます。
政府は2025年3月11日、下請法(下請代金支払遅延等防止法)と下請振興法(下請中小企業振興法)の改正法案が閣議決定しました。開会中の国会に法案を提出します。サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を定着させるようと、協議を適切に行わない代金額の決定の禁止、手形による代金の支払等の禁止などを盛り込んでいます。
目次
下請代金支払遅延等防止法(下請法)とは、下請取引の公正化を図り、下請事業者の利益を保護するため、独占禁止法を補完する法律として制定された法律です。
中小企業が賃上げの原資を確保するには、サプライチェーン全体での適切な価格転嫁が必要です。しかし、協議に応じない一方的な価格決定や、コスト上昇に見合わない価格据え置きなどの商慣習も残っています。
また、手形等を用いた支払いによる中小企業の資金繰りへの負担や、物流業界における荷役・荷待ちの無償労働といった問題も顕在化しています。
こうした状況を改善するため、下請法改正案は、特にコスト上昇局面における価格据え置きへの対応、荷主・物流事業者間の取引への対応を強化します。主な改正点は以下の通りです。
中小受託事業者から価格協議の求めがあったにもかかわらず、協議に応じなかったり、必要な説明を行わなかったりするなど、一方的に代金を決定して、中小受託事業者の利益を不当に害する行為を禁止します。
中小受託事業者の保護のため、手形払は支払手段として認められません。電子記録債権やファクタリングについても、支払期日までに代金に相当する満額の金銭を得ることが困難な場合は認められません。
発荷主が運送事業者に物品の運送を委託する取引が、下請法の対象として追加します。 荷役・荷待ちといった荷主・物流事業者間の問題にも対処しやすくなります。これまで対象であった「物品の運送の再委託」に加え、「物品の運送の委託」が新たな規制対象となります。
下請法の適用基準として、従業員数の基準を追加します。具体的な基準は、製造委託等の場合300人以下、役務提供委託等の場合100人以下となります。これにより、実質的な事業規模が大きいにもかかわらず、資本金が少額であるために下請法の対象とならない事業者を対象に含めることが可能になります。
中小受託事業者が申告しやすい環境を確保するため、「報復措置の禁止」の申告先として、公正取引委員会及び中小企業庁長官に加え、事業所管省庁の主務大臣を追加します。
法律の題名が「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」に改正されるとともに、「親事業者」を「委託事業者」、「下請事業者」を「中小受託事業者」、「下請代金」を「製造委託等代金」等に改正します。
これは、「下請」という用語が発注者と受注者の対等な関係ではないという語感を与えるとの指摘もあったためです。
木型、治具等についても、金型と同様に製造委託の対象物として追加します。
書面等の交付義務について、中小受託事業者の承諾の有無にかかわらず、必要的記載事項を電磁的方法により提供可能となります。
遅延利息の対象に減額が追加され、代金の額を減じた場合、起算日から60日を経過した日から実際に支払をする日までの期間について、遅延利息を支払わなければならないものとします。
違反行為がすでに行われていない場合の勧告にも規定が整備され、勧告時点において委託事業者の行為が是正されていた場合においても、再発防止策などを勧告できるようになります。
下請振興法は、下請関係を改善し、下請中小企業の振興を図ることを目的としています。 今回の改正は、サプライチェーン全体の取引適正化をより一層推進するため、多段階の事業者が連携した取組への支援や、国・地方公共団体の責務が明確化されます。主な改正点は以下の通りです。
多段階の取引からなるサプライチェーンにおいて、2つ以上の取引段階にある事業者による振興事業計画に対し、承認・支援できるようになります。これにより、直接の取引先だけでなく、サプライチェーン全体の取引適正化も促します。
地方公共団体は受託中小企業の振興に必要な取組の推進等に努める、国・地方公共団体等が密接な連携の確保に努める旨を規定します。
主務大臣が指導・助言したものの、状況が改善されない事業者に対して、より具体的措置を示して、その実施を促すことができるようになります。 これにより、価格転嫁・取引適正化の実効性が高まります。
発荷主と運送の取引と従業員の大小関係がある委託事業者が追加されます。これにより、中小企業同士など、下請法の対象外の取引も含めて、支援または指導・助言・勧奨の対象とし、価格転嫁・取引適正化を浸透させます。
下請法の改正法案は、まず国会で審議されます。法律が成立すると、公布されます。公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日に施行されます。企業は、今回の改正内容を踏まえ、価格転嫁の取り組みやサプライチェーン全体の取引見直しを検討する必要があります。
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