目次

  1. 下請法とは 改正へ議論
  2. 価格転嫁の課題と対策 下請法の適用に従業員数も考慮
  3. 代金支払・型取引・知的財産の課題と対策
    1. 手形利用の禁止と電子記録債権の制限
    2. 型取引の適正化 無償保管の禁止
    3. 知的財産取引の実態調査と保護の強化
    4. 振込手数料や割引料の受注者負担を実態調査へ
  4. 歩引きや協賛金・手数料等の強要など商慣行の課題と対策

 下請代金支払遅延等防止法(下請法)とは、下請取引の公正化を図り、下請事業者の利益を保護するため、独占禁止法を補完する法律として制定された法律です。

 下請法改正に向け、2025年の通常国会で議論の土台となる報告書を、有識者でつくる「企業取引研究会」がまとめました。資本金基準、買いたたき規制、手形の廃止の見直しなどが今後の論点となる見込みです。

 こうしたなか、中小企業庁は2025年1月21日、「新たな取引適正化対策の全体像について」と題した資料を公表しました。

 中小企業庁によると、価格転嫁の課題として、頂点から、次の取引階層へ、さらに深い階層への価格転嫁の浸透や、コスト上昇時の不十分な価格転嫁への対応が必要だといいます。

 また、サプライチェーンが多段階に及ぶため、価格転嫁は複雑化しています。下請法は、資本金3億円超の法人事業者が「親事業者」として、資本金3億円以下の法人事業者を「下請事業者」とするような取引が対象です。一方、完成品メーカーから、一次下請、二次下請、そしてさらに深い階層へと続く取引構造では、下請法での規制が末端まで十分に反映されず、中小企業がその負担を強いられるケースがあります。

 そこで、下請振興法改正により、3つ以上の取引段階にある事業者が連携した事業計画を承認・支援し、1つ先の取引先とも一体の価格転嫁を促すことを検討しています。

 武藤経産相は1月21日の閣議後記者会見で「頂点企業から次の取引先、そして更に深い階層へと1つ先の取引先を意識した価格転嫁の浸透が重要であります。従来の社名公表に加えて、下請振興法の改正あるいは事業所管大臣からの要請、行政指導の強化などを行いたいと思っております」と話しています。

 このほか、下請法・振興法改正により、これまで資本金に加え、従業員数も適用基準に追加し、対象を拡大しようとしています。

 下請法改正・執行強化という点では、「協議に応じない価格決定」等を新たに禁止する下請法改正案を準備しています。また、勧告を受けた企業へ、補助金交付や入札参加資格を停止することも検討しています。

 取引適正化の課題は価格転嫁だけでなく、代金支払・型取引・知的財産など幅広いテーマがあります。

新たな取引適正化対策の代金支払、型取引、知的財産の取り組み
新たな取引適正化対策の代金支払、型取引、知的財産の取り組み

 武藤経産相は「特に手形等について、次回の価格交渉促進月間で、割引料の受注者負担の実態を調査し、下請法対象外の取引でも、支払早期化を促してまいります」と話しており、約束手形では、2024年11月から手形サイトが60日を超えるものが下請法違反の対象となりました。

 さらに政府と産業界、金融界は、2026年の約束手形の利用廃止に向けて動き出しています。下請法改正に向けては、電子記録債権についても、支払期日までに満額現金化できないものは禁止する予定です。

 金型の無償保管は、下請法の禁止する「不当な経済上の利益の提供要請の禁止」にあたるとおそれがあります。型の保管は費用がかかるため、生産活動に使わない型を長期間保管することや実態に合わない保管料を設定することは、受注側事業者にとって、不利益となるためです。

 下請法改正の議論では、金型だけでなく、木型、樹脂型、専用治具なども新たに規制対象とし、型の所有権に関わらず、発注側が受注側に指示する「型の無償保管」を禁止することを検討しています。

 知的財産については、中小企業庁が「知的財産取引に関するガイドライン」をつくるとともに、知財Gメンによるヒアリング調査を実施しています。そこで、幅広い業種で知的財産取引の実態調査を行い、その結果にもとづき、各種ガイドライン等の見直しを検討します。

 中小企業庁は毎年9月と3月を「価格交渉促進月間」と設定し、2025年3月には、価格交渉・価格転嫁の状況についてのフォローアップ調査を実施するなかで、新たに、振込手数料や割引料の受注者負担の実態も調査し、発注企業ごとに結果公表する予定です。

 業界によっては、代金の一定割合を差し引く「歩引き」や、「協賛金、手数料等の強要」といった、受注者の利益を損ねる商慣習が根強く残っています。

歩引きによるリスクと対応策
歩引きによるリスクと対応策(デザイン:吉田咲雪)

 中小企業の価格転嫁、価格転嫁を阻害する商慣習の一掃に向け、政府は業界団体へ下請法違反が無いかの自主点検や、違反があった場合の不利益の補償、サプライチェーンの頂点となる企業や業界における直接の取引先の更に先まで価格転嫁が可能となるような価格決定、そのことが伝わる情報発信、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」の遵守の徹底などを求めています。