第2次トランプ政権の外交・安全保障政策を司る国務長官にはマルコ・ルビオ氏が、安全保障担当の大統領補佐官にはマイク・ウォルツ氏が起用されました。両氏とも対中強硬派で知られています。
通商・製造業担当の大統領上級顧問にピーター・ナバロ氏が起用されましたが、ナバロ氏はトランプ政権1期目で通商政策担当の大統領補佐官を務め、ライトハイザー元通商代表とともにトランプ政権の貿易保護主義化を主導しました。
このような政権人事からも、対中強硬姿勢は間違いないでしょうが、日本企業として認識するべきは、バイデン前政権以上に”経済や貿易の領域が主たる紛争の舞台になる”ということです。
無論、バイデン時代の米中対立においても、バイデン前大統領は新疆ウイグルの人権問題や先端半導体の軍事転用防止という観点から、中国に対して積極的に貿易規制を強化していきましたが、トランプ大統領は関税を最大の武器とするのが特徴で、トランプ関税をちらつかせることで相手国から譲歩を事前に引き出し、もしくは実際に発動することで米国の国益を断固して守る、獲得することを躊躇しないでしょう。
トランプ大統領は2月1日から中国製品に対して10%の追加関税を課すことを検討していると明らかにしました。これは中国企業の製品だけでなく、中国で作った製品を米国へ輸出する日本企業も影響を受けることになります。
2023年の米国の国・地域別財貿易(国際収支ベース、季節調整済み、単位:100万ドル、▲はマイナス)は以下の通りです。
国・地域
貿易収支額
前年比
中国
▲279,137
102,091
EU
▲201,190
2,902
メキシコ
▲161,272
▲22,842
カナダ
▲74,873
13,850
日本
▲71,503
▲3,757
アジアNIES
▲72,508
▲19,177
インド
▲43,557
▲5,147
サウジアラビア
▲1,670
9883
ブラジル
5,429
▲8,855
その他
▲159,350
54,431
米国にとって最大の貿易赤字国は中国であり、トランプ大統領は政権1期目のようにそれを是正する目的で、10%の追加関税をプロローグとし、第2段、第3段の関税制裁を発動してくることが予想され、それによって日本企業への影響も広がっていくことが懸念されます。
台湾情勢、別れる見方
中国に関連して考えるべきは台湾情勢の行方です。
中台関係においては軍事的な緊張が続き、日本企業の間でも台湾有事への懸念が近年広がっています。2024年5月に頼清徳氏が新しい総統に就任しましたが、頼総統は台湾と中国は隷属しないと繰り返し発言するなど、中国は頼総統に対する不満を強めています。
台湾総統選の結果と中国の現状
頼総統が就任して以降、中国は台湾本土を包囲するような海上軍事演習を2回実施し、台湾の主要な港を機能不全にする海上封鎖も視野に入れているとみられます。今日、トランプ大統領の台湾政策に注目が集まっていますが、これについては2つの見方があります。
1つは、トランプ大統領が選挙戦の最中から、「台湾は防衛費を増額するべきだ」、「台湾が半導体産業を米国から奪った」などと言及していることから、台湾政策の優先順位は高くないという見方です。仮にそうなれば、中国による軍事的な威嚇はいっそう強まる可能性があります。
もう1つは、トランプ大統領は対中国を強く意識していることから、そのために台湾防衛を重視するという見方です。国務長官になったマルコ・ルビオ氏は、中国による海洋進出を抑える上で台湾を軍事的支援する必要性を訴えており、トランプ政権としてはバイデン政権の台湾政策を基本的に継承する可能性があります。
筆者としては、トランプ政権は後者の選択肢を選び、台湾防衛を米国の国益として位置付けるのではと考えていますが、日本企業としてはトランプ政権下でも依然として軍事的緊張が続き、台湾有事は最後の選択肢としても、海上封鎖などはより現実的なリスクとして把握しておくべきでしょう。
日米関係 関税は直接・間接的な影響も
最後になりますが、日米関係の行方です。
これは石破総理がどこまでトランプ大統領と信頼に基づく同盟関係を構築できるかにもよりますが、日本企業として認識するべきは、トランプ大統領にとって伝統的な同盟国がそのまま同盟国になるとは限らず、今日、日本は新たに米国の同盟国になる必要があるということです。
これまでのところ、トランプ大統領は中国製品に対する10%の追加関税、カナダとメキシコからの全輸入品に対する25%の関税を発表していますが、日本を直接標的とした関税には言及していません。
しかし、トランプ大統領は政権1期目の時、日本の自動車・自動車部品に対して25%の関税を掛けると示唆しましたが、日本側が米国産の牛肉や豚肉などの関税を引き下げることを決定し、結果的にトランプ関税が見送られたことがありました。要は、中国と違って日本は米国の伝統的同盟国だから問題ないということは決してないのです。
トランプ大統領は様々な要因を考慮し、関税発動の対象国を選定しているでしょうが、1つに米国の貿易赤字国を強く意識していることが考えられます。
米国の貿易赤字国のトップが中国で、その次にメキシコが続き、実は日本は上位に位置しています。中国やメキシコはすでに名指しでトランプ関税の標的になっており、今後は米国の貿易赤字国という視点で日本を標的に関税を武器として活用してくる可能性もあるでしょう。
また、安全保障の問題となりますが、トランプ大統領は日本を含む同盟国の防衛費がGDP比で3%に達していないことに強い不満を抱いており、今後の日米交渉において、日本の防衛費を3%以上に引き上げさせることを狙い、日本製品に対する上乗せ関税をちらつかせてくることも考えられます。
日本は米国にとって最大の投資国であり、それはトランプ大統領にとって最大の目的であるMAGA(Make America Great Again:米国を再び偉大な国にする)にもフィットするものであり、日本に対して保護主義路線が強く向けられないことが望まれます。しかし、トランプ大統領の政策は読めない部分が多く、上述のようなリスクというものは把握しておく必要があるでしょう。
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