ニッチ戦略とは?差別化戦略との違いや中小企業の成功事例を紹介

市場の隙間を狙うニッチ戦略は、大手との消耗戦を避け、独自の価値で勝つための戦略です。この記事では、ニッチ戦略の定義と本質、メリット・デメリット、そして差別化戦略との違いなどを解説します。また、実際の成功事例を通じて、効果的な戦略の立て方をわかりやすく紹介します。
市場の隙間を狙うニッチ戦略は、大手との消耗戦を避け、独自の価値で勝つための戦略です。この記事では、ニッチ戦略の定義と本質、メリット・デメリット、そして差別化戦略との違いなどを解説します。また、実際の成功事例を通じて、効果的な戦略の立て方をわかりやすく紹介します。
ニッチ戦略とは、簡単にいうと、「小さな市場で一番になる」という考え方です。大企業が狙わないような特定のニーズを持つ非常に狭い市場に注目し、集中的にヒト・モノ・カネといった経営資源を投入することで競争優位性を確立する戦略を指します。
「ニッチ(nitch)」という言葉は、「隙間」を意味する言葉に由来し 、ビジネスの世界では、大企業が参入していない、または参入しにくい小さな市場を指しています。小さな市場で相対的に優位なシェアを獲得し、収益を上げる戦略のことです。
経営学者であるマイケル・ポーター教授が提唱するマーケティング基本戦略のうち、「集中戦略」とほとんど同じ意味を持ちます。
ニッチ戦略とよく比較される戦略として、差別化戦略とコストリーダーシップ戦略があります。
差別化戦略は、製品やサービスに独自の価値を付加することで、競合他社との差別化を図り、顧客に選ばれるようにする戦略です。一方、コストリーダーシップ戦略は、徹底的なコスト削減によって、低価格で製品やサービスを提供する戦略です。
ニッチ戦略と差別化戦略の違いは、ターゲットとする顧客層の範囲と、競争の軸にあります。差別化戦略は、比較的広い市場で、独自の製品やサービスを提供することにより競争優位性を築きます。一方、ニッチ戦略は、非常に狭い市場で、特定の顧客ニーズに特化した商品やサービスを提供することで競争を避けます。
ニッチ戦略とコストリーダーシップ戦略の違いは、市場と競争優位性の確立方法にあります。コストリーダーシップ戦略では広範な市場をターゲットとし、業界内で最も低いコスト構造を実現することで競争優位を確立します。市場シェア拡大を重視し、薄利多売のビジネスを展開することが特徴です。
まとめると以下のようになります。
戦略 | 目的 | 特徴 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|---|
ニッチ戦略(集中戦略) | 特定の狭い市場で独自の地位を確立する | ・特定の顧客層に特化した製品・サービスを提供する ・競争が少ない ・専門性が高い |
・高い利益率 ・競争優位性の確立 ・ブランドロイヤリティを築きやすい ・大企業が参入しにくい ・限られたリソースでも成功しやすい |
・市場規模が小さい ・収益に限界がある ・市場の変化に弱い ・先行事例が少ないためコストがかかる |
差別化戦略 | 製品やサービスに独自の価値を付加し、競合他社との差別化を図る | ・高品質、独自のデザイン、優れた機能、顧客サービスの向上 | ・価格競争の回避 ・ブランドイメージの向上 ・顧客ロイヤリティの向上 |
・コストがかかる ・模倣されやすい |
コストリーダーシップ戦略 | 低価格で製品やサービスを提供する | ・徹底的なコスト削減 ・大量生産 ・効率的なサプライチェーン |
・価格競争に強い ・市場シェアの拡大 |
・低品質のイメージを持たれる可能性がある ・技術革新に対応する必要がある ・価格競争に巻き込まれる可能性がある |
ニッチ戦略にはいくつかのメリットがあり、企業が競争の激しい市場で成功するための有効な手段の1つです。ここでは、ニッチ戦略のメリットには何があるかをご紹介します。
ニッチ戦略の大きなメリットの1つは、価格競争を回避しやすいことです。
特定の顧客層に特化した商品やサービスは、競合他社が提供しにくい独自の価値を持つため、価格競争に巻き込まれにくくなります。ニッチな市場では、顧客は価格よりも品質や独自性を重視する傾向があります。そのため、価格が多少高くても、顧客が求める価値を提供できれば、競争力を維持できます。
例えば、アレルギーを持つ子供向けの食品を販売する場合、一般的な食品より価格が高い場合でも、安全で安心して食べられるという価値を提供できれば、顧客は喜んで購入してくれるでしょう。このように、ニッチ戦略は、価格競争に疲弊することなく、安定的な収益を確保するための有効な手段となります。
ニッチ戦略には、高利益率を確保しやすいというメリットもあります。価格競争を回避できることに加え、特定の顧客層に特化した商品やサービスは、顧客にとって代替が難しく、高価格の設定が可能です。
また、ニッチな市場では、競合他社が少ないため、マーケティングコストなどの販売コストを抑えることができます。さらに、顧客層が限定されているため、特定の顧客層に向けたマーケティングを行うことで、広告宣伝費や人件費についての費用対効果も高められます。
ブランドロイヤリティとは、顧客が特定のブランドに対して抱く愛着や信頼感のことです。ニッチ戦略は、特定のニーズを持つ顧客層に向けた商品やサービスを提供するため、ブランドロイヤリティを築きやすいメリットがあります。
ニッチ戦略は、大企業が参入しにくい市場を積極的に狙うため、経営資源が大企業ほどない中小企業や創業間もないスタートアップでも競争優位性を確立しやすいのがメリットです。
大企業は通常、事業規模に影響を与えるために大規模な市場をターゲットとし、大量供給によって収益を上げることを得意としています。そのため、市場規模が小さく、専門性の高いニッチな市場には、参入しにくい傾向があります。
また、ニッチな市場では、顧客ニーズが多様であり、画一的な商品やサービスでは対応できない場合が多く、大企業は、小回りを効かせなければならないニッチな市場に適応することが難しい場合があります。
反対に、中小企業やスタートアップ企業にとっては、大企業が参入しにくいニッチな市場は、競争優位を築くためのチャンスです。
ニッチ戦略は、限られたリソースでも成功しやすいというメリットがあります。特定の顧客層に注目することで、マーケティングや販売活動を効率的に行うことができ、無駄なコストを削減できます。
ニッチな市場では、大企業のような大規模な設備投資や広告宣伝費は必要なく、小規模な設備や人的資源で対応できる場合が多くあるためです。
また、ニッチな市場では、顧客との距離が近く、直接的なフィードバックを得やすく、商品やサービスの改善を素早く行えます。ニッチ戦略は、資金や人材などの経営資源が限られている中小企業やスタートアップ企業にとって、有効な戦略の1つです。
価格競争を回避しやすいことや小さい企業でも競争優位性を確立しやすいというメリットがある一方で、ニッチ戦略にはデメリットも存在します。
ニッチ戦略には、収益維持が難しいというデメリットがあります。
ニッチな市場は、市場規模が小さいため、一定以上の収益を上げることが難しい場合があります。さらに、ニッチな市場は、競合他社が少ない反面、新規参入も容易である場合が多く、新たな競合が現れると、競争が激化し、収益が圧迫される可能性があります。
ニッチ戦略は、規模の拡大が困難であるというデメリットがあります。特定の顧客層に特化した商品やサービスは、他の顧客層には受け入れられにくく、市場を拡大することが難しい場合があります。
また、ニッチな市場で成功したとしても、顧客ニーズや競争環境の違い、経営資源の制約などにより、その成功を他の市場に適用することが難しい場合があります。
このように、ニッチな市場に特化しすぎると、企業全体の成長が阻害される可能性があります。
ニッチ戦略は、市場の変化に影響を受けやすいというデメリットがあります。ニッチな市場は、トレンドや顧客ニーズの変化に影響を受けやすく、人気が一度なくなると、売上が急激に減少するリスクがあります。
また、ニッチ市場固有の課題が技術革新によって解決されてしまうと、市場が縮小したり、消滅したりする可能性もあります。例えば、以前は百科事典や専門書といったニッチ領域を深堀りした書籍が販売されていましたが、Wikipediaなどのオンライン情報源の普及により市場が大幅に縮小しました。
ニッチ戦略は、先行事例が少ないためコストがかかるというデメリットがあります。
ニッチな市場は、まだ誰も開拓していない新しい市場である場合が多く、成功するためのノウハウや情報が不足していることがあります。そのため、市場調査や商品開発、マーケティングなど、さまざまな分野で試行錯誤を繰り返す必要があり、内容によっては時間や費用がかかる場合があります。
ニッチ戦略で事業を展開したいと考えている人の中には、過去の事例を参考にしたいと思う人も多いのではないでしょうか。ここでは、ニッチ戦略の成功事例を3つご紹介します。
モスバーガーは1972年創業のハンバーガーチェーンで、日本発祥のファストフード店です。業界最大手のマクドナルドに次ぐ国内第2位の地位を確立しており、全国展開するチェーンとして知られています。
マクドナルドなど大手が低価格・大量販売路線をとる中、モスバーガーは創業当初よりニッチ戦略を徹底化しました。具体的には、「日本人好みのオリジナルバーガー」を掲げ、注文を受けてから作る出来たてのハンバーガーや、ご当地バーガー・ライスバーガーなど独自色の強いメニューを提供しました(参照:日本人の味覚に合うハンバーガーを作る|モスバーガー)。
愛知ドビーは1936年創業の愛知県名古屋市に拠点を置く老舗の鋳造メーカーです。
当初は鋳造部品の下請け工場として操業していましたが、2010年に自社開発の鋳物ホーロー鍋ブランド「バーミキュラ」を立ち上げ、脚光を浴びました。当時、従業員数が少ない規模でありながら、世界に誇る日本製のホーロー鍋として高品質な鍋が大ヒットし、バーミキュラのホーロー鋳鉄鍋の小売価格は高額でしたが、発売前から注文が殺到しました(参照:時代を切り拓き、新たな価値を創造するフロンティア事例集 p.1~2丨全国中小企業振興機関協会)。
ケージーエス(KGS)株式会社は埼玉県に本社を置く磁気アクチュエーター(ソレノイド)専門メーカーで、視覚障害者向け福祉機器の分野でも世界的な地位を築いています。
点字ディスプレイ用の「点字セル」(点字を表示するピンが上下する部品)の開発・製造を手掛けており、この分野で世界シェア約70%を占める隠れたトップ企業です。視覚障害者向け電子機器というニッチ市場に注力した戦略を採用しています。
当時ニーズの高まりつつあった視覚障害者支援機器にいち早く参入し、高品質な製品を開発し続けています。
さらに、年に一度ユーザー向け総合イベント「サイトワールド」立ち上げのきっかけになるなど、視覚障害者との直接対話の機会を設けて製品開発に活かし成功しています(参照:平成23年度バリアフリー・ユニバーサルデザイン推進功労者表彰式〈第10回〉受賞事例集p.1丨内閣府、視覚障害者に特化した展示会「サイトワールド」。主催者に聞く、当事者の生活は変化した?|日本財団ジャーナル)
ニッチ戦略では、市場やターゲット顧客などの情報を段階的に整理していくことが成功に近づくポイントになります。実施を検討するうえで、以下の手順を参考にしてみてはいかがでしょうか。
ニッチ戦略を成功させるためには、市場リサーチが必要です。市場リサーチでは、下記の項目について調査します。
市場リサーチの方法としては、アンケート調査やインタビュー調査、インターネット調査などがあります。
また、調査会社が提供している市場調査レポートや統計資料などを分析することも有効です。市場リサーチの結果を基に、自社の強みを活かせるニッチな市場を見つけ出すことが、ニッチ戦略の第一歩となります。
市場リサーチの結果を基に、ターゲット顧客を明確に設定します。
ターゲット顧客とは、自社の商品やサービスを最も必要としている顧客層のことです。ターゲット顧客を設定する際には、個人向けの取引の場合、年齢や性別、職業、収入、趣味、ライフスタイルなど、さまざまな属性を考慮する必要があります。
また、ターゲット顧客のニーズや不満、価値観などを深く理解することも重要です。ターゲット顧客を明確に設定することで、商品開発やマーケティング活動を効率的に行えます。
競争優位性とは、競合他社と比較して、自社の商品やサービスが優れている点のことです。競争優位性を作り上げるためには、特定市場における深い専門知識やノウハウの蓄積を行い、カスタマイズされた製品・サービスの開発などを行うことなどが考えられます。
例えば、特殊な工業用部品メーカーが、その分野での専門的な技術力により、他社の新規参入を困難にしている場合などが好例となります。
ニッチ市場におけるマーケティング&集客戦略は、ターゲット顧客によって変更してみるといいでしょう。
BtoC(個人向け)ニッチ市場のマーケティング戦略では、 ターゲット顧客が利用するSNSプラットフォームで、情報発信やコミュニティ形成を行ったり、 ターゲット顧客に影響力のあるインフルエンサーと連携し、商品やサービスの魅力を発信したりすることが有効です。
また、 ターゲット顧客に商品やサービスを体験してもらい、その魅力を直接伝える方法も考えられます。
BtoB(法人向け)ニッチ市場のマーケティング戦略では、広告掲載や展示会・セミナーの開催によって認知度向上やリード獲得につなげるのがいいでしょう。さらに、ターゲット顧客の課題解決に貢献した事例を紹介し、信頼性を高めることが有効です。
持続できる収益モデルを確立しましょう。
ニッチな市場は、市場規模が小さいため、一度売上が減少すると、危機に瀕(ひん)する可能性があります。そのため、安定的な収益を確保するために、複数の収益源を確保することや、リピーターを増やすための施策を講じることが重要です。
例えば、サブスクリプションモデルや、関連商品の販売、コンサルティングサービスの提供など、周辺でのさまざまな収益モデルを検討してみましょう。
ニッチ戦略は、中小企業やスタートアップ企業が、大手企業に対抗し、独自の存在感を確立するための有効な手段です。この記事で解説した内容を参考に、あなたのビジネスにニッチ戦略を取り入れてみてはいかがでしょうか。
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