トランプ政権の相互関税の影響、米国に最大のGDP5.2%マイナスと試算

2025年4月2日にアメリカのトランプ政権が発表した「相互関税」措置が、世界経済に大きな波紋を広げています。日本貿易振興機構(JETRO)アジア経済研究所は、その世界経済への影響に関する詳細なシミュレーション結果を発表しました。この分析結果によると、もっとも最も大きな負の影響を被るのは米国ですが、日本も産業別にみると自動車産業(1.7%減)、食品加工業(0.6%減)が負の影響を被るとみています。
2025年4月2日にアメリカのトランプ政権が発表した「相互関税」措置が、世界経済に大きな波紋を広げています。日本貿易振興機構(JETRO)アジア経済研究所は、その世界経済への影響に関する詳細なシミュレーション結果を発表しました。この分析結果によると、もっとも最も大きな負の影響を被るのは米国ですが、日本も産業別にみると自動車産業(1.7%減)、食品加工業(0.6%減)が負の影響を被るとみています。
目次
相互関税とは、アメリカの貿易相手となる国が高い関税(非関税障壁も含む)を課している場合、アメリカの関税も相手国と同じ水準まで引き上げるとアメリカのトランプ政権が主張している追加関税措置です。ただし、その妥当性については世界の複数の国から批判が出ています。
トランプ大統領は、この新たな関税措置がアメリカの製造業を再生させ、雇用を創出すると主張しています。複数国に対して追加関税が課され、しかもその水準が国によって大きく異なるという点で、相互関税は非常に複雑な影響をもたらすところに特徴があります。
当初、相互関税について、すべての国に適用される10%の関税を除き、90日間の執行停止が発表しています。
アジア経済研究所は、独自に開発した経済地理シミュレーションモデル(IDE-GSM)で、相互関税が世界経済に与える影響を詳細に検証しました。
分析では、以下のシナリオを設定しました。
• ベースラインシナリオ: 最恵国待遇税率だけでなく、自由貿易協定税率などの特恵関税率も考慮し、CPTPPやRCEPの関税引き下げスケジュール、そして2019年までの米中関税引き上げも織り込み済みです。
• 関税シナリオ: 2025年4月2日に米国が発表した国別の関税率を適用します。ただし、自動車産業に対しては別途25%の追加関税を課します。中国に対しては、第2次トランプ政権発足後に導入された20%の追加関税に加えて、さらに相互関税が加算されます(自動車産業では合計45%)。メキシコとカナダについては、USMCA(アメリカ・メキシコ・カナダ協定)が適用されるとみなし、この関税や自動車産業への追加関税は適用されません。国別の関税率が公表されていない国については、4月5日に発効した10%の追加関税を仮定しています。
この分析は、2027年における関税シナリオとベースラインシナリオで得られた結果の差から相互関税の経済的影響を評価しています。
今回のシミュレーション分析の結果、相互関税は全世界のGDPを1.3%押し下げるという厳しい予測が示されました。
国別に見ると、最も大きな負の影響を受けるのは米国自身であり、GDPを5.2%も押し下げると予測されています。2024年の米国の経済成長率が2.8%であったことを考慮すると、アメリカ経済がマイナス成長に陥る可能性が高いと言えます。
以下の3点が複合的に作用した結果、プラスがマイナスを大きく上回る試算となりました。
特に、米国の自動車産業は9.0%減という壊滅的な影響を受けると予測されています。これは、関税による自動車価格の上昇に加えて、自動車産業で使用される中間投入財の価格上昇がそれを上回るため、企業の利益が大きく圧迫されるためと考えられます。
中国も、GDPが1.9%減少するという大きな負の影響を被ると分析しています。これまでの米中貿易戦争の分析でも示されていたように、世界最大の製造業拠点である中国から最大の消費国であるアメリカへの輸出に関税が課されることで、両国に負の影響が及ぶことは予想されていました。
今回の相互関税は、世界の主要生産国からアメリカへの輸出全体に打撃を与えるため、アメリカ経済の縮小を通じて、中国もより大きな負の影響を受けることになります。
一方、日本へのGDP全体の影響は0.2%増とわずかなプラスとなっています。しかし、産業別に見ると、自動車産業(1.7%減)と食品加工業(0.6%減)は負の影響を受けると予測されています。多くの産業で正の影響が出ているのは、アメリカによる高率の対中関税によって中国の対米輸出が減少する分を、日本が相対的に補う形で有利になる「貿易転換効果」を見込んでいるためです。
ただし、自動車産業については、USMCAによって関税が免除されるカナダやメキシコと比較して高い関税が課され、かつ他の国と横並びで25%の関税率が課されるため、負の「貿易転換効果」が生じていると分析されています.
今回の相互関税政策は、これまでの特定国への追加関税とは異なり、多数の国が同時に影響を受けるという点で新たな局面を迎えています。この環境下では、「他国との相対的な関税率の差」が重要な焦点となります。
アジア経済研究所は、不確実性の高い通商環境において、企業が取りうる対応を以下のように提言しています。
「企業にとっては、不確実性の高い経営環境のなかで、特定国への過度な依存リスクを回避する戦略が不可欠となる。現時点では相対的に有利な国であっても、関税政策は急変する可能性があるため、生産・調達・販売の地理的分散化を図るべきである。サプライチェーンの柔軟性を高め、複数の生産拠点を維持しながら、迅速に生産地を変更できる体制を構築することが、今後の政策変更に対する強靭性を高める鍵となるだろう」
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