脱中国依存、中小企業で進むのか 移転候補の第三国にもリスク
2023年に入り、米国の対中輸出規制や台湾情勢などを念頭に、脱中国依存について企業関係者たちと話し合う機会が増えています。一部では、対中依存度を下げてサプライチェーンを変革しようという動きもありますが、第三国へシフトするにしても、その国特有のリスクは存在します。公開されている情報を収集し、事前のリスク管理の徹底が欠かせません。
2023年に入り、米国の対中輸出規制や台湾情勢などを念頭に、脱中国依存について企業関係者たちと話し合う機会が増えています。一部では、対中依存度を下げてサプライチェーンを変革しようという動きもありますが、第三国へシフトするにしても、その国特有のリスクは存在します。公開されている情報を収集し、事前のリスク管理の徹底が欠かせません。
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米バイデン政権は2022年秋、先端半導体に必要な製造装置や技術が軍事転用される恐れを警戒し、対中半導体輸出規制を強化する方針を打ち出し、2023年1月には製造装置で世界をリードする日本とオランダが同規制に加わることが明らかになりました。
日本が米国と同じレベルで厳しく対中規制を敷くわけではないようですが、業種を問わず中小企業の間でも米中貿易摩擦、経済戦争の行方を心配する声はいっそう広がったことでしょう。
また、台湾情勢についても中小企業の懸念は強まっています。
台湾有事となれば、台湾と貿易面で取引のある企業はビジネス面で大きく制限を受けることになり、安全保障上日本が米国の同盟国であるという根本的な事情を考慮すれば、それによって日中関係が劇的に冷え込むことになるでしょう。
そうなれば中国シェアの大きい中小企業ほど貿易面で何かしらの影響を受けやすくなり、今後“取引先の中国”とどう向き合って行けばいいかと悩んでいる経営者も多いでしょう。
では、このような世界情勢の中、実際企業はどのように動いているのでしょうか。まず、現時点で数としてはまだ多くないものの、大手自動車メーカーは脱中国の動きを少なからず見せています。
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大手自動車メーカーのマツダは2022年8月、高まる地政学リスクを考慮し、新車の製造で使用する部品の対中依存度を下げていく方針を発表しました。
また、ホンダも同じく国際的な部品のサプライチェーンを再編し、中国とその他地域のデカップリングを進めていくと発表し、欧州最大の自動車メーカーであるドイツのフォルクスワーゲンも最近中国からインドへのシフトする動きを見せています。
そして、原材料や部品などで中国を主な調達先とする中小企業の間でも、以前より脱中国を検討する動きが活発化し、一部ではすでに動き出しているように感じます。
筆者周辺の企業の動きであって普遍的な動きになっているとは言えませんが、米中貿易摩擦や日中関係の冷え込むによって安定的に原材料や部品が入手できなくなる、サプライチェーンの変革が必要だとの見方が少しずつではありますが広がっています。
では、脱中国依存を図る中小企業は実際どのような行動を検討しているのでしょうか。
まず、日本回帰です。原材料や部品の調達先で中国情勢の行方を懸念する企業の中には、たとえコストが増大しても、まずは調達先を含むサプライチェーンの安定を中長期的に確保することを重視する動きが見られます。
一概に断言できませんが、原材料や部品など製造に欠かせないモノで国内に依存することは、確かに中国を含む外国依存より安定性が確保できる可能性は高まると思われます。
2022年10月、キヤノンの御手洗冨士夫会長兼社長は中国や台湾などを取り巻く地政学リスクに懸念を示し、工場の展開など生産拠点で日本回帰や第三国への移転の可能性を示唆しました。
そして、もう1つの動きが中国から第3国へのシフトです。最近もメディアで日本企業の脱中国の動きがしばしば報道されますが、その代替国としてはベトナムやタイ、インドネシアなどのASEAN、そしてインドが挙げられます。
特に、インドは世界人口で中国を抜き、若年層が多く、今後経済力で日本を追い抜くとも言われており、高い経済成長が見込まれます。自由や民主主義など日本と価値観も共有し、米中対立や日中関係のようなリスクはインドにはありません。よって、今後中国からインドへシフトする中小企業の動きも広がるかも知れません。
しかし、ここで経営者は大きな難題に直面しているようです。中国を取り巻くリスクを考慮し、第三国へのシフトを検討し始めたものの、代替候補国が持つ特有のリスクに直面しています。
たとえば、部分的に中国依存を減らそうとしている中小企業の中には、その代替先としてフィリピンを最有力候補とするものの、中国に比べ凶悪犯罪など治安が非常に悪く、社員を中国のように安心して派遣できないという新たな課題に直面しているケースも見られます。
また、代替先としてインドを検討する中小企業の間では、中国に比べ反政府デモや宗教・民族対立、テロなどがより現実的問題であり、ビジネス上、返って中国よりリスクになるのではないかとの声も聞かれます。
また、代替候補国としてASEAN諸国が注目されていますが、内閣府の経済レポート「世界経済の潮流」によれば、ASEAN諸国の対中貿易依存度は長期的に上昇しており、新型コロナの拡大後は一段と上昇しているのです。
いざ中国から離れようとしたが、実際問題それは難しいと、脱中国依存の難しさに改めて直面している経営者の姿もみられます。
今後、世界ではグローバルサウスの存在感が政治的、経済的にさらに増してくることでしょう。中小企業の間でもASEANや南アジア、アフリカや中南米など新興国とのつながりがいっそう深まることが予想されます。
中国より魅力的な市場、調達先があるじゃないかとグローバルサウスに接近する中小企業も増えるかも知れませんが、それはそれでその国特有のリスクに対峙することになります。
脱中国の動きが広がっているのは間違いありません。しかし、同時にその難しさ、また第三国が抱えるリスクに悩む声も同時に増えているのが実状です。
グローバルサウスの国々の中には、政府の脆弱性、腐敗や汚職、またそれらによって抗議デモや暴動、テロなどが絶えない国も少なくありません。外務省の海外安全ホームページなどを前もって熟読し、リスク管理を徹底することが重要になります。
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