目次

  1. 社会的インパクト不動産とは
  2. 長門湯本みらいプロジェクト(山口県長門市)
  3. 「SUIDEN TERRASSE」(山形県鶴岡市)
  4. SETAGAYA QsーGARDEN(東京都世田谷区)
  5. 深大寺ガーデン(東京都調布市)

 国交省によると、日本の土地利用を巡る状況は、人口減少・高齢化の進展や経済構造の変化により大きく変化しています。

 三大都市圏等の一部地域では地価の上昇が見られる一方、地方圏を含む多くの地域では低未利用土地や所有者不明土地が増加するなど、土地の有効活用や適切な管理が大きな課題となっています。こうした問題の解決には、従来の公共事業に加えて、企業等の民間活力を積極的に引き出し、地域の特性を活かした多様な土地利用を進める必要があります。

 そこで、2025年版土地白書は、企業等が中長期的な視点に立ち、「社会的インパクト」を創出することで不動産価値の向上と企業の持続的成長を目指す「社会的インパクト不動産」の土地利用事例を紹介しています。

 一つ目は、山口県長門湯本温泉の「長門湯本みらいプロジェクト」です。かつては賑わった温泉街も、個人客中心の旅行ニーズへの対応の遅れから宿泊者が減少し、空き地等の低未利用土地が増えて活力が低下していました。

 2014年に老舗旅館が廃業したことを契機に、長門市がこの旅館を公費で購入し、官民連携で温泉街全体の「面的再生」に着手しました。プロジェクトチームには地元企業、投資家、外部専門家等が参画し、温泉街の中心を流れる音信川や立ち寄り湯といった地域の風土を活かしつつ、配置計画の見直しを行い、旅館跡地を含めた低未利用土地の新たな利用が図られています。

 その結果、長門湯本地区を含めて、2023年の長門市への観光客数は前年から2.4%増加し、年間約200万人となっています。

地域の風土を活かした新たな土地利用などの事例
地域の風土を活かした新たな土地利用などの事例(2025年版土地白書から)

 二つ目は、田園風景を生かした宿泊施設等の整備です。ホテル「SUIDEN TERRASSE」と教育施設「KIDS DOME SORAI」は、山形県鶴岡市に位置し、2018年に開業した水田に囲まれて宿泊できるホテルと屋内型遊戯・教育施設です。

 庄内地域を拠点に分野横断的にまちづくりに取り組むベンチャー企業が企画運営しており、施設の開業に必要な準備資金はすべて地方銀行をはじめとした地元企業からの出資により確保されました。

 ホテルに併設されたカフェやレストラン等の共有部全体をパブリックスペースとして宿泊者だけでなく、地域住民等にも開放することで地域の新たなコミュニティの形成にも寄与しているといいます。

 もともと観光地ではなかった田園地帯に、現在では宿泊客だけでも年間約6万人が滞在し、庄内平野では当たり前の風景である「田んぼ」にその価値を見いだすことにより、地域の風土を活かした地域経済・産業の活性化につながる土地利用が行われている事例です。

 三つ目は、2023年3月、世田谷区にオープンした「SETAGAYA QsーGARDE N」は、敷地面積約9㌶に及ぶ第一生命保険のグラウンド跡地を活用したまちづくりの事例です。

 当初は既存の樹木や建物をすべて伐採・取り壊すことも検討されたが、既存樹木をできるだけ残し、活用できる建物とスポーツ施設は活用していく計画に見直されました。現在、一般に開放され、歴史的建造物は地域の多世代交流拠点等となり、敷地内の住民だけでなく地域に開かれたまちとして生かされています。

地域の健康福祉を増進する土地利用や地域の付加価値を高める環境共生の土地利用の事例
地域の健康福祉を増進する土地利用や地域の付加価値を高める環境共生の土地利用の事例(2025年版土地白書から)

 四つ目は、東京都調布市の「深大寺ガーデン」です。もともと植木の圃場であった生産緑地約400坪を活用し、「つながる暮らし」と「周辺環境との共生」をテーマに企画・整備された、賃貸住宅2棟3戸とレストラン1棟からなる複合施設です。

 敷地内のレストランは、企画・運営を深大寺ガーデンと同じ事業者が担っており、施設のテーマを継承したレストランとして、できるだけ地域で手に入る食材を使う、周辺から持ち込まれた伐採木も含めた薪を調理や暖房に活用する、ハーブ等の食材を敷地内のエディブルガーデン(野菜やハーブに限らず、植栽された植物から食べられるものを探す庭)で自家栽培するなど、ローカルファースト・サステナブルなレストランとしての運営しています。