定款とは?「無関心な社長はNG」事業承継前のチェックポイント
会社の憲法にあたる重要な「定款」。補助金や助成金の申請だけでなく、行政への許認可や金融機関での講座開設、事業承継でも必要になります。では、そもそも定款ってどんなものでしょうか?しっかり確認しておかないと、事業承継の時に困るケースもあるようです。司法書士で日本外部承継診断協会理事の近藤誠さんが想定されるケースをもとに解説します。
会社の憲法にあたる重要な「定款」。補助金や助成金の申請だけでなく、行政への許認可や金融機関での講座開設、事業承継でも必要になります。では、そもそも定款ってどんなものでしょうか?しっかり確認しておかないと、事業承継の時に困るケースもあるようです。司法書士で日本外部承継診断協会理事の近藤誠さんが想定されるケースをもとに解説します。
都内で印刷会社を経営する港社長は、金融機関に勤務する息子に事業を承継する可能性を捨ててはいませんが、外部に会社を売却する方法も視野に入れなければならないと考えています。
ある交流会で知り合った事業承継に詳しい司法書士に相談してみたところ、定款の写しを見せて欲しいと言われました。
自社の定款なんて、じっくり見たことなんてないなあ……。
定款とは、会社の憲法にあたる重要なもので、会社を設立する際には必ず作成しなければならない書類の一つです。株式会社の設立に際して作成し、公証人の認証を受けた定款のことを特に「原始定款」と言います。これに対して、現在効力のある最新の定款のことを「現行定款」と言います。
株主総会の決議によって定款の内容を変更した場合には、自社で現行定款を更新していくことになります。法務局で取得する印鑑証明書や登記事項証明書のような公的書類とは異なり、会社設立時に定めた原始定款を、自社で更新しながら管理していくものなのです。金融機関や取引先などから定款の提出を求められた場合には、自社で管理している定款を印刷し、「本書は当会社の定款に相違ありません」といった証明文と共に、会社代表者の記名押印をして自社で証明した上で提出するのが一般的です。
定款には、会社の商号や目的、取締役など役員の任期、株式発行にかかわる事項など、会社にとって非常に重要な事項が記載されています。事業承継の際には定款に定めたルールに従うことになりますし、会社を譲り受けた者も同様に定款の記載に従わなければなりません。
定款に記載される事項には、絶対に定めなければならない事項だけでなく、定款で定めなければ有効にならない事項、定めても定めなくても良い事項の3種類があります。
*1変態設立事項
金銭ではなく現物出資による設立をすることや、会社設立前に財産を譲り受ける契約をする財産引受、発起人の報酬の定め、設立に要する費用などのこと。
*2累積投票
取締役を選任する際に、株式1株につき、選任する取締役の数と同じ数の議決権を認める投票方法です。累積投票を利用する場合、50株を有する株主が3名の取締役を選任する株主総会に出席した場合、150個の議決権を持つことになります。すべての議決権を自分が推す取締役に集中して投じることができるため、少数株主の意見が反映される可能性があることになります。
(1)株式
・株主名簿の基準日
・株主名簿の名義書換手続
・株券の再発行手続
(2)株主総会
・定時株主総会の招集時期
・株主総会の議長
・議決権の代理行使
(3)機関
・取締役の員数
・代表取締役、役付取締役
・取締役会の招集権者
(4)その他
・事業年度
・公告方法
1990年(平成2年)に改正された会社法(当時は「商法」)によって大きく変わったのが「発起人の人数規制の撤廃」です。この改正までは、株式会社を設立する際には、7人以上の発起人が必要でした。発起人は会社が設立されるとそのまま株主になりますので、平成2年の改正以前に設立された株式会社には、株主が必ず7人以上いたことになります。
当時は人数合わせのために発起人をかき集めることも多く、会社とはまったく無関係の親戚や知人にお願いして名前だけの発起人になってもらうということが良く行われていました。会社設立後には株式の譲渡ができるため、設立後にきちんと株式を譲り受けていればよいのですが、名前を借りた株主がそのまま株主名簿に名を連ねたまま放置されている会社も少なくありません。こうなると、もう株主と連絡が取れなくなってしまったり、株主が亡くなって相続が開始してしまったりすることがあります。
会社を親族内で承継するにせよ、外部に売却するにせよ、株主を確定する(会社のオーナーを確定する)ことが必須なのは言うまでもありません。平成2年の商法改正以前に設立された歴史のある会社の場合は、定款を確認して株主を確定することが大切です。そして、会社設立時の発起人7名がそのまま株主であり続けているような場合には、一人ひとり株式を譲り受けるという困難な作業を行う必要があるでしょう。
株式は、自由に他人に譲渡することが出来るのが原則です。しかし、自由に株式が譲渡されてしまうことで会社にとって好ましくない人物が株主になってしまったり、株式が多くの人に分散してしまったりすることがあります。そのため、非上場会社の場合は、定款で定めれば株式の譲渡を制限することができることになっています。具体的には、株式譲渡を行う際には株主総会や取締役会等の承認を必要とするという内容の定めになります。
中小企業のほとんどは株式の譲渡制限を定款に定めていますが、株式の譲渡制限は1966年(昭和41年)の改正によって認められるようになったため、これよりも以前から存在する古い会社の場合には譲渡制限が定められていない場合があります。
東京都内の老舗の呉服屋さんで、経営方針を巡って家族が対立したケースがありました。この時、株主であった家族の一人が、暴力団とも関係があると噂のある人物に株式を譲渡する動きを見せ、慌てた経営陣がなんとか懐柔を図ったことがありました。このようなケースでは、定款に株式の譲渡制限が定められていれば譲渡を拒否することができるわけです。
会社売却を検討しているのであれば、株式が多くの人に分散して意思決定が自由にできなくなることは避けなくてはなりません。そのために定款で株式譲渡制限を定めていても、相続によって株式が株主の相続人に承継されることがあります。
そのような場合、定款に相続人等に対する「売渡し請求条項」を設けることが有効です。この条項があれば、会社から相続人等に対して株式を売り渡すよう請求できるようになります。売渡請求をするためには株主総会の特別決議が必要になりますが、株式譲渡制限と同様に株式の分散防止の決め手となる重要な規定です。
ただし、売渡し請求権を行使して株式を購入するための代金の捻出には規制がありますので、たまたま会社の業績が悪かったような場合には、株式を購入しようにも購入できないケースもありますので注意が必要です。
株式会社では、定款で定めることによって普通株式以外のさまざまな種類の株式を発行することができます。株式の内容は本来平等であるのが原則なのですが、一定の事項について普通株式よりも優先的な取り扱いをしたり、逆に劣後した扱いを定款に定めたりすることができるのです。
たとえば、株主総会における議決権が制限された「議決権制限株式」があります。事業承継を円滑に行うため、会社の後継者に対しては普通株式を引き継がせ、その他の相続人に対しては議決権制限株式を引き継がせることによって後継者が円滑に会社を経営できるようなります。
また、特定の事項の決定には、通常の株主総会に加えて、種類株主による総会決議を要する「拒否権付種類株式」の発行を定款で定めることができます。
会社の事業承継を考えるにあたって、定款が非常に重要であることがお分かりいただけたでしょうか。事業承継を円滑に行うためには、まずは自社の定款の内容を正確に理解し、そのうえで最適な定款の記載に整備することが大切です。
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