【ケース】

 不動産仲介業を営むA社には、代表取締役社長B氏とそのB氏の息子である専務取締役C氏がいます。社長のB氏はA社を息子のC氏に継がせたいため、今後贈与や遺言を作成しての相続などを検討しています。
 C氏は会社を継ぐことは了解していますが、今後A社の株式を承継していくにあたり贈与税や相続税にどれだけお金が必要か、B氏から相続する現金だけで税金が足りるのか、そもそもA社の株価って今いくらなんだろう?など不安を抱いています。

目次

 後継者が株式の贈与を受けた場合は贈与税、相続により取得した場合は相続税がかかります。贈与税は贈与した時点の株式の価額に、相続税は相続した時点の株式の価額を基に税金の計算をします。そのため、株価を知らずに税額を知ることはできません。例えば贈与税の計算方法は次の通りです。

【贈与税の計算方法】

 (贈与財産の価額-基礎控除額)×税率(10%~55%)=贈与税

 また、贈与や相続の際に事業承継税制の適用も選択肢の一つとして挙げられます。事業承継税制は、後継者に株式を贈与や相続で移す場合に、その税金を免除するという制度です。この税制が創設された当時は、かなり要件が厳しいためこの税制の適用を受ける方はほぼいなかったのですが、税制改正を重ね現在では大分使いやすくなっています。ただし、要件を満たさなくなった場合や、受け継いだ株式を譲渡した場合などには、猶予していた税金の全部または一部を利子税と合わせて納付する必要があります。そのリスクがあるため、適用を躊躇する後継者がいるのも事実です。また、M&Aが一般的になってきた昨今、この税制の適用を受けた場合には、会社の譲渡などについて流動的な意思決定が出来なくなることを恐れて適用を見送るケースも今後増えそうです。

 上場していない株式の評価方法には2種類あります。取得する側、つまり後継者の立場によって原則的評価方法と特例的評価方法があります。

株価の評価方法

 日本の中小企業の大部分は、同族会社といわれる同族株主(家族で50%超の株式を所有)が支配権を持つ会社です。上図の通り、同族株主が株式を取得するのと、それ以外の少数株主が取得するのでは株価の計算方法が異なります。

 一般的には、特例的評価方式よりも原則的評価方式の方が株価は高くなります。支配権を持つ同族株主は、会社の意思決定を自由に行うことができますが、支配権を持たない株主は配当を受け取るぐらいの権利しかない場合があり、同じ価値とは言えないからです。誰が取得するかで、会社への影響力が変わってくるため、同じ株式なのに価値が変わってきます。

 取得する人が同族株主の場合、使用する評価方法は原則的評価方式です。原則的評価方式の計算方法は次の2種類と、その併用があります。

原則的評価方式

①類似業種比準方式

上場している類似の会社と自社を比較して、株価を算出する方法です。株価の計算に必要な、類似する会社の株価や配当・利益・純資産は国税庁が発表しています。上場会社の株価に左右されるため、好況時は株価が上昇し、不況時は株価が下落する傾向にあります。

②純資産価額方式

自社の株式を移す時点で、「会社を解散して現金化したらいくらになるか」を想定して計算する方法です。その移す時点の資産の額から、負債の額と評価差額の法人税等相当額を控除した金額が株価となります。

③併用方式

①と②のそれぞれの方法で評価した価額に、次の表のとおり会社の規模に応じた一定割合を加味して評価額を求める方式です。

類似業種批准方式

 取得する人が少数株主に当たる場合に使用される評価方法は、特例的な評価方式である配当還元方式です。この計算方式は株主に還元される配当を基準に評価する方法です。

 そもそも少数株主は上述した通り、会社の意思決定を自由にする権利はなく、受け取る配当金が株式の価値を構成しているでしょう。そのため下記のように配当をベースとした評価方法を使います。この評価方法の場合、株価が他の評価方法より低くなる傾向にあります。

配当還元方式

 これまで株価を知るための株式の評価方法について述べてまいりました。今後、事業承継を見据え、株式を贈与や相続により取得していく後継者にとっては、自社株式の評価額が判明して初めて色々な検討・施策を打つことができるようになると思います。

 スムーズな事業承継を進めるためには、株の移転コストを下げる必要があり、移転コストの代表的なものが税金です。税金を抑えるために株価を抑えることが事業承継のカギとなるでしょう。

 もちろん業績が悪化した場合には株価は下がりやすいですが、計画的に株価を下げていくことも必要と考えます。株価引下げ対策は、配当金額を減らすことや、会社の利益や資産を圧縮するなど様々な方法があります。ただし、将来の成長に必要な投資をしなかったり、株価引下げのためだけに利益を圧縮したりした場合には、そもそも本業に悪影響となるケースがあります。また、資産圧縮のために不動産などを売却した結果、先に述べた会社区分が変更になり株価が逆に上昇していまい、逆効果となる場合もあります。そのため、株価引下げ対策は税理士などの専門家に相談しながら進めることをお勧めいたします。