新規事業を立ち上げたい後継ぎへ 成長中の事例から考える「強み」とは
福山ビジネスサポートセンターFuku-Biz(フクビズ)は、2016年12月に広島県福山市が開設しました。開設から3年で相談件数が7000件を超えました。そのなかから後継者が創業140年の歴史を生かして新商品を開発した洋菓子店の事例と、家業の強みを生かしつつ福祉車両の整備など新規事業に乗り出している自動車整備業の事例を紹介します。
福山ビジネスサポートセンターFuku-Biz(フクビズ)は、2016年12月に広島県福山市が開設しました。開設から3年で相談件数が7000件を超えました。そのなかから後継者が創業140年の歴史を生かして新商品を開発した洋菓子店の事例と、家業の強みを生かしつつ福祉車両の整備など新規事業に乗り出している自動車整備業の事例を紹介します。
まず、明治時代の創業者のレシピを復刻することでファンの呼び戻しにつながった広島県府中市にある創業140年の洋菓子店「パティスリーパンセ」からご紹介します。
現チーフパティシエである6代目がフクビズを訪れたのは、2019年春のことでした。家族経営で「自分たちで新商品の開発やキャンペーンなどを行ってきたが、アイデアが手詰まりになってきた。15年前に和菓子店から洋菓子店に業態転換したことで、和菓子店時代の顧客が離れてしまった。何かいい手立てはないか」という相談でした。
フクビズが着目したのは、「家にこんなものがあるんだけど……」と2回目の相談時に持って来た、初代店主の和菓子のレシピでした。スイーツ市場は大手のコンビニが参入しているだけではなく、家にいながらインターネットで全国のお取り寄せができてしまうなど、競争がはげしい業界です。オリジナリティのある商品で差別化を図ることが重要である一方、容易ではありません。
このようななか、自社の歴史を生かし、当時の人気商品を復刻することは他社には真似できず、明確な差別化につながると考えました。また、折しも令和に元号が変わるタイミングで、パティスリーパンセも創業140年の周年祭を企画していました。
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そこで、周年イベントの目玉商品として、明治時代に初代店主が残した和菓子を復刻・販売することを提案しました。レシピの筆文字が読み解けなかったため、市内の歴史探訪の会を紹介しレシピの解読を依頼。この段階から広報戦略としてTV局の密着取材をアレンジしました。
こうして、明治の復刻和菓子「浜千鳥(はまちどり)」が完成。元となったレシピの筆文字を取り入れたパッケージも提案し、商品の統一感を出しました。結果として、中国地方全域でのTV放映、複数の新聞社からの取材などが相次ぎ、番組や記事を見た和菓子店時代の顧客が「素朴な味を食べたい」と再来店し、ファンの呼び戻しにつながりました。現在も新たな商品開発プロジェクトを進めています。
次に紹介するのは、2019年8月に創業者である先代から事業承継した福山市の自動車整備・販売・鈑金・塗装業「有限会社ピュアオート」の2代目経営者小林晃さんです。初めてフクビズを訪れたのは2019年3月でした。
父親からの承継を間近に控えて、今後の中長期にわたる事業ビジョンを明確にしたいとの想いを語りました。創業30年の同社は先代の丁寧な仕事ぶりに信頼を寄せる常連客によってその経営は安定していました。しかし、価格競争のあおりを受けて年々利益が下がってきており新社長としては次の一手を考えあぐねているとのこと。
じっくりと話を伺うなかで小林さんの想い・強みや特長が明らかになってきました。小林さんは30代半ばで笑顔が人懐っこい好青年、4人のお子さんの父親として家族との時間をとても大切にされている方で、それはご両親やご高齢者について語るときにも伝わってきました。
家業については、お父様と同年代のベテラン職人スタッフの腕を信頼していて、職人さんとともに家業が発展してきたことを誇りに思われていることも伝わってきました。趣味はご家族でのキャンプで、そのためにキャンピングカーを購入したほど。
家業の強みを活かした付加価値の高い新規事業として二つの方向性を提案しました。一つはキャンピングカーの整備とレンタルそして販売事業。もう一つは福祉車両の整備・リース・販売事業です。
キャンピングカー事業については即決ですぐに小型の中古キャンピングカーを購入し、2019年7月に営業を開始。可愛くて小回りの効きそうな外観から小林家の飼い犬のトイプードル茶々丸くんの名前をもらってキャンピングカー「茶々丸1号」と名付けて情報発信にも力を入れました。ちょうど夏休みシーズンとも重なり多くの利用申し込みがあり、手応えを感じるスタートを切ることができたとのことです。
福祉車両事業については備後地域の車両保有台数がここ数年延び続ける一方で、専門知識と技術を持った整備事業者が不足していることが分かり、小林さんは先代とも話し合ったうえで将来の事業の柱の一つとして福祉車両事業に参入することを決意しました。
その後の行動の速さは特筆もので、すぐに一般社団法人日本福祉車両協会主催のセミナーに参加して基礎知識を学ぶとともに、自ら車両整備の講習を受けて同協会の認定を取得。スタッフ2名も同講習を受けて認定を取得し、2019年12月より事業を開始しました。
福祉施設の担当者を招いて安全な取り扱いの勉強会を主催しながら、地域の福祉施設を中心に春から本格的な営業をスタート。現在は新型コロナウイルスの影響により新規営業を自粛中ですが、研究を重ねて地域の安全な福祉車両の運用を陰で支える存在になりたいという新たな目標に向かっているところです。父から承継した事業の礎を守りながら、未来へ向けて新たな成長戦略を描き奮闘する小林さんをフクビズはこれからもチーム一丸となって応援していきます。
フクビズでは新規事業を立ち上げる際のポイントとして、強みやターゲットを明確にすること、できるだけお金や時間をかけずにやってみることを大事にしています。
なぜなら、価値観が多様化している現代ではやってみないとわからないことが多いからです。そして、強みは外で見つけるのではなく、すでに内にあることが間々あります。長年、その事業に携わるうちに近視眼的になったり業界の常識にしばられたりします。また、当初はこだわってやっていたことも当たり前のようにできるようになり、自社の強みが見えづらくなることがあります。だからこそ、真の強みは何かをはっきりさせることが最初のステップだと考えています。勝ち目やすべきことがわかるとワクワク感も生まれ、やってみようという気持ちも高まり、結果として成功の角度が高まると思います。
フクビズは、連携中枢都市圏構想である備後圏域(約86万人)を対象とし、広島県(福山市・三原市・尾道市・府中市・世羅町・神石高原町)と岡山県(笠岡市・井原市)の2県をまたぐ取り組みとして展開しています。開設から4年目となる今年は、事業承継に対応した新サービス「Fuku-Biz NEXT(フクビズネクスト)」を立ち上げます。
事業の魅力を最大化させること、事業の可能性を顕在化させることは事業を譲る側にも受け継ぐ側にも共通する課題です。そして、これこそが事業承継の本質だとわれわれは考えています。事業承継で最も重要な点にフォーカスしながら、事業者支援をより一層強化していきます。
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