後継ぎ社長は「レッドオーシャンで勝て」ガチャガチャの事業戦略を解説

メーカー間の競争が激しいガチャガチャ(カプセルトイ)業界で、2017年に参入したブシロードクリエイティブが次々とヒット商品を生み出しています。メーカー30社以上がひしめき合う「レッドオーシャン」をどう生き抜けばよいのか。社長の成田耕祐さんが事業戦略を明かします。
メーカー間の競争が激しいガチャガチャ(カプセルトイ)業界で、2017年に参入したブシロードクリエイティブが次々とヒット商品を生み出しています。メーカー30社以上がひしめき合う「レッドオーシャン」をどう生き抜けばよいのか。社長の成田耕祐さんが事業戦略を明かします。
私は「ブシロードクリエイティブ」というキャラクターグッズを製造し販売する会社の代表をしております。親会社である株式会社ブシロードの完全子会社であり、いわゆる「サラリーマン社長」というやつです。私がなぜこちらにお邪魔しているのか。ツギノジダイの編集長がこのように言っていました。
「ほかの企業から後継ぎが戻ってくると、親(親会社)ときちんとコミュニケーションを取りながら、やるべき挑戦をやるバランスが必要です。そこで、そんな後継ぎが参考になるエピソードを教えてください」
なるほど。私に重責が務まるかは自信がありませんが、お読みいただいた方々のお役に立ちたいと思います。2008年にメディアファクトリー(後に株式会社KADOKAWAに吸収合併)に新卒入社し、映像商品の営業や子供向け玩具の商品企画、ライトノベルの編集やキャラクター開発などを経験した後に、2016年7月にブシロードへ入社しました。これまでの社会人経験の集大成という覚悟で、ブシロードクリエイティブという新会社の立ち上げのためにやってきました。このあたりの話に関してはいずれお話したいと思います。
子会社社長とはいえ、会社のトップを担うことは私にとっては初めての経験です。しかし、責任の先頭に立たせてもらったことで、健康的な重圧を持つことができました。まず私は、「会社が私に求めること」と「自分がやりたいこと」をノートに書き出してみました。
次々と生まれてくる自社原作を他社へのライセンスアウト(許諾し使用料を得るビジネス)することはあまりせず、我々でできる範囲の事業は独占気味に商品化展開を行うことだと考えました。これらが「会社が私に求めること」だと考え、確実に実現しようと強い気持ちを持ちました。「リスクなき薄利」よりも「自社で大きな粗利」を優先することになり、後々結果として成功しました。
次に書き出したのは「自分がやりたいこと」です。その1つにカプセルトイ事業(ガチャガチャ)がありました。
↓ここから続き
普段から「ガチャガチャをなんとなく買ってしまう」という趣味があった私は、ブシロードクリエイティブをガチャガチャメーカーにしたかったのです。
玩具・雑貨といったアナログなものづくり業界のなかで、出版物並みに新規のアイデアを比較的気軽に世の中に大量にアウトプットできるのがガチャガチャです。全国に販売機が約30万~40万台、設置店舗は5万店舗近くあると言われています。
ガチャガチャのマシーンは設置されている場所の方々の持ち物ではないことが大半です。ドリンクのベンディングマシーンと同じ発想で、設置料が発生しているのです。
販売代理店(我々のようなメーカーの商品を仕入れる会社)が細やかな全国へのオペレーションのもと、商品の特徴にあわせた売り場へ展開して頂いています。
最近では「ガチャガチャの森」「ドリームカプセル」などガチャガチャの専門店としてショッピングモールなどにテナントとして構える業態も増えています。
このようなガチャガチャ業界は、広報宣伝やマーケティング、鮮度の良いコンテンツのセレクト、品質向上など他のエンタメ業界では当たり前のことがあまりなされていません。薄利多売でコストを掛けられないこともあるでしょう。
一方、カプセルトイ発のオリジナルIP(知的財産)によるビジネスも夢ではありません。奇譚クラブの「コップのフチ子」やタカラトミーアーツと電通テックが手掛ける「パンダの穴」はその最たるものです。
それを目指して立ち上げたのが2019年8月からスタートした「TAMA-KYU」というブランドです。私を含む社内の人間の完全オリジナル企画を商品化するのです。これまで誰かが作ってくれたIPの商品化ばかりを扱ってきた我々にとって未知の挑戦でしたが、現在はSNSやマスメディアを通じてヒット商品が生まれています。
メーカー30社以上がひしめくカプセルトイ業界は、言ってみればレッドオーシャンです。筐体の設置台数には限りがあるわけですから陣取り合戦のようなものです。
どの業界においてもレッドオーシャンという言葉はネガティブなイメージで使われがちですが、私はそうは思いません。「レッド」になっているということは市場に需要があるということです。ポイントは、その市場の上位チームと同じ戦い方をしないことです。
イワシの大群がいたとして、そこに新規のイワシとしてレースに挑んだら簡単に勝てません。同じ海だとしても違う生物として泳げばいいのです。読者のみなさんに伝えたいことが次の通りです。
「仮にレッドーオーシャンの業界で商売したとしても、やり方や戦う姿勢でその海の中で唯一の生物になれる。希少価値の高い魚は市場で高く値付けされるのだ」
その際、とてつもなく優秀な企画であることが一番望ましいのですが、なかなか頻繁にはそうもいきませんので、セールスや宣伝の仕方などで他社と差別化するだけでも効果的です。ブシロードクリエイティブはカプセルトイ業界では例を見ないTVCMの大量投下や、ブシロードグループのシナジーを活かし、プロレスラーや声優の皆さんにインフルエンサーとして活動してもらっています。宣伝が弱い業界で「最も宣伝が強い…いや、唯一ガチンコの宣伝をするメーカー」として立ち位置を築こうとしています。アイデアとは何も商品向けだけに使われるリソースではありません。
昨今ではブルーオーシャンを探して、マイペースに競合がいない中で独占利益を目指す風潮があると思います。もちろんその通りです。しかし、私のようなサラリーマン社長や後継ぎ社長の皆さんは、大半が「すでに作られた環境の中で戦うこと」を初期は求められるはずです。それはつまり、「レッドオーシャンで勝て」というミッションです。赤い海で勝った実績が、次に青い海で一人悠々と泳ぐ権利を得るのだとサラリーマン体質の私は考えています。簡単にいうならば、「結果を残してから好きなことしなさい」ということです。
ここまでお読みいただいた方は恐らく私に対して「ガチャガチャの人」という印象をお持ちかと思います。
これが『事業の表紙を作る』ということです。実際私の会社はグッズ屋ですが、売上比率的にはガチャガチャが一番ではありません。
けれど、「グッズの人」よりも「ガチャガチャやっている人」のほうが世の中には少ないですし、興味を持ちますよね?自分という商品を他者に表紙買い、ジャケ買いをしてもらえるようなキャッチーな特色を持つことがとても大事だと考えています。それをきっかけにしたご縁でガチャガチャ以外の事業でも取引をしたり、至極まっとうな商談を重ねて「ヤバい奴」に表面上見えていたところからのギャップで勝負したりするケースもあります。
価格を下げて利益率を悪化させ、ハードワークによる量で勝負することで競合他社との争いに挑み大海原を血まみれで泳ぐよりも、ひと目見たら忘れられない野蛮な魚を目指してみるのはいかがでしょうか?
それでもその海が合わないようであれば、きっと貴方は海水魚ではなく淡水魚なのだと思います。フィールドを変えたほうがいいです。私も何度か窒息しかけて、なんとか今生きています。
(続きは会員登録で読めます)
ツギノジダイに会員登録をすると、記事全文をお読みいただけます。
おすすめ記事をまとめたメールマガジンも受信できます。
おすすめのニュース、取材余話、イベントの優先案内など「ツギノジダイ」を一層お楽しみいただける情報を定期的に配信しています。メルマガを購読したい方は、会員登録をお願いいたします。
朝日インタラクティブが運営する「ツギノジダイ」は、中小企業の経営者や後継者、後を継ごうか迷っている人たちに寄り添うメディアです。さまざまな事業承継の選択肢や必要な基礎知識を紹介します。
さらに会社を継いだ経営者のインタビューや売り上げアップ、経営改革に役立つ事例など、次の時代を勝ち抜くヒントをお届けします。企業が今ある理由は、顧客に選ばれて続けてきたからです。刻々と変化する経営環境に柔軟に対応し、それぞれの強みを生かせば、さらに成長できます。
ツギノジダイは後継者不足という社会課題の解決に向けて、みなさまと一緒に考えていきます。