下請け金属加工業の「新規事業」が銀座に並ぶまで「本業拡大のヒント」
愛知県岡崎市はものづくりの街。三菱自動車やトヨタ自動車の関連企業だけでなく、花火や墓石、仏壇などの伝統産業も根強く残っており、街の中には100年を超える企業も少なくありません。そのなかで、岡崎ビジネスサポートセンターOKa-Biz(オカビズ)がサポートし、下請け金属加工業が作り上げた人気の新商品「なないろのベビーリング」の発売までのストーリーをご紹介します。
愛知県岡崎市はものづくりの街。三菱自動車やトヨタ自動車の関連企業だけでなく、花火や墓石、仏壇などの伝統産業も根強く残っており、街の中には100年を超える企業も少なくありません。そのなかで、岡崎ビジネスサポートセンターOKa-Biz(オカビズ)がサポートし、下請け金属加工業が作り上げた人気の新商品「なないろのベビーリング」の発売までのストーリーをご紹介します。
オカビズは、2013年、岡崎市と岡崎商工会議所の共同運営の施設として立ち上がりました。地域の会社やお店、これから起業・独立したいという方向けの相談所です。相談は1回1時間で、何度来ても「無料」。ビジネスコーディネーターに加え、IT・デザイナー・コピーライター・中小企業診断士など各分野の第一線で活躍する専門家が「お金をかけずに売上アップする方法」を知恵出しし、成果が出るまで継続的にサポートしています。
年間約3,000件の相談を受けており、1ヶ月先まで予約が埋まるほど、地域からの支持を受けています。
そのオカビズに2016年11月に訪れたのは、岡崎市で機械金属部品加工を行う大藤製作所・ダイテック社長の近藤充雄さん、清美さん夫妻でした。1970年に金属の切削加工業として先代が大藤製作所を創業。その後、現社長の充雄さんが後を継ぎました。現在従業員は7名で、産業用機械部品の製造を主に行い、精密な加工技術が高い評価を受けています。また、チタンなどの希金属の加工にも強みがあります。
そうした中で、切削加工技術を活かした新たな事業展開を行いたいと、新規事業に特化したダイテックを、後継ぎである充雄さんが創業しました。
初めてのオカビズでの相談の時、色とりどりな小さな輪っかを机に並べ、充雄さんが話し始めました。
「20年ほど前、最初の子どもが生まれた時、僕は子どもに何かしてあげたいと思って、ベビーリングを自分で作ってあげたんだ。20年経って、それを売りたいなと思って」
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輪っかはチタン製のベビーリングで、化学変化で色付けをされていました。虹色の不思議な色合いで、一つとして同じものはない魅力的な商材です。
話を聞くと、金属加工の本業は、今は困っていない。ただ金属部品の加工は最終商品をイメージできないことや、消費者とつながれず、自分たちのものづくりが役に立つ実感が乏しい。そんななかで、満たされない幾分の虚しさを感じているようでもありました。
当時はベビーリングという言葉すらない日本で、町工場の金属加工職人が我が子の誕生を喜び、技術を駆使して作り、贈ったこの小さな指輪は、多くの人の感動に繋がり心に残った。あの時の感動をもっと多くの人にも届けたいと思ったそうです。
ベビーリングを子どもに贈るという習慣は、ヨーロッパなど海外から広がり、今では日本にも急速に定着しつつあります。
そこでオカビズでは、町工場の職人の夫婦が作る商品であることを前面的に出し、この商品が出来上がるまでの物語を明確にすること、またターゲットを父親にすることで、他商品との差別化戦略を提案しました。
こうしてコンセプトの設計から商品自体のブラッシュアップをサポート。そして自社でネットショップを開設し、2017年「なないろのベビーリング」を発売しました。SNSなどでの発信とともにメディアにも注目をいただき、現在も取り扱いたいという引き合いが多くの雑貨店からあります。現在に至るまでコンスタントに注文が入っています。
その後、間もなく「新しい商品を作ったんだ」とご連絡がありました。自信満々に机に並べられたのは、色とりどりの「ネジ」。軽量で高硬度のチタン製で、1個1,500円。「回す、はめる」動作に快感があり、子ども向けの知育玩具としての構想でした。
この商品の事業展開には、悩みました。何かを作ろうと思うとネジは少なくとも20個は必要です。ネジだけでも3万円、土台を入れるとかなりの高額になります。子ども向けの玩具としては非常に難しい商品です。
一方で「ネジを締める」という動作に特化し、ネジの重さ、材質、摩擦にこだわって製作した町工場のオリジナルネジでもあります。
大人向けの塗り絵やパズルといった、無心となって熱中できるおもちゃが人気を集めていることに注目。さらに、オカビズでは本格模型やコレクションを想定したフィギュアなどのハイターゲットトイブーム(大人向け、高級玩具)を背景に、「大人向け・自分のためのホビー」として商品化を提案しました。
そして、20個と言わずに15万円にもなる高額な玩具のセットを作ることで話題を生み、一気に注目を集めるプロモーション展開の戦略を提案。そこから、デザインアドバイザーやコピーライターも入り、ネーミングやセット内容、告知ツールの戦略会議を重ね、2018年のクリスマスを前に商品化しました。
「THE SCREW」と名付けてネット販売を開始しました。販売して数か月、「ホームページを見た」と連絡が来たのは、GINZA SIXにある「銀座 蔦屋書店」でした。話はとんとん拍子に進み、東京のど真ん中、流行の最先端、「銀座 蔦屋書店」が提案する「アートのある暮らし」商品として約1.5か月の販売に至りました。富裕層やインバウンド客から注目を集め、そこでも売上につながりました。
私たちオカビズは日々多くの自動車や産業用部品の下請け工場の話を聞いています。電気自動車の部品は現在の3分の1になると言われており、また製造拠点の海外シフトのトレンドは止まることもありません。
部品メーカーにとって次の一手をどう見出すかは、大きな課題です。近藤さんご夫妻は、これらの商品の認知拡大を狙って、積極的に展示会にも出店をされ、意欲的に活動しています。
「なないろのベビーリング」や「The SCREW」といったBtoCの商品開発は、それそのものの売上拡大はもとより、そこから本業の金属加工技術の需要拡大にもつながる可能性をもっています。
ターゲットやコンセプトが際立った最終商品の製造は「自社の強みを見える化する」ことでもあります。世の中に広く知ってもらえる機会が、これまでの本来業務の新たな顧客開拓にもつながると考えられるからです。
大きな転機に差し掛かっている製造業、特に下請け事業者にとって、自社の強みや特徴を棚卸しし、市場のトレンドやニーズを捉えたうえで「強みを見える化」する事業展開が、後継ぎに今、求められています。
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