異業種コラボ「天草ブリ弁当」から考えるアフターコロナの産業シフト
内山隆
(最終更新:)
ユネスコの世界文化遺産があり、豊かな自然に囲まれた熊本県の天草地域は、九州本土とは橋でつながった離島です。しかし、天草市の人口は1960年代から減っており、2018年度(平成30年度)には約8万人となりました。そんななか、従業員が100人の企業を1社誘致するより100の起業を支援するという中村五木市長の考えに基づいて、 天草市 起業創業・中小企業支援センター(Ama-biZ:アマビズ)が2015年4月5日に開設しました。2019年度末までに137の起業と365人の雇用に結びついています。今回は世界中を揺るがす新型コロナウイルスをきっかけに全国から注目された異業種コラボをご紹介します。
コロナでブリの出荷に相次ぐキャンセル
「養殖ブリが1万匹残っている。どうにか出荷できんかね?」。2020年(令和2年)2月末、天草市でネット通販やクルマエビのオーガニック養殖を手掛ける「クリエーションWEBプランニング(以下”ク社”)」代表の深川沙央里さんのところに、弟がブリの養殖を担当している水産会社「深川水産」から相談が持ち掛けられました。
聞けば、コロナの影響で大口顧客からのキャンセルが相次いで、困っているとのことでした。ブリや真鯛は、養殖に2年ほどかかり、脂が乗った時期を逃すと産卵時期に入って身が痩せ、商品価値が落ちてしまいます。販路を考える前に、まずは鮮度を保つために冷凍しないといけません。しかし、様々な女性の働く場所づくりを理念に掲げ、女性スタッフ6人と働く深川さんですが、コロナ下の家族介護や休校による保育などでみんな忙しく、スタッフが足りませんでした。「どうしよう」と悩むなか、3月半ばに開催された天草市宝島観光協会での会議で、宿泊業を営む「サンタカミングホテル」の横島龍一社長が「うちから人を出しますよ」と声をかけました。
「サンタカミングホテル」でも、コロナの影響で宴会や宿泊予約のキャンセルが相次ぎ、従業員を交代で休ませている状況だったのです。会議の3日後にはシェフを含む従業員2人がク社の手伝いに来てくれました。深川さんは「このメンバーなら昔から温めていた冷凍弁当が実現できるかもしれない」と考え、シェフの協力を得て養殖ブリを使った具体的なメニューが生まれたのです。
アマビズが社会意義を盛り込んだメディア発信を支援
プロモーションを考え始めた深川さんから相談を受けたアマビズは、コロナ下での顧客意見の取り入れと、販路開拓のためのメディア発信を支援しました。顧客意見の取入れ先として、地域の子ども食堂「いこいスペース∞まるちゃん家(以下 ”まるちゃん家”)」を紹介しました。まるちゃん家は、子どもたちの孤食を何とかしようと立ち上がり、現在では地域の子どもが数十名、保護者の方も参加しています。3月末にコロナ下で食堂は閉鎖していますが、企業などから余った食品を集めて、子育て家庭に無料で配る「フードパントリー」の形で主にひとり親家庭を中心に食材支援をしていました。深川さん自身がシングルマザーであることもあり、試作を100食寄付しました。保護者の方に冷凍弁当のアンケートを取る形で意見を吸い上げることができました。
改良を重ねるなか、ブリ南蛮にブリ煮付け、甘辛ネギ焼、ガーリックバターしょうゆステーキ、香草パン粉焼きという5種類の総菜をセットとした「天草ブリのお弁当」として商品化しました。4月1日から発売中です。
次に、いかにメディアに効果的に取り上げられるかを一緒に考えました。
「コロナ対策」、「異業種コラボ」、「子ども食堂への寄付」、「シングルマザー支援」という社会情勢・時局や地域貢献を盛り込んだプレスリリースの作成を支援しました。NHKの全国ニュース「シブ5時」、WEBメディアの「ダイヤモンド オンライン」、朝日新聞の全国版、熊本日日新聞などに取り上げられました。その結果、全国から問い合わせと注文が殺到しました。現在は農産物の調達、シール印刷機等の資材調達、資金調達などが課題となっており、うれしい悲鳴です。アマビズとしても次々と現れる課題にチャレンジすべく伴走支援を続けていきます。
アフターコロナ見据えた大事な視点
ク社の事例は、水産業、加工業、宿泊業、子ども食堂と、業界を超えたコラボであり、まさに天草という地域ならではのものでもあり、シングルマザー女性起業家が未来を創っていく物語でもあり、コロナをきっかけとした、アフターコロナの産業シフトの萌芽とも言えます。
アフターコロナ(またはウィズコロナが継続するような)のこれからの時代において、3つの視点が重要と考えています。3つとは、①地産地消、②地域ならではの価値提供・地域としての6次産業化、③未来への投資・地域産業再編です。
コロナでは、中国からの部品共有がストップし、日本の生産活動も停止を余儀なくされるなど行き過ぎたグローバル化のもろさが露呈しました。①は、そこを反省し、レジリエンス(しなやかに適応して生き抜く力)を地域でも担保していくあり方で、地域ごとのブロック経済化・地域ブランディングを取り戻して行く方向です。これは分散型経済による省エネルギー化もでき、テレワーク(Zoomなどによるオンライン会議)などどこでも働ける技術による人財分散もセットです。
②は、地域の良いものをしっかり掘り起こし、域外市場に出していく方向ですが、今まで以上に生産者が消費者へ直接商品を届ける「直接流通」が増えていくと思われます。そのため、ネットでの情報発信はさらに重要になります。そのためにも、ク社の事例のように地域の事業者がコラボし、全体として大きな6次産業サービス会社のように活動できる柔軟なビジネスエコシステムが求められるでしょう。
③は、未来を見つめた投資と教育投資が基本ですが、その際に、事業承継も含む「リ:投資」とでも呼ぶべき、コロナ以降を見据え、様々な投資の見直し・再投資がポイントと思われます。つまりコロナをきっかけとした、地域に資する業界再編です。よいところを残しての承継や、家業から事業への再編を伴う承継だけでなく、地域としての6次産業化など、地域全体のビジネスエコシステムとしての関連資本による再編です。先の見えない今に振り回されるのでなく、振り回す側に回ることもできます。不安定な時代こそビジョンを持つものこそが未来を引き寄せます。人口減少は原因ではなく、自らの魅力を再発見・再活用しないことの結果です。地域が改めて有機的につながる中で生まれ変わるチャンスとして今を捉えることで、行きたい未来に視線を投げつつ事業の船を漕ぎ、地域の未来を創っていきましょう。
天草をはじめとした地方にはまだまだお金に換えられないほどの豊かさと可能性が満載です。それを価値に変え、未来を築いていくのは起業者とチャレンジャーです。日本中の様々な方々との出逢いを大切にしながら、アマビズも日々チャレンジを続け、未来を創造していきます。
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この記事を書いた人
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内山隆
天草市起業創業・中小企業支援センター(Ama-biZ:アマビズ)センター長
富山県出身、1966年生まれ、アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)にてコンサルティング業務に従事。ITから組織変革まで幅広く関わってきた。非営利のエコ健康住宅会社の起業に参画した後、南阿蘇に家族4人で移住。廃校利用や自然エネルギーのNPOに勤務し、半農半X的生活にもチャレンジした。 熊本市ではエンパワメント(持てる力を引き出す)NPO法人を立ち上げ、代表理事も務めた。これまでのキャリアとネットワークの全てを駆使し、天草の活性化に貢献できると考えてセンター長に就任した。
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