赤字続きだったアパレル業が見つけた活路「新ブランド」でクラファン
ミセス向けのニットをつくり続けてきた創業1966年の「月城」(大阪府岬町)が、男性向けのサマーニットを新開発し、クラウドファンディングに挑戦したところ、目標額を1800%超える900万円を集めています。仕掛けたのは、3代目の月城亮一さん(26)です。家業は赤字が続いていました。既存市場が縮小するなかで「これでうまいこといかんかったら、会社が終わる」。そう覚悟を決めて始めた新規事業で幸先良いスタートを切りました。
ミセス向けのニットをつくり続けてきた創業1966年の「月城」(大阪府岬町)が、男性向けのサマーニットを新開発し、クラウドファンディングに挑戦したところ、目標額を1800%超える900万円を集めています。仕掛けたのは、3代目の月城亮一さん(26)です。家業は赤字が続いていました。既存市場が縮小するなかで「これでうまいこといかんかったら、会社が終わる」。そう覚悟を決めて始めた新規事業で幸先良いスタートを切りました。
本社は、大阪府岬町。月城栄一さんが1966年に創業した。ミセス向けのニットセーターやニットカーディガンを手がける。亮一さんは3代目。
矢野経済研究所などによると、2018年の国内アパレル市場の規模は約9兆円。業界トップのユニクロが2割のシェアを持ち、2~10位が2割、残りの6割のシェアをめぐって2万社がひしめき合っています。その会社のひとつ、「月城」はミセス向けのニットを作り、百貨店やスーパーの婦人服売り場、商店街の婦人服店に商品を卸してきました。
しかし、大手はすでに海外生産が中心で、日本の工場の小ロット生産や価格競争力ではサプライチェーンに乗せることが難しくなっています。亮一さんは「ニット工場に関して言えば、2020年現在、国産の生産比率は3%以下。数少ない国内ニット工場も売上減少や経営者の高齢化により、ますます減少傾向にあります」と話します。
もともと在庫を抱えやすい業界の構造的な課題に加え、暖冬や消費増税が追い打ちを掛けて、廃業するメーカーも出ています。さらに、新型コロナの影響で、アパレルメーカーから月城への注文もなくなってしまいました。そんななかでの新規事業への挑戦です。
家業に戻ってきて3年になる月城さんは、これまで通信販売など新規の取引先を開拓してきましたが、それでも黒字にするどころか売り上げが維持できません。「卸販売でなく、消費者へ直接販売しなければいけないと危機感を感じていました」
これまでのアパレルメーカーを通じた販売では、顧客の特徴もニーズも自社で把握できません。年4、5回ある消費者からの問い合わせはどれも洗濯方法の質問でした。そこで、消費者と直接向き合いたいと考え、メンズ向けのニットブランド「MOONCASTLE」を立ち上げました。
夏の商談でスーツを着ると汗が止まらなくなり、取引先で恥ずかしい思いをした亮一さんの経験から、第一弾は仕事でも着られるサマーニットにしました。接触冷感機能のある糸を使っています。
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初めてのメンズ製品でしたが、糸の仕入れから商品づくりまで一貫生産していたため、デザインを自社のデザイナーに任せ、取引のある繊維メーカーに素材について相談することができました。亮一さんは「僕自身が着たい服をつくることができました」と話します。
消費者には無名のブランドのため、まずクラウドファンディングの「Makuake」でテストマーケティングをすることにしました。事務局から「スタートダッシュが肝心」と聞いた月城さんは「クラウドファンディングのページを100人にシェアしてもらおう」と決め、なりふり構わず、あらゆる知り合いに片っ端から連絡を入れました。
父の次啓(つぐひろ)さんは親戚や友人に「息子と一緒に新たに事業を始めた。社運がかかった事業やから応援してほしい」と連絡しました。妹の恋人は誰よりも熱心にページの拡散に協力してくれました。そのかいあって、初日で目標の3倍になる150万円を達成。6月23日には900万円が集まっています。
目標額を大幅に上回る注文に対し、月城さんは「コンセプトに共感を得られ、消費者が欲しいと思える商品を作れた」と自信を深めました。都内のデパートからも問い合わせが来ています。次は、秋冬物の商品で1万着、売り上げ1億円を目指しています。
亮一さんはもともと家業を継ぐつもりはありませんでした。大学のころから「将来は起業したい」と考え、父に相談したときに「知っといた方がええで」と見せられたのが、赤字の決算書でした。ショックを受けつつ東京のベンチャーに就職しましたが、妹から聞かされる経営状況と父の様子が心配になり、3カ月後に両親の反対を押し切って家業に戻ることを決断しました。
ただ、新規取引先を開拓しても売上をキープするどころか、入社から3年で売上が半分近くになりました。亮一さんは「努力しても、全く報われないことに悩みました」。さらにここ数カ月は取引先の廃業や倒産もあり、会社を辞めようかと真剣に悩んだといいます。
両親に相談したところ、父・次啓さんは静かに聞いていましたが、母の和恵(かずえ)さんからは逆に「勝手に会社に入っといて、今度は勝手に辞めるんか!」と叱られました。
思い返せば、子どものころから月城のニット工場は、亮一さんの遊び場でした。資材で段ボールの家を作り、兄弟や親戚と遊んでいました。大学へ進み、留学までできたのは、この会社のおかげ。自分の名字と同じ「月城」をなくしたくない。「もう1回だけやってみよう。これが最後」。そんな思いが、新規事業の成功の第一歩につながりました。
亮一さんは、後継ぎに向けて、こんなメッセージを寄せてくれました。
僕は数カ月前、真剣に家業を辞めようかと悩んでいました。
両親にもそういう話をしました。
全く結果が出ず、会社も危機的状況にあったからです。
投げ出して、全てあきらめようかと思っていました。
しかし、諦めず新しい挑戦をしたからこそ、明るい道が少しずつ開けてきました。
今は毎日がすごく楽しいです。
でもあの時に会社を辞めていたら、今の楽しい自分はなかったと思います。
辞めなくてよかったです。
家業で働くと、ほかの人より苦しいことも多いかもしれません。
でもその分、楽しいこともそれ以上にあると思っています。
苦しいことも多いかもしれませんが、
明るい未来を目指して、お互い頑張りましょう。
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