「会社を清算することに決めた」経営者の決断 コロナで全店舗を閉鎖
新型コロナウイルスの経済的な影響が広がる2020年5月8日、「全店舗閉店して会社を清算することに決めました」というウェブサービス「note」への投稿が大きな注目を集めました。筆者は青森県と宮城県でカフェなどを展開してきた「イロモア」の元代表取締役の福井寿和さん(33)です。なぜ会社を清算することにしたのか。その決断から何を学べるのか。リアルな金額の動きを伝えつつ、全4回の連載で紹介します。
新型コロナウイルスの経済的な影響が広がる2020年5月8日、「全店舗閉店して会社を清算することに決めました」というウェブサービス「note」への投稿が大きな注目を集めました。筆者は青森県と宮城県でカフェなどを展開してきた「イロモア」の元代表取締役の福井寿和さん(33)です。なぜ会社を清算することにしたのか。その決断から何を学べるのか。リアルな金額の動きを伝えつつ、全4回の連載で紹介します。
ふくい・としかず
青森市在住、飲食店運営会社のイロモアの元代表取締役。外資IT系企業などを経て青森に帰省後、2014年に市議会議員に立候補したが落選。2015年に親族から借りた200万円でカフェをはじめ、5店舗にまで拡大。従業員は約50人、年商1億5000万円を超えたが、新型コロナウイルスの影響で事業継続を断念し会社の清算手続きに入った。決断に至るまでの背景をつづった「全店舗閉店して会社を清算することに決めました」が2日間で140万PVを記録した。
「いよいよ来たか。早く終わってほしい」。そう福井さんが心のなかでつぶやいたのが2月のことでした。当時は、大型クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」での集団感染がニュースの中心を占めるようになりました。
このころから客数が徐々に落ち始め、売上目標を達成できない日が多くなっていきました。「このままの状態が続いたら会社が危ない」と危機感を覚えましたが、それでも、当時はまだ、気持ちに余裕があったといいます。
2月末には自らを奮い立たせるようにTwitterでこんな投稿をしていました。
会社を経営してる人が、今めちゃくちゃ不安になってるのは『コロナの影響による売上減』だと思う。
— 福井寿和@全店舗閉店して会社を清算中の人 (@aomorio) February 28, 2020
でも大丈夫や!
倒産しても日本では死なない。従業員は国が守るし、経営者は借金が無くなる法律もある。金はまた稼げばいい。
ワイは吉野家のバイトから始めるで。いや、すき家かな。選び放題や。
しかし、3月7日土曜日、オンラインで来店状況を見ていた福井さんは、見たことのない数字に目を疑いました。
「どの店も来店者がほぼゼロ」。
全国的に新型コロナウイルスの感染拡大が止まらず、青森県内の小中高校などに休校が要請された後の初めての休日でした。通常の土曜日なら、どの店舗も満席です。しかし、この日は40人ほど入れる店の席が埋まりません。「倒産」の二文字が頭をよぎり、冷や汗が背中をつたいます。
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これ以降、売り上げが大幅に落ち込みます。平均日商が20万円の店舗でも、5万円を売り上げるのがやっとの状態になりました。朝から晩まで考えても対策が見つからず、眠れない日々が続きました。
店舗で働く従業員は50人ほどいました。これまで従業員とコミュニケーションを取ることを重視していたため、それぞれの悩みや生活状況を何となく把握していました。
3月以降、それぞれの店舗で約100万円の損失を出すことがわかりました。支出の3割ほどが人件費のため、アルバイトの出勤を減らせば赤字を縮小できます。経営のためにはそうするべきだと理解はしていましたが、従業員の生活を考えると、給料を減らす選択ができませんでした。
2月末時点の現預金は約3000万円です。3月は5店舗で合計500万円の損失となりました。4月に入ると店舗を休業させ、状況を打破する方法を改めて考えました。会社を存続させるには、ウィズコロナ、アフターコロナに対応できる新しい収益モデルを確立しなければなりません。
座席の間隔を開けても利益を確保できるのか、何度も消毒作業を行う労力とコストをどのように捻出するか、店舗でクラスターが発生した場合のリスクはどれほどか、新型コロナウイルスに関する指摘やクレームで現場が疲弊するのではないか…。資金と労力を考慮すると、非常に厳しい戦いが続くことは間違いありません。
在庫のパンケーキミックスを販売して、生き残りを模索しました。しかし、どの角度から分析しても、飲食店に新たな事業を加えて復活する未来は見えません。逆に、新規事業をやるにあたって、賃料などの固定費がかかる飲食店が重荷になる、という結論が明確になっていきました。
『パンケーキミックス販売開始』
— 福井寿和@全店舗閉店して会社を清算中の人 (@aomorio) May 2, 2020
水だけで作れる魔法のようなパンケーキミックスの販売を開始しました🥞✨
1kg 1,980円(税込・送料込)
限定100個
賞味期限2021年4月https://t.co/gXpmVZlZmT
しばらくは新規製造ができないため、今回の販売をもってネット通販はお休みします🙏💦 pic.twitter.com/S6AJ23QQlx
4月下旬。この月も全店舗で500万円の損失が出ることがわかりました。資金もみるみるうちに減っていきます。あらためて分析したところ、3カ月以内に売上が70%程度に回復しても年内の倒産が濃厚です。福井さんは、決断しました。
「守るべき人たちを最低限守れるのは今のタイミングしかない」。
会社を閉める相談を創業期から支えてくれた妻に打ち明けると、「もう少し続けたら?」という反応だったそうです。銀行に伝えても「考え直してほしい」と逆に融資の打診を受けました。
福井さんにとっても、独立してから人生の大半をささげてきた事業は、簡単に手放せるものではありません。うまくやる方法はあるのではないか、状況を悪く考えすぎではないか――。葛藤が何度も心を襲います。
それまでは経営者として活動してきたものの、会社を解散すると無職になります。
アイデンティティを失う怖さも、胸を締め付けました。感情の波に翻弄される日々が続きました。
一方で、コンサルタント出身の福井さんは、経営において計数管理を重視してきました。融資を受けることで事業を継続できますが、それは損失の穴埋めにしかならず、会社を延命させる効果しか見出せませんでした。
福井さんはついに、会社の閉める相談をするために弁護士を訪ねます。
(連載の2回目「コロナで年商1.5億円の会社を清算『もっと早く決断するべきだった?』」は、6月24日に配信しました。)
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