米Apple新社屋でも使われる HIROSHIMAアームチェア

 マルニ木工は広島県広島市で1928年に創業した、木製家具を製造、販売している会社です。米Apple社の新社屋には、マルニ木工の代表的製品「HIROSHIMAアームチェア」が数千脚納入されているほか、Google、Amazon、ブルーボトルコーヒーなど、時代を牽引する会社が、客先として名を連ねています。

 広島県から世界展開し、知る人ぞ知る家具ブランドとなっているマルニ木工ですが、創業から90年超、つねに順風満帆だったわけではありません。「バブル崩壊」「リーマンショック」と2度の経済危機に業態変革で対応し乗り越えてきました。

製品の完成形をイメージして板材から大雑把に部品を切り出す木取りと呼ばれる作業

 元々、宮島生まれの創業者が「宮島細工」と呼ばれる地元の伝統工芸などに触れる中で、まるで手品のように形を変えていく「木」に魅了されたことに始まります。その美しい木工製品を一般の生活にも広げようと、職人の手に寄らない分業による「木製家具の工業生産」を目指し会社を立ち上げました。高度経済成長の波に乗り、郊外の一戸建てのリビングルーム用にマルニ木工の家具は飛ぶように売れ、ともに会社も成長しました。

マルニコレクションで第二創業へ

 マルニ木工・代表取締役副社長の山中洋氏は「バブル経済の時期には卸売りを開始し、商社への転換を図ったこともありました。自社の強みが何か軸がぶれていたからでしょうか、バブル崩壊によって業績は一気に悪化しました」と振り返ります。

山中洋代表取締役副社長

 10年ほど前、メーカーとして「世界の定番を目指した精緻なものづくり」を追求しようと原点回帰。プロダクトデザイナーとして世界的に有名な深澤直人氏を迎え、今や当社を代表するブランドとなった「MARUNI COLLECTION(マルニコレクション)」が生まれ、第二創業につながったという経緯があります。

マーケティングの重要性に気づき、直販へ移行

 マルニ木工では、新しいブランドを展開するようになってから、販路が変わりました。

 それまでの商品は主に百貨店での販売でしたが、マルニコレクションからは、積極的にイタリア・ミラノで開催されている世界最大の家具見本市に出展し販路の開拓を行いました。

 展示会に出展し始めてから、インテリア雑誌で取り上げられ、インテリアショップや生活雑貨などのセレクトショップから引き合いがくるようになりました。山中副社長は「それまでは、新商品を出すたびに営業の力で販路拡大をしてきたのが、客先から取り扱いたい、と言われるようになり、マーケティングの重要性を感じました」と話します。

 商品が生み出された背景、品質など、生み出したメーカーだからこそ持つ詳細な情報を自ら発信すれば、販売代理店頼みではなく、直販でやっていける。そう考え、オンラインショップを開設したのが8年前になります。

商習慣が阻む見積もり以上のサイト改善

 2018年には、Webサイト運営支援会社にコンサルティングを依頼。サイトをリニューアルし、オンライン販売に力を入れています。ただ、山中副社長は「アクセス数は増加しているのですが、購入に繋げるところでつまずいて、リニューアルから1年が経っても売り上げは伸び悩んでいました」と打ち明けます。

現在のマルニ木工のオンラインショップ

 この背景には、日本特有の商習慣があるようです。Web制作会社、サイト運営支援会社、広告代理店など外注先との契約は、「サイト制作」「バナー広告制作」「UI(ユーザーインターフェース)デザイン改善」といった案件ごとに結ぶのが主流です。外注先企業は、その作業に必要な人材や時間を想定し見積もりをつくり、クライアントに請求します。

 このような契約形態では、たとえばサイト改善のある施策を行った後、それほど効果が見られなかったとしても、その次の戦略を企画、立案、実行することは、見積もり時点で想定されていない作業を請け負うことになります。見積もりで想定されている作業に追加して人材や時間を費やせば費やすほど外注先の利益は少なくなるため、決められたこと、クライアントから指示された以上のことをやることが難しくなります。

中小企業のECサイトの伸び悩みの理由は

 一方で、外資系の大手コンサルティング会社などでは「サイト改善業務にあたる人材、1人当たり月額100万円」などといった形で、作業ではなく人1人に対しての報酬で契約を結ぶことが多く、この場合は定められた「作業を行う」ことではなく、クライアントが求める「成果を上げる」ことを目指して、業務を遂行することになります。

 大企業であれば、月額数百万円以上の費用を投下してサイト改善の戦略から実行まで、大手コンサルに頼むことができるでしょう。もしくは、デジタルマーケティング専門の部署がある大手企業であれば、商習慣を把握した上で外注先を選び、社内で課題に応じた戦略を考え外注先に依頼する形で効率的にサイトを改善できるでしょう。ですが、中小企業で同じことをすることは難しく、これが中小企業で、オンライン販売が伸び悩む理由の1つです。

副業人材がこだわる「売り上げを上げること」

 JOINSの副業・兼業サービスでは、プロフェッショナル人材を数千円の時間給で活用できます。マルニ木工では昨秋から、大手小売り企業でデジタルマーケティング業務を行う30代男性が、副業人材として活躍しています。山中副社長は「月1度のサイト運営支援会社との会議では、これまで課題抽出止まりで、どう解決したらいいかわからなかったことが、次々と行動に移されています」と話します。

 副業人材を活用するようになって1年弱の間に、Facebookで情報を発信したことでどれだけオンラインショップの集客ができたか、カートのUI改善で購入までいく人がどのくらい増えたか、メールマガジンをどうやって強化するか、それらの施策を行った結果、どのくらいオンライン売り上げが増えたかなど、データから課題抽出、戦略練り直しまでを繰り返し行えるようになりました。

 マルニ木工で副業をしている男性は言います。「時給制で報酬をもらっている以上、できるかぎり会社に貢献したいという気持ちで業務に当たっています。業務の中で一番重視しているのは、売り上げを上げること。そこに繋がらない改善は優先順位を下げ、自己満足のサイト改善にならないように気を付けています」。新型コロナ感染拡大の影響が出る前の2020年1月時点でのオンライン売り上げは、前年比190%、2月、3月時点でも前年比120%と伸びている実績が、副業人材活用の成果を裏付けています。

 今やサイト改善にとどまらず、他部門との会議にも参加し、リアル店舗との連携についても施策を提案、実行しています。マルニ木工にとって副業人材活用は、いわば、デジタルマーケティング部門を立ち上げたのと同等の効果を生んでいるのです。