売り上げを過去10年で最高に伸ばしたインスタ 未経験の和食店主に救世主
新鮮な魚介類や野菜を使ったこだわりの和食店が埼玉県狭山市にあります。食事メニューの魅力をインスタグラムで発信を始めたところ、過去10年で最高の売り上げを達成しました。パソコンを使ったことがなかった店主に、救世主が現れました。中小企業の売り上げ向上サポートを目的に2019年4月に設立された狭山市ビジネスサポートセンター(Saya-Biz)から紹介します。
新鮮な魚介類や野菜を使ったこだわりの和食店が埼玉県狭山市にあります。食事メニューの魅力をインスタグラムで発信を始めたところ、過去10年で最高の売り上げを達成しました。パソコンを使ったことがなかった店主に、救世主が現れました。中小企業の売り上げ向上サポートを目的に2019年4月に設立された狭山市ビジネスサポートセンター(Saya-Biz)から紹介します。
埼玉県狭山市は人口約15万人、都内から特急で約40分のベッドタウン。狭山茶の産地というイメージが強いですが、実は工業団地が2か所存在するものづくりの町という側面もあります。
和食店の「旬彩遊膳 味叶」は、店主・齊藤孝史さんが毎日市場へ行き仕入れてくる新鮮な魚介類や野菜を使った、ボリュームたっぷりの日替わりランチが人気です。24年前に齊藤さん夫婦が自宅で開業し、10年前に国道沿いの交差点そばという好立地である現在の場所に移転しました。
ところが、もともと材料への強いこだわりから原価率が高かったことに加え、移転による店舗家賃が利益を圧迫。かつては収入の大半を担っていた慶事や法事、大人数での接待などのニーズが低下したことで、2019年5月にSaya-Bizに相談に訪れた時点で売り上げ・利益ともに課題を抱えている状況でした。
売り上げアップのカギを見つけるために、まず始めたのは事業についてのヒアリングです。この時点ではホームページやブログ、SNSを全く活用していなかったため、お店の歴史や現状について事細かに伺うことからのスタートでした。
具体的な話を伺ってみると、味叶の「強み」の種が次々と明らかになってきます。まず、ご店主の料理人歴は30年以上。16歳のころから修業をはじめ、狭山市の隣、入間市にある有名和食店では25人ほどいた板前のトップ・花板を務められた経験がありました。
そして、メインのお客様層は、シニアの女性グループや家族連れとのことでしたが、隠れたファンとして経営者が家族連れで来店することが多いとのこと。「経営者のお客様が『高い料亭の食事は飽きたから』なんて言いながらいらっしゃるんだよ」という店主の話を伺い、「逆に舌が肥えたお客様に選んでいただけるだけの技術をお持ちだということなんだな」と店主の料理の素晴らしさをその場で確信することができました。店主の腕と経験に間違いがないとわかれば、売り上げ向上のカギは「ターゲットに情報が伝わっているかどうか」です。
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これまでは口コミでの紹介が多く、前述のようにオンラインでの情報発信を全くしていなかったため、改めてターゲットの確認とコンセプトの設定、情報発信の方向性について1つ1つ決めていきました。その結果が、以下の通りです。
情報発信については、ブログとインスタグラムの活用をご提案しました。しかしここで問題が発生します。ご店主はとても前向きなのですが、これまでパソコンを操作した経験がありませんでした。そして携帯電話もアプリを追加できない仕様のため、携帯電話からの投稿も難しい状態です。携帯電話やパソコンを数万円出して購入いただくことはナンセンス。
そのため、スタート時はご店主が撮影した写真と、ご主人の口頭での説明をもとにSaya-Bizで投稿を作成し、1週間先までの予約投稿を設定する、という状況でした。しかし、これではリアルタイムにその日のおすすめメニューや日替わりランチの情報を出すことができません。
そんな時、情報発信係として手を挙げてくれたのがご店主の2人の息子さんたちでした。当時大学生だった長男がブログの、高校生だった次男がインスタグラムの担当となり、毎日リアルタイムの情報を発信するようになったのです。
文字通り「家族でのチャレンジ」でした。そして発信を継続した結果、翌月から売り上げは毎月前年対比100%以上を達成、そしてなんと2019年度トータルでは店舗を移転して以来、最高額の売り上げを達成することが出来たのです。
しかし売り上げ最高額を達成した喜びもつかの間、2020年春、新型コロナウイルス感染拡大に伴う売り上げ減少が味叶を襲いました。そこで、すぐに実施したのが「届け方の工夫」でした。多くの飲食店と同様にテイクアウトのお弁当を強化したのに加え、目を見張るのは「ドライブスルー」です。強まる外出自粛の動きを受け、自動車で来店された方にも手軽に購入いただけるように店舗を改造してしまったのです。
そして同時に手掛けたのが「商品の工夫」です。他社含め数ある弁当の中から選んでもらうために、店主の魚介類の目利きと腕を生かした「海福丼弁当」を製品化しました。「『海』鮮を通じて、景気もお客様の健康も回復し『福』がもたらされますように」という気持ちを込めたネーミング。パッケージには疫病退散を願って妖怪のアマビエのイラストを掲載し、価格も末広がりの888円(税別)に設定するなど縁起の良さをとことん追求しました。
発売開始直後から1日10食以上売れる人気商品となり、発売から3か月たった現在ではテイクアウトの定番メニューへと成長しています。そして、この新製品の発売情報についてブログやインスタグラムで発信したのは、他でもない2人の息子たちだったのです。
昨年の流行語大賞にもなった「ONE TEAM」。味叶の事例は、まさに親子が「ONE TEAM」となったからこそ生み出せている成果です。息子たちが発信するようになったことで「調理の裏側」を見せることも可能となり、素材の新鮮さやご店主の腕さばきがより伝わるようになりました。魚を下ろす動画や鰻を焼く写真を見て来店される方もいるそうです。中小企業の成果創出のサポートを通じて、このような親子の協働の機会を生み出していくことも、私たちのような立場の人間がお手伝いできる事業承継に向けた第一歩なのかもしれないと感じています。
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