自社の強みを「見える化」していますか?仏壇・仏具店が時代に合うために
核家族化や生活様式の変化で、親世代の仏壇を引き継ぐことが難しくなりつつあります。そんな顧客一人ひとりの課題に寄り添ったサービスを提供してきた明治44年創業の老舗仏壇仏具店が山形市にあります。「誰の」「どんな場面に」「価値を提供できるのか」を分かりやすく伝えられると、どんな変化が生まれるのか。山形市売上増進支援センターY-biz(ワイビズ)からそんな支援事例を紹介します。
核家族化や生活様式の変化で、親世代の仏壇を引き継ぐことが難しくなりつつあります。そんな顧客一人ひとりの課題に寄り添ったサービスを提供してきた明治44年創業の老舗仏壇仏具店が山形市にあります。「誰の」「どんな場面に」「価値を提供できるのか」を分かりやすく伝えられると、どんな変化が生まれるのか。山形市売上増進支援センターY-biz(ワイビズ)からそんな支援事例を紹介します。
蔵王連峰、月山など周囲を名峰に囲まれ自然豊かで農産物の産地として名高い山形市。また東北最大都市仙台と近く交通手段も充実、新幹線で東京まで2時間40分と他の商圏とアクセスの良さも魅力な街です。京都に次いで長寿企業が多いといわれる山形で、今回紹介するのは、明治44年(1911年)創業の老舗仏壇仏具店「長門屋」です。
明治44年(1911年)創業の老舗仏壇仏具店「長門屋」の5代目、笹林陽子社長が「山形仏壇や大型仏壇の新たな購入需要が減少するなかで、どのように売上を伸ばしていったらいいか」とY-bizに相談に訪れました。
現在は仏壇仏具の専門店として商品の販売、修理のほか、仏事の相談を受けていますが、もともとは良質な漆液がとれる山形で、江戸初頭にまでさかのぼる漆の技術を用いて漆器の製造・販売をしていたのが始まりです。信仰心の篤かった初代店主がこの漆の技術を使ってお仏壇を扱うようになりました。先代、先々代の頃にはよく動いていたという山形仏壇は国の伝統的工芸品にも指定されていますが、木目を生かした塗りがなされ、蒔絵を描き、金箔押しをして金具が取り付けられるという荘厳なものです。
しかし、核家族化や生活様式・住宅事情の変化によって山形仏壇を始めとする大型仏壇の新たな購入は減少。お客様のニーズに合わせてモダン仏壇や箪笥の上に設置できるほどの小型仏壇もこだわりの良品を揃えるようにしていますが、今の時代、仏壇・仏具の専門店としてできることは何かを模索していました。
お話を伺うと、仏壇・仏具・墓石といった商品販売のほかに、それぞれの顧客の事情に寄り添って様々なサービスを提供されていることがわかりました。
仏壇だけをとっても、「洗濯」と呼ばれるくすみや汚れを落とし修理・修繕することはもとより、元々の仏壇の素材と面影を残した小型化やモダン化、仏壇以外のカタチ、例えば屏風や額装、大切なものを保管する箱などへのリメイクをされていました。
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「実家の仏壇を今の住まいに移せない。新しいものを買い直して、代々のものは処分するしかないだろうか」といった相談を受けると、それぞれの事情に合わせて継承の方法を提案し、今のお住まいに合わせてサイズダウンしたり、御霊を分けて子供世代のそれぞれのマンションに小さな仏壇を用意したり、なかには仏壇の一部を生かしてインテリアに作り変えてきたというのです。
この提案力の背景には同社が仏壇・仏具の職人とのつながりが深いことや店舗の敷地内には初代店主が開基した寺-慈光明院-があり供養・仏事にも詳しいことがあり、それが「長門屋ならでは」の強みになっています。
笹林社長とスタッフの方々が穏やかな口調で当たり前のことのように語るその技術力と対応力は驚きですが、加えて印象に残ったのが「仏壇の引き継ぎの仕方を考え選択されていくなかで、お客様のお気持ちが整理されていく」という話でした。
仏具や仏壇を引き継ぐことはその「モノ」に込められた「想い」を引き継ぐことでもあります。すべての人にとってそうであるとは限りませんが、そう考える人も少なくない。単なるモノだと考えていないが故にその対応を悩んでいる人が少なくないのではないでしょうか。生活様式の変化から親世代の仏壇をそのまま引き継ぐ人が難しい人が増えている今、長門屋の提案力と対応力を求めている人は少なくないと感じました。
そこでY-bizでは「課題解決の方法としてのサービスの見える化」に取り組むことを提案しました。仏事にまつわる様々なお悩み・お困りごとに対して多くの解決策を提供されているにも関わらずそれが「見える化」されていないために、多くのお客様にとっては単に「商品を購入するための店」と捉えられてしまっているからです。
具体的には、第一弾として「絆をつなぐ仏壇・仏具の仕立て直しサービス」をメニュー化しチラシを作成しました。(1)修復, (2)小型化や仏壇以外のものへ作り変えるリメイク, (3)部分買替と修理の組み合わせという仕立直しの3つの選択肢を過去にそのサービスを受けられたお客様の声と合わせてご紹介する形にしました。
お盆の時期を狙って展開し、大型仏壇の引き継ぎという地域課題への解決策としてメディアへの配信を同時にサポートしたところ、朝日新聞、日経MJほか新聞5紙で報道されました。結果、宮城県や首都圏からの問い合わせが増えました。東日本大震災に遭われた方から「津波につかってしまった仏壇を転居先に移せずにいた。修復・リサイズできるならば震災を一緒に 乗り越えた仏壇を転居先に移したい」といった相談などサービス開始から半年で小型化の依頼が4件ありました。そのほか、ご相談や修復相談から仏壇の買い替えにつながった事例もありました。
修復の依頼は前年と比べ2倍に増え、サービス開始からほぼ1年経つ今年春にもテレビ2局で取り上げられ、それを見た方から「自分のための報道だった」とお問い合わせをいただくなど継続した情報発信にもつながっています。
その後、第二段として展開した「数珠の仕立直しサービス」も好評で継続的に依頼があるとのことです。
これまでも相談があれば個別に対応してきたことに改めてサービス名をつけ分かりやすくメニュー化することで潜在的なニーズをもっていたお客さんに届くようになり、「自分が活用したいサービスだ」とより気がついてもらえるようになり新たな顧客獲得につながったわけです。
「誰の」「どんな場面に」「価値を提供できるのか」を分かりやすく伝えることは、潜在的なお客さんを顕在化させることにつながります。歴史や経験値に裏打ちされたノウハウや自社技術がお客様のどんなシーンで価値を発揮し喜ばれてきたのか、改めて棚卸しし今のニーズにあった形にサービスを再構成することは、過去を探り未来につなげる顧客開拓の方法だと思います。
Y-biz(山形市売上増進支援センター)は「地域活性化は地方創生に必要不可欠であり、地元企業の売上増には伴走型支援が欠かせない」との佐藤孝弘市長の考え方に基づき、東北初・県庁所在地初のビズモデル型支援施設として2018年1月に始動しました。売上アップに特化した伴走型支援機関として、京都について長寿企業が多いと言われる山形で創業支援から老舗の新サービス開発・販路開拓までサポートしています。相談は1回60分。何度でも無料です。
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