需要減を覆す【顧客の創造】道産子もうなる「非冷凍たらこ」のうまみ
顕在化している需要に応えるだけでは、人口減による縮小傾向は止められません。そんななか、北海道釧路市で伝統的食材「たらこ」を加工する水産物加工会社が新たな味を投入しています。経営学者ピーター・ドラッカーのいう「顧客の創造」に取り組む若手社長の取組みを、公設の産業支援施設・釧路市ビジネスサポートセンター(k-Biz、ケービズ)が紹介します。
顕在化している需要に応えるだけでは、人口減による縮小傾向は止められません。そんななか、北海道釧路市で伝統的食材「たらこ」を加工する水産物加工会社が新たな味を投入しています。経営学者ピーター・ドラッカーのいう「顧客の創造」に取り組む若手社長の取組みを、公設の産業支援施設・釧路市ビジネスサポートセンター(k-Biz、ケービズ)が紹介します。
たらこの加工商品は「辛子明太子」か「塩たらこ」の2つがほとんどで、長年この2つの商品で市場が形成されてきました。一方で、総務省の家計調査によると、1世帯あたりのたらこの年間消費額は減少傾向にあります。
そんななか、宮下社長がこの「たらこ」市場に挑戦したのは「これまでにない味」でした。「まずは失敗を恐れず何でも試してみる」を掲げ、ありとあらゆる可能性を試しまた。様々な試作品のなかから商品化されたのが、近年様々な分野で注目されている「旨み」を強化した第三の味「だしたらこ」です。
昆布とカツオ節からとったオリジナルの出汁に漬け込んだ「だしたらこ」は旨みが増す分、塩分を通常の半分に抑えることができ、塩分を気にしてたらこを食べられなかった方にも食べることを楽しんで頂ける商品です。
だしたらこには、旨みを逃さないもう一つの工夫があります。釧路海洋フーズに限らず、たらこの製造方法は一般的に原料を仕入れたタイミングで大量製造したものを冷凍して保存し、発注に応じて出荷をしています。スーパーなどに並んでいる「塩たらこ」「明太子」は解凍したものを「生もの」として売っています。
しかし、社長の妻である宮下友美専務は、解凍過程で肉と同じように少なからず旨みが逃げてしまっていることを気にかけていました。というのも、従業員だけが食べている「作りたてのたらこ」が一番美味しいからです。この味は、水産加工業が存在する釧路だから食べることができる味で、この味にこそ食べる人のニーズがある。この街だからこそ食べられる味を提供すれば街の魅力を高めることができるのでは、と考えました。
たらこ本来の旨みをあますことなく伝えることができる商品を提供するために、工場の一画を使い直売を始めることにしました。しかし、元々が工場のため、アクセスが良いわけではなく、従業員5名の小さな工場で使える予算もほぼなく、わざわざ購入しに来てもらうための戦略が必要でした。
生キャラメル、生食パンなど「生」が流行っている状況ではありましたが、「生たらこ」では通常の流通の商品も「生たらこ」として扱われており、特別だと感じてもらうのは難しい状況でした。そこで、商品名を「旨だしたらこPremium」と名付けました。
また、販売日も覚えてもらいやすくするために固定化する必要があると考えました。これまで原料入荷に合わせていた製造スケジュールを調整し、毎月第2・第4木曜日を「Premiumの日」として設定し、直売所をオープンしました。
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予算がないため、S N S中心の告知だったのですが、地元新聞に取り上げられたこともあり、オープン初日から想定の個数は完売。その後も順調にリピーターと新規顧客を獲得し、売上が伸びています。
顧客からは「長年食べているけど、非冷凍の美味しさは知らなかった。月2回楽しみに買いに来ています。」といった声があり、地元の需要創造に成功しています。また、「釧路でしか食べられないものを食べたかった」との理由で、周辺地域や釧路を観光に訪れた方が、「旨だしたらこPremium」を購入するために来店されることもあり、釧路の街のコンテンツの一つになりつつあります。
「たらこ」は長年日本で愛されてきた食材で、加工業のプレイヤーも多い業界です。出来上がった成熟市場であり、売れ筋のものがはっきりしていたがゆえに、「新たな味」にチャレンジするプレイヤーが少なかったところにチャンスがありました。
また、大手の大量生産ではできない、小資本ならではの製造スケジュールを調整することで、同じ商品でも「作り立ての味」で違う商品として新たな顧客を創り出すことが実現できました。安定したプレイヤーが多く、じりじり下がっていく需要量とそれに合わせた供給量がほぼ一致しており隙がない地方の市場でも、新たな顧客を生み出すことで、既存プレイヤーと価格競争をせずに売上を伸ばすことができます。
釧路市ビジネスサポートセンターk-Bizでは、企業誘致に頼らず地元の中小企業一社一社の業績アップをサポートすることで地域おこしを実現する施設として2018年8月に開設しております。期待の若手経営者が多く台頭する北海道釧路市に今後もご期待ください。
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