コロナでも売り上げ減少は最小限 老舗わさび園の情報発信は無料ツール
新型コロナウイルス感染症拡大による多くの飲食店の営業自粛の影響を受け、わさびの市場価格は前年比で半減……。そんななか、静岡県伊豆市で大正時代から続く「滝尻わさび園」5代目の妻として嫁いできた浅田恵子さんが無料ツールを駆使した情報発信によって、売り上げの減少を最小限に食い止めました。
新型コロナウイルス感染症拡大による多くの飲食店の営業自粛の影響を受け、わさびの市場価格は前年比で半減……。そんななか、静岡県伊豆市で大正時代から続く「滝尻わさび園」5代目の妻として嫁いできた浅田恵子さんが無料ツールを駆使した情報発信によって、売り上げの減少を最小限に食い止めました。
恵子さんが2018年1月、初めて熱海市チャレンジ応援センター(A-biz)を訪れたときの相談は、家業のことではありませんでした。熱海市で子育てサークルを運営する知人の紹介で、伊豆市で参加している子育てサークルの運営資金をどう集めたらいいかというものでした。
A-bizは、事業者の売り上げアップなどを目指して2012年に開設しました。市内事業者とのシナジー効果を期待して、市外からの相談も受けており、約3割は市外事業者からの相談となっています。恵子さんが再訪したのは、最初の相談から約10か月後。A-bizリニューアル1周年記念のイベントで紹介した企業の支援事例に触発され「わさびをもっと若い人にも知ってもらいたい。そのために、サイトやSNSで情報発信をしていきたい」と話しました。
話を伺うと、当時、わさびの販売自体は市場を通して安定しており、家族経営で人員も限りがあるのであまり大きく売上を伸ばす必要はないとのことでした。それであれば、無理にお金をかけたサイトを作る必要もないだろうと考え、初心者でも作れるクラウド型のサービスを使ってサイト制作をすることと、若い人に発信ができる様にFacebookページとインスタグラムのアカウントを開設するところからサポートすることにしました。
子育てと家業の手伝いの合間に、1か月に1回の頻度で熱海を訪れ、操作方法を学びつつ少しずつサイトを作っていきました。滝尻わさび園のサイトは、サイト作成サービスのジンドゥー(Jimdo)の無料版を使いました。
数年前に地元雑誌に取材を受けたときの写真を使っていいという許可もあり、サイト制作は順調に進み、SNSでの情報発信も続けていきました。情報発信を続けるなかで、恵子さんのわさびを知ってもらいたいという気持ちはさらに強くなり、若い人に直接知ってもらうために地元のマルシェなどのイベント出店を増やしていきました。しかし、いざ出店をしても、なかなか思うようには売れません。
そこで、次のサポートを考えました。
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そのサポートというのが、いかにイベントに訪れた人の目を引き、特に若い人に興味を持ってもらえるようにアピールするかでした。A-bizのデザインアドバイザーにも入ってもらい、恵子さんが打ち出していきたいブランドイメージを策定、イメージに基づいて使用するトーンや色、フォントの選定を行い、パンフレットの作成や父の日用のギフトカードのデザインもサポートしました。
すべてパソコンの中に入っていたパワーポイントなどの一般的なソフトや、ネット印刷を活用しましたので、コストはほとんどかかりませんでした。イベント出店時のディスプレイや値札もわさび園にあった木のトレイや籠などを使ってブランドイメージを適切に表現できるようにアドバイスしていきました。
同時に行ったのが通販サイトでのオンラインショッピングの準備です。SNSの発信を強化し、イベント出店の機会も増えると少しずつリピーターも増えてきます。電話やメール、SNSのダイレクトメールのやり取りでは金銭授受などの手間がかかることもあり、クレジットカード決済が利用できる通販サイトを開設することにしました。ネットショップ作成サービスとEコマースプラットフォームを提供している「BASE」を利用し、無料で開設しました。
少しずつ準備し、完成したのが2019年の秋。売上は少なかったですが、イベント出店時の売り上げは当初より伸び、季節のギフトなども少しずつ売上を伸ばしてきていました。次の展開としてA-bizが紹介した東京の方とコラボして、都心で行われるマルシェへの出店を準備していた矢先、新型コロナウイルス感染症が拡大していきました。
マルシェは軒並み中止。緊急事態宣言が発令され、飲食店の休業が始まると、わさびの市場価格が半額以下となり、出荷制限も掛かり、天城のわさび農家も大きな打撃を受けました。多くの業界が大きなダメージを受けるなか、賞味期限のある生ものを扱う生産者や飲食店を何とか救おうという機運が盛り上がりました。
恵子さんも、滝尻わさび園や天城のわさび農家の実情、オンラインショップがあることなどをSNSで発信しました。すると、友人やSNSのフォロワーが情報拡散に協力してくれました。一時は対応が間に合わないくらい購入の問い合わせが増えたそうです。
その結果、誰も予測できず、事前に対策を取ることなどできなかったコロナ禍のなか、滝尻わさび園は恵子さんの活動によって、売上の減少は前年比で2~3割にとどめることができたのです。
今回の事例は6次産業化とも考えられますが、専門家やプロデューサーの力を借りずとも、自分たちでコツコツと活動を続けてきたからこそ売上の減少を最小限に食い止めることができたとも言えます。準備に時間は掛かりましたが、ほとんどお金は掛かっておらず、サポートを受けつつも自分で準備し、ネットワークを広げていたからこそ実現できたと思います。
自分の商品に対する思いはどんな事業者も持っています。しかし、それは知ってもらうことができなければ伝わることはありません。伝わらなければ購入してもらうこともできないでしょう。新しい生活様式にどんどんシフトしていく世の中では、その場で食べたり使ったり、体験してもらえれば分かってもらえる、という売り方だけでは通用しなくなります。いかに自分たちから情報を出し、知ってもらえるか、無料で明日から使えるツールは既にたくさんあります。コロナウイルスによってパラダイムシフトが起ころうとしている中で事業を残していくためにも「分からない」「苦手だから」で済まさず、まずは簡単にできそうなものから取り組んでみてはいかがでしょうか?
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