目次

  1. 資金繰りとは
  2. 資金繰りの安定が必要
  3. 資金繰りとキャッシュフローの違い
  4. 資金繰り表で現金の枯渇を避ける
  5. 資金繰りに困ったらどうする?
  6. コロナ危機で資金繰り相談が急増
  7. コロナでも業績回復できる会社とは
  8. 資金繰り表で早めの施策が打てる
  9. 資金繰り表の作成方法
  10. まず1年先までの資金繰り表を

ケース

 Aさんは地元の和菓子店の後継ぎとして育てられ、商社で海外赴任も経験した後、40歳手前で家業に戻り、昨年6月に代表取締役に就任しました。年明けには新メニューも発表し、新経営者として順調に歩み始めていました。

 ところが、新メニューが評判となった矢先に新型コロナウイルスが深刻化しました。客足の激減で、売り上げも減少。補助金や持続化給付金はすべて受け取りましたが、秋以降の資金繰りが不安になってきました。

 先代時代の経理資料も見てみましたが、どんぶり勘定で、顧問税理士も確定申告以外は何もしていない様子。売り上げと経費を精査し、利益率のシミュレーションを算出するような管理会計を行った形跡はありません。このままでは現金が枯渇し、資金繰りに詰まるのではないかと焦っていますが、何から着手すれば良いのかわかりません。

 今回は、資金繰りの基礎知識を紹介すると共に、中小企業の資金繰りをサポートする 東京都中小企業再生支援協会(認定支援機関:東京商工会議所)の担当者からのアドバイスを紹介します。

 まず、資金繰りの「資金」とは何を指すのでしょうか。Aさんの会社を例にすれば、資金とは現金や預金など、和菓子の原材料費を支払うため、会社としてすぐに使えるお金を指します。上場株式などは資金の範囲には含まれません。そして「資金繰り」とは、支払いに困らないようにお金をやり繰りすることです。

 経営者として絶対に避けなければならないのが倒産です。倒産は支払日に現金が枯渇しなければ避けられます。売り上げが減ったとしても、支払日に払えるお金があれば、会社は存続できます。支払日に現金の枯渇を防ぐには、三つの方法が考えられます。

1.支払いを入金の後にする
2.手付金や中間金をもらう
3.どこかから資金を調達してくる

 これらの手段を取るのに、黒字か赤字かは関係ありません。黒字でもお金を貸してもらえなかったり、支払期限の延長が難しかったりする場合もあります。逆に、赤字でもお金を貸してもらえることもあります。「赤字=お金の不足」ではないことに留意しましょう。

 「黒字倒産」という言葉がありますが、これは決算報告書上は黒字であるにもかかわらず、支払日に現金が枯渇したために倒産する場合を指します。年間では黒字を計上するような企業で、たとえ2カ月後に3000万円の売り上げが予定されていても、3日後の支払日に仕入れ代金の2000万円が用意できなければ、黒字倒産を引き起こすことになります。

 今は「コロナ倒産」が増えていると言われていますが、これも顧客の急減などで、支払日に現金が不足しているからこそ起きる現象です。

 「倒産を回避するために売り上げを伸ばす」という対策もありますが、売り上げが増えるほど、運転資金がかかることに注意しなくてはなりません。売り上げが増えても、入金が経費の支払い後なら、現金の枯渇は避けられない場合があります。金融機関から融資を受けるなど、常に資金繰りを安定させておくことが必要なのです。

 資金繰りとは別に「キャッシュフロー」という言葉もあります。これは、キャッシュフロー計算書を元に、1年単位で会社の流れを判断するためのものです。決算書ができあがった後に全容が把握できます。

 資金繰りは実際の入金、出金という「お金のやり繰り」を指すのに対し、キャッシュフローは「お金の流れ」そのものを指す点が異なります。例えば、営業活動によるキャッシュフローは年間で600万円のプラス、投資活動によるキャッシュフローは年間で1000万円のマイナスという表現をします。

 資金繰りは決められた支払日に支払いが確実にできるように、資金繰り表を元に1カ月単位でお金のやり繰りを考える準備活動です。一方、キャッシュフロー分析は事後的な活動と言えます。「支払日に現金がない」という事態を避けるには、何よりも資金繰りが大切なのです。

 資金繰りに欠かせないのが、資金繰り表になります。では、損益計算書があるにもかかわらず、なぜ別の表が必要なのでしょうか。

 損益計算書は売上高から売上原価を差し引き、さらに販管費を引いて営業利益を出します。しかし、お金の出入りは、入金→出費という順番通りに進むとは限りません。実際のお金の流れをシミュレートした資金繰り表がないと、キャッシュが枯渇する事態を避けられなくなります。支払日に必要な額を常に用意できるように資金繰り表を作成するのが、最も大切なことです。

 では、現実に資金繰りに詰まった場合、どうすればいいのでしょうか。日頃から中小企業の資金繰り相談に乗っている東京都中小企業再生支援協議会の庄崎裕太さんと、水原祥吾さんに話を聞きました。

資金繰りの重要性を説明した中小企業再生支援協議会の水原祥吾さん(右)と庄崎裕太さん

――中小企業再生支援協議会への相談はどのようなものが多いでしょうか。

 水原:「資金繰りに困り、金融機関に返済ができない」という相談が圧倒的に多いです。私たちの主な仕事は「金融調整」と言って、借入金を返せなくなった会社と金融機関の間に入って、月々の返済額を減らしたり、負債そのものを減らしたりすることです。

 具体的な内容は、会社が負っている傷の深さで変わります。まずは、返済状況に合わせて月々の返済額を減らすなどのリスケジュールを検討します。経営状態がさほど深刻化していない場合には、月々の返済額を少し減らすだけで、キャッシュフローが改善し、経営体力がついて業績が回復する会社もあります。

 また、債権カットをする会社もあります。資産に比して負債が大き過ぎる場合は会社として健全ではないので、債権をカットして減らし、債務超過を抑えます。ただし、債権カットは、金融機関にも大きな痛みを伴いますので、簡単にできるものではありません。様々な金融調整を要するほか、代表取締役が経営責任を問われることにもなります。

 協議会で債権カットを行う場合は、第二会社方式といって、新たな会社(=第二会社)を作ってその会社に事業の全部または一部を承継し、旧会社は特別清算等で清算する方式で行うことがほとんどです。その他、DDS(Debt Debt Swap=通常ローンから劣後ローンへの組み換え)やDES(Debt Equity Swap=債務の株式化)など様々な再生手法があります。また、事業の存続がどうしても厳しい場合、廃業を進言し、経営者の再チャレンジを促すときもあります。

 資金繰りが苦しいと感じたらすぐに相談に来てほしいです。傷が浅ければ浅いほど、回復も早くなります。

――コロナ禍で資金繰りの相談も増えていると聞きました。

 庄崎:今まで協議会の年間相談件数は300件程度でしたが、今年は5、6月の2カ月だけで114件にのぼります。相談件数は例年に比べるとかなり多いですね。

 いわゆるBtoCビジネスである飲食店やサービス業のほか、製造業の相談も増えています。消費が止まることが打撃になるんですね。売り上げが減少して金融機関への債務を返せなくなったという相談がほとんどです。

――相談をする会社の中でも、比較的ダメージが少ない会社とそうでない会社の差はあるのでしょうか。

 水原:コロナ禍で深刻な経営状態になってしまった会社は、コロナが直接的な原因ではないことも多いです。その前から経営状態が悪化していたところに、コロナの一撃があったという場合のダメージは、やはり大きいです。

――では、コロナ禍でも業績を回復できるのは、どのような会社でしょうか。

 庄崎:自分の会社の経営状態を的確に把握している会社です。会社は基本的には人の体と同じです。病気にもかかわらず、健康診断を受けないで放っておくと、どんどん病状が悪化してしまいますよね。それと同じで、会社も自分の健康状態を把握できていないと、気が付かないまま病気が進行してしまいます。

 経営者が自分の会社の状態を客観的に把握できている会社が強いです。経営者の方に最初にやって欲しいのは、資金繰りのシミュレーションです。支払日に現金があれば企業は存続できます。

 そして、BS(貸借対照表)/PL(損益計算書)、キャッシュフローは把握してほしいです。経営者が概要をわかっている会社は、窮地に陥りにくいですね。

 今はコロナの収束が見通せず、どの会社も先が見えない状態です。資金も潤沢にあって利益率の高い会社でも、常に現状把握が必要ということを心得て、会計への知見を高めてほしいです。

――それには、資金繰り表の作成が欠かせないということですね。

 水原:そうです。資金繰り表の作成までなかなか手が回らないからか、実際に相談に来る会社の多くは資金繰り表を作成していません。資金繰り表を作成していないから、現状の把握が不十分となり、経営環境を深刻化させている場合もよくあります。

 「コロナで資金繰りが苦しい」という相談があった場合に、最初にしてもらうのは、資金繰り表の作成です。現金が枯渇するのか、枯渇するならばどのタイミングなのかがわかり、対策が立てやすくなります。逆に言えば、多少経営環境が悪化していたとしても、計画と実績が一目で分かる資金繰り表が既にある状態ならば、お手伝いもしやすくなります。早めの施策も打てます。

 我々がコロナ禍の影響で資金繰りに悩む中小企業に対して支援の一環として、4月1日から行っている「特例リスケジュール」の中で会社様の計画策定を支援する場合も、この資金繰り表の策定支援が基本となります。

 金融機関は、資金繰り表がなかったとしても、返済のリスケジュールはしてくれる場合があります。しかし、コロナの影響で、減少した売上分を補填するために新規融資を受ける際には、資金がいくら必要となるか把握しなくてはなりません。また金融機関にきちんと説明するためにも資金繰り表が必要です。資金繰り表の作成が何よりも大切ということは、覚えてほしいと思います。

 資金繰りに困らないよう、具体的な月次資金繰り表の作成の仕方を紹介します。月次資金繰り表の画像を見ながら読み進めて下さい。

資金繰り表全体
資金繰り表のイメージ図

 最初に「前月より繰越」の欄を設けて、前月繰越分の金額を記載します。次に大まかに分けて、次の三つを計上します。

経常収支

 経常収支では、まず現金売上、売掛金回収などの現金収入の総額を「経常収入」として計上します。なお、持続化給付金などは「その他収入」に計上されます。そして、現金の仕入れ、買掛金の支払い等支出の総額を「経常支出」として記載し、算出される収支が「経常収支」となります。

経常収支

設備収支

 設備収支でも、設備の売却などでプラスになる「設備収入」を先に書き、マイナスになる「設備支出」を記載。差し引きした金額が「設備収支」です。

設備収支

財務収支

 財務収支は、借入等によって得た金額の総額が「財務収入」、返済等によって支出された金額の総額が「財務支出」となります。前者から後者を差し引いた額が、「財務収支」です。

財務収支

 そして、「経常収支」「設備収支」「財務収支」の3つの収支が、その月の過不足額となります。前月からの繰越金と合わせて計算すると、月末にいくらの余裕があるのか、逆にマイナスとなるのかがわかります。

 資金繰り表の作成は、実際の現金のやり取りを把握する上で不可欠です。 表の構造は上記の説明したように至って簡単です。コロナで先行き不透明な状態が続いていますが、現在の経営環境を正確に把握するために、まず1年先までで良いので、資金繰り表の作成に取りかかってみてはいかがでしょうか。

参考文献:『これだけは知っておきたい「資金繰り」の基本と常識』(小堺桂悦郎著、フォレスト出版)、『改訂版「資金繰り」早わかり辞典』(上羽宏著、創英社/三省堂書店)、『中小企業経営者のための絶対にカネに困らない資金繰り完全バイブル』(川北英貴著、すばる舎リンケージ)