コロナ危機のレストラン経由で生鮮品配送 米国で加速する新ビジネス
新型コロナウイルスの影響が日本以上に深刻なアメリカでは、消費者の新たなニーズに応えるべく、伝統産業にテクノロジーを駆使した斬新なビジネスが加速しています。生鮮食料品販売業界で起きている大変動を、ひとつの新しい販売プラットフォームを例にご紹介します。
新型コロナウイルスの影響が日本以上に深刻なアメリカでは、消費者の新たなニーズに応えるべく、伝統産業にテクノロジーを駆使した斬新なビジネスが加速しています。生鮮食料品販売業界で起きている大変動を、ひとつの新しい販売プラットフォームを例にご紹介します。
新型コロナウィルスが爆発的に感染拡大したアメリカでは、生鮮食料品をネットで購入する人が急増しています。感染が深刻化した今春から、他人と接触しない「コンタクトレス・ショッピング」を求めて、消費者がeコマースサイトに殺到したことで起こった現象です。
外出自粛が解禁された現在も、ネット購入指向は上向きの一途をたどり、Bricks Meets Click によると、6月の生鮮食料品のオンライン売り上げは全米で72億ドルと、昨年調査が行われた8月のデータと比べて、500%の伸びとなっています。昨年と今年で調査時期は違いますが、コロナが深刻化してから、大きく伸びたと言えそうです。
堅調な需要の伸びの陰には、伝統的な小売業にテクノロジーを上手く掛け合わせている起業家やテクノロジストの存在があります。目新しいサービスや販路を開拓し、商品を販売するためのアプリを開発して、これまでにない買い物体験を生み出しているのです。
今年4月、ボストンで食品ネット販売プラットフォーム会社「グロサリー・アウトポスト」を友人と創設したイーサン・ピアースさんも、そんなパラダイムシフトに貢献しているイノベーターの一人です。「食料品をレストランから買う」という新しい消費スタイルを普及させようと邁進しています。
「1週目の売り上げは1,000ドル。それが2週目に3,000ドル、3週目に5,000ドルと伸び、これは何か面白いことが起きているぞと思いました」 。消費者の反応について、ピアースさんはそう振り返ります。
ハーバード大学でアート&デザインを専攻したピアースさんは、2013年に卒業してから企業のユーザー体験の設計やプロダクト・コンサルタントとしてキャリアを積んできました。今年に入ってテクノロジー系ベンチャー企業から仕事の誘いが来ていましたが、コロナ禍の影響で消滅。生計をどう立てようか模索し始めた矢先に、ビジネスの種を見つけました。
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ピアースさんは、ハーバードビジネスレビューの4月13日付記事 に載っていた「7月に入ってもまだソーシャルディスタンシングが強要される状態であれば、レストランの70%は潰れるはず」という調査結果が目に留まり、衝撃を受けたと言います。
米レストラン業界で1,349万人が働いているという報道が本当だとすれば、940万人が職を失う計算になります。「レストランがこのパンデミックを乗り切るために、自分たちにできることはないだろうかと考えました」
メーン州のリンゴ農園経営者を親に持つピアースさんは、友人のエマ・スナイダーさんに相談を持ち掛けました。スナイダーさんも、飲食店の清算プラットフォームを開発運営するベンチャー企業からレイオフされたばかりでした。お互いのフードビジネスの知識を持ち寄って思いついたのが、「レストランから一般の人に、シェフ向けのよい食材を手頃な価格で提供するプラットフォーム」でした。
生鮮食料品には大きく分けて2つの販路があります。スーパーなどを経由して個人消費者に届くBtoCと、レストランやホテル、学校といったクライアントを対象としたBtoBのルートです。コロナ自粛が始まってからは、BtoB向けの食品が行き場を失い、農家が大量の野菜や牛乳などを捨てざるを得ない事態も発生していました。
コロナ禍を乗り切るため、全米各地のレストランが食材を販売し始めたのもこの頃でした。小麦粉などスーパーで売り切れてたものを探す消費者が地域のレストランを支えたいという気持ちと、レストラン側のニーズが一致したわけです。
ただ、食品販売でレストランの収入を補うのは非常に困難だと、ピアースさんは指摘します。衛生やその他に関する規制に従って様々な許可をとり、設備を整える必要があるからです。ボストン市のように自治体がコロナ禍対策の一環として許可を免除している場合でも、仕入れ価格にレストランの利益を上乗せする余地はほとんどない、とピアースさんは説明します。
こうした問題を解決するため、ピアースさんとスナイダーさんは自分たちで食品の注文をとり、レストランには顧客に品物を渡す場所(アウトポスト)としての役割だけ担ってもらうシステムを考案しました。注文の品はサプライヤーが箱詰めをし、通常の配達経路を使ってレストランに直送するため、余分な配送費もかからず、また、グロサリー・アウトポストが食品を保管する必要もありません。
食品が詰まった箱はレストランが既に持っている冷蔵庫に入れておけばよいだけ。顧客の家までデリバリーしない分、その費用も浮きます。これで、売り上げの20%をレストランに回し、10%をグロサリー・アウトポストがとることができるのだそうです。
低コストでまわしていくシステムを作るために、弁護士との話し合いを重ねたピアースさん。法的な工夫を凝らした販売構造こそが自分たちのイノベーションであり、だからこそ、その詳細は企業機密なのだと話します。
グロサリー・アウトポストの食品は、「フレッシュプロデュース・バンドル(生鮮食料品の詰め合わせ)」と「フルーツ・バンドル(果物の詰め合わせ)」の2種類です。それぞれ35ドルで、2人家族で1週間は持つほどの量があります。中身も高級な牛肉や伝統野菜など、スーパーでは手に入りにくい、バラエティに富んだ質の良い食べ物が詰まっているとのことです。
当初は2軒だったアウトポストも、今やボストン市外のレストランも含めて10軒となりました。顧客数は約350人に上ります。6月には初の正社員(アカウント・マネージャー)を雇いました。年内にアウトポストを50軒まで増やす目標だそうです。
ピアースさんが将来を楽観視できる理由のひとつは、リピート率が高いことです。アマゾンが経営する高級スーパーのフォールフーズ・マーケットなどの常連だったような人が「代わりの食品入手ルートを開拓することに誇りを感じているようだ」と、ピアースさんは話します。
業界に精通する人たちの間では、「食品は自分の目で見て、手に取ってみて買うもの」という消費者の認識がコロナ禍を機に崩れ、食品の購入パターンが長期的にも推移しつつあると見られているようです。店頭販売にこだわっていたスーパーやその他の小売店も、トレンドに乗り遅れまいと、デリバリー会社と提携してオンライン化を図るなど柔軟に対応し始めました。
しかし、配達が遅れて顧客の不満が募るなど、急速なサービス拡大に伴う課題はまだまだ見受けられます。出掛けている間に配達の箱が家の前に置き去りにされるのが嫌だという消費者も多いと、ピアースさんは語ります。
食品オンライン販売のコンサル会社のBricks Meets Clickが6月に1,781人の消費者を対象に行った調査の結果によると、30日以内に同じ店やオンライン業者から食品を注文したいと回答した人の割合は57%で、前月からほぼ伸び悩んでいるということです。リピートカスタマーを得るにはまだまだ改善の余地があるということでしょう。
ピアースさんは、オンライン・フード業界では、顧客獲得に多額の投資をしている会社も多いと指摘します。ピアースさんは提携しているレストランの顧客リストを活用し、グロサリー・アウトポストを地域のビジネスを応援する方法として提示する一方、顧客獲得コストを抑えることが出来たと言います。
「ソーシャル・エンタープライズ」としての一面を持ち、地域に根差した運営をしているところが、グロサリー・アウトポストの強みなのだと、ピアースさんは強調しています。
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