被災地の切実な課題に応える支援とは?「九州の小京都」の事例から
2020年7月の豪雨により大規模な浸水被害を受けた熊本県人吉市で、中小企業の売り上げ支援に取り組んできた人吉しごとサポートセンター(Hit-Biz、ヒットビズ)が被害に遭われた方々の支援活動を始めています。日ごろのビジネス支援のノウハウを活用し、少し先のニーズをつかもうとする取り組みを紹介します。
2020年7月の豪雨により大規模な浸水被害を受けた熊本県人吉市で、中小企業の売り上げ支援に取り組んできた人吉しごとサポートセンター(Hit-Biz、ヒットビズ)が被害に遭われた方々の支援活動を始めています。日ごろのビジネス支援のノウハウを活用し、少し先のニーズをつかもうとする取り組みを紹介します。
国宝、温泉、球磨焼酎、お茶など歴史も文化も豊かな人吉市は、「九州の小京都」とも言われ、司馬遼太郎の小説では「日本一豊かな隠れ里」として紹介されています。そこには、人吉という名前にふさわしく、とても愛情豊かでお人好しの人たちが暮らしています。
そこに突然襲って来たのが、新型コロナウイルス。観光の町でもある人吉は、コロナの影響で宿泊客が9割減などと、大きな打撃をうけました。ようやく落ち着いて、これからという時に追い打ちをかけたのが球磨川氾濫による水害です。
7月4日未明の水害で、多くの死者や床上浸水など甚大な被害を受けました。1ヶ月以上たった8月半ばでも、まだ災害ゴミの片付けが終わらないほどです。
人吉市の中小企業や個人事業主の経営相談所として2018年にスタートしたヒットビズも、床上50センチの浸水被害を受け、業務がストップしました。オフィスの泥かきなどをしたものの、8月中旬時点でも再開のめどはいまだにたっていません。
7月4日の水害発生前までは、Withコロナ時代にも対応できるいくつかの取り組み(アンバサダープロジェクト、コラボマスク企画など)を進めていましたが、もはやビジネス相談どころではなくなりました。被害を受けた現場や相談者の状況を見て回りながら、必要な「もの」や「こと」は何かをさぐりました。SNSなどを通じて被害の状況が徐々に見えて来ます。市役所と商工会議所による被害状況調査も行いながら現場の声もききました。
強く感じたのが、すぐにゴミ処理用の軽トラックやトラックが必要になるということでした。なにしろ市内で3000台以上の車が流されたり、水没して使えなくなったりしていたのです。車がないことには、生活再建もゴミ処理もできません。被災地の切実な課題に直面し、速やかな解決を迫られました。
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車、特に軽トラをなんとかせねば……と考えているとき、SNSで益城町のオートメッセの住永さんの活動を知りました。
「おクルマ、無料でおかしします!」。なんてすごい看板!すぐに写真にあった番号に電話しました。
オートメッセの住永栄一郎社長とお話しして、一般社団法人スマートサバイバープロジェクトによる支援プラットフォーム「スマートサプライ」で、全国から支援を集め、無料貸し出しを住永さんの無理のない形で行いたいと相談しました。熊本地震のときにも活躍された住永さんは、二つ返事で「やりましょう」と快諾頂きました。
スマートサプライは、東日本大震災をきっかけに代表の西條剛央さんが作った「必要な支援を必要な人に必要な分だけ」届ける仕組みです。これは、集まりすぎる支援物資の扱いや保管に困る状況を避け、支援物資のジャストインタイム方式のようなものです。さらによいことは、被害をうけなかった現地の経済にも貢献できること(現地調達)です。
多くの仲間にサポートしてもらいながら、ウエブの構築と、現場のオペレーション、スマートサプライの画面設定、現地での軽トラの手配、貸出しのオペレーション、告知の方法、ロゴマークの準備など1週間ほどで準備を完了しました。
7月15日から支援の募集を開始し、19日深夜に3台の軽トラが到着。この時、はじめて住永さんにお会いしました。20日から無料貸し出しをスタートし、徐々に車の台数を増やし、8月18日時点で、10台のトラック(軽トラ9台、ダンプ1台)が稼働しています。全国からの支援もSNSなどを通じて、徐々に輪が広がっていきました。
下記は、スマートサプライでの支援達成度のグラフ(青)です。
スマートサプライ上では、支援者の声、現地での活動状況、物品などの購入状況(領収書)などがリアルタイムに反映されています(軽トラック無料レンタルプロジェクト(再開))。
FacebookやYoutubeなどで、現地での軽トラ活動の状況をまとめてシェアしています。
あとでまとめてお礼をするのではなく、リアルタイムで発信。その場ですぐに支援してくれた方にフィードバックすることが大切だと考えています。
「軽トラ無料貸出し」の張り紙を貼った軽トラが街中を走ると、案外人目に止まるようで、毎日たくさんの問い合わせが寄せられています。
スマートサプライの活動状況がメディアやSNSを通じて拡散されると、個人だけではなく、国際ロータリー第2720地区(大分熊本)=硯川昭一代表、日本カフスリンク協会=大野一美代表理事、ロサンゼルスのヨガクラス団体=カナ・カイ・ジョーンズ代表、テラ・ルネサンス=創設者・鬼丸昌也氏、など団体からの支援の輪も広がりました。
次に考えなくてはいけないのは、暑さです。梅雨が明けると、それまでの雨の中だったのが、急に暑さのなかでの戦いになりました。梅雨明け前からわかっていたことですが、本当にものすごく暑いです。そこで、熱中症対策が必要との見立てで、クーリングファン付きのウェアを利用していただくことを考え、スマートサプライの第二プロジェクトをスタートしています。
第二のプロジェクトには、高圧洗浄機や踏み抜き防止のインソールなども含め「安全と健康を守るプロジェクト」としました。
さらに、避難所などで不自由な生活を余儀なくされているご家庭などに心のエネルギーを補給する段階もくるであろうと、花一輪やパペットをプレゼントするプロジェクト も続いています。
災害発生後、刻々と状況が変わってきた中、現在、なりわい補助金など復興にむけた取り組みが打ち出されています。
復興を考えるには、行政や街全体が共有できるまちづくりのビジョンが必要になります。その柱がないと、補助金の使い道も、今後の事業立て直しの方向も見出しにくいからです。さらに、そこにはワクワクできる「希望(HOPE)」が欲しいものです。HOPEにつながるビジョン策定についても、ファシリテーターとして協力していきたいと考えています。
災害発生後、刻々と状況がかわり、ニーズも変わっていきます。災害時は、とくに状況の変化が早く、かつ、そのニーズは切実です。初期の人命救助や安全確保は、行政や自衛隊などに頼らざるを得ません。避難所、電気水道などのインフラ整備は行政や企業が担います。
やがて少し落ち着きがでてきた時、市民や街中から様々なニーズが発生します。水、食べ物、衣料品、トイレットペーパー・・・。全国から支援物資が続々と届くのは、本当にありがたいことです。一方で、支援物資を受け取る側は、場所の確保、物資の配布などで大変になります。一時、支援物資受付中止といったミスマッチも発生しました。これは、災害時によくあることです。
災害対応時では、現場でのニーズの把握がとても重要です。その時のニーズに加え、想像力を働かせて、ちょっと先を想像することも大切です。ニーズの先取りをしてタイムリーな支援物資の供給をしないと、せっかくの支援がダブついたり、置き場所に困ったりするからです。
過去の災害での経験や、ネットやSNSでの情報によりある程度のニーズ想定はできますが、やはり、足を運び直接対話し、現場で掴むことがとても大切です。現場で見聞きしたことにニーズのかけらが落ちています。ドラマのタイトルではありませんが、「ニーズは現場で起きている」ということでしょうか。
災害支援で大事なのは、「ニーズの先取り」x「供給オペレーションの迅速構築」でしょう。今回、様々な現場に足を運び、不便や不都合を聞き、何が求められているか、そして、その先どんなニーズが生まれるかをイメージし、どのような仕組みで対処していくか、「想像力」「構想力」そして「オペレーション力」が求められたと思います。
これまでビズ・モデルの企業支援の中で培った経験やネットワークは、今回の災害において、ささやかながら発揮できたように思います。しかし、まだまだこれから長い道のりです。引き続き、関心と支援の継続をお願いします。
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