3日間の展示会で40社と取引成立

 東京ビッグサイトで2018年2月に開かれた展示会で、ボウルのような形をした深型のすり鉢が注目の的になっていました。出展ブースの机には、名だたる有名店の名刺が積み上がっていきます。

新ブランド「もとしげ」のすり鉢

 出展したのは、すり鉢が専門の元重製陶所の4代目元重慎市さん(36)です。「すり鉢状」という言葉が一般化しているほど、市販されているすり鉢の形は一定で、色も茶色のものがほとんどです。一方で、新ブランド「もとしげ」のすり鉢は、すった食べ物があふれないよう上部が内側に少し曲げてあり、汁物も移しやすいよう注ぎ口が付いています。デザインにもこだわり、そのまま食卓で器として使えるように落ち着いた色で仕上げました。

 展示会の期間中に、百貨店やセレクトショップなど、目利きのバイヤーが「ぜひ商品を置かせてほしい」と元重さんを次々訪れました。3日間で、40社との取引が決まりました。

「人生を真剣に考えなかったツケがまわってきた」

 製陶所は、元重さんの実家から車で数分の場所にあります。子どものころから、遊びに訪れることはあったものの「将来、すり鉢を作るイメージはありませんでした」。

 父と後を継ぐかどうか話をしたことも、ただ一度きりです。大阪大学大学院で機械工学を学んでいたとき、訪ねてきた父が食事をしながらこう切り出しました。「継いでも継がなくてもいい。大きな借金はないから、継がないならたたんでしまえばいい」
 同級生は有名企業に就職していきます。元重さんは深く考えることなくパナソニックを選び、工場向けの生産ラインを設計する仕事に就きました。

 転機は28歳のとき。自分の考えと上司の指示が異なり、納得しないまま仕事を進めることができなくなりました。

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