コロナ禍でも増収増益 個人プレーの営業を変えた不動産会社の採用術
3代目社長が事業承継してから、低迷していた利益率を伸ばし、コロナ禍でも増収増益を達成した長崎市の不動産会社があります。社員140人、平均年齢32歳という会社が、どのような業務改革を経て利益率重視の体質に変わっていったのかを聞きました。
3代目社長が事業承継してから、低迷していた利益率を伸ばし、コロナ禍でも増収増益を達成した長崎市の不動産会社があります。社員140人、平均年齢32歳という会社が、どのような業務改革を経て利益率重視の体質に変わっていったのかを聞きました。
「2020年7月の決算では増収増益でした。新型コロナウイルスの影響でこの4月、5月は営業活動ができませんでしたが、6月以降に社員達の努力で取り戻してくれました」。長崎市の「福徳不動産」の福島卓社長は、直近の業績をこう振り返ります。
福島さんが社長を継いだとき、不動産事業の利益率は2パーセント台でした。そこから5年で5パーセントを達成するまでになりました。利益率が向上した理由は、福島さんの徹底した業務効率化にあります。まずは個人プレーだった営業について、部門を横断しての組織プレーに変えるところから着手。採用の方法を改革し、社内で人材を育てていく方針を立てました。
「先代の社長(現会長)の時代は、ほぼ先代ひとりで営業をやっていたようなものなんです。福徳不動産の売り上げの柱のひとつに賃貸マンション建設のコンサルティングがあるのですが、この手法を編み出したのが先代ということもあり、他にできる人がいなかったし、育てることもしてこなかったんです」
以前は社内の風通しも悪く、部署ごとの連携もほとんどなく、離職率も高かったといいます。そこで、面接や社内見学を通して一人ひとりとじっくり話し、やりたいことと得意なことを確認。「利益を重視する」という福島さんの考え方に共感し、自分なりのビジョンを持つことのできる人だけを採用するということを粘り強く続けていきました。
「私が採用にかかわった人が社内の4割を占めるようになったころ、会社の雰囲気が変わってきました。目的意識をもって仕事をする社員が増えてきたんです。リストラをしたわけでもなく自然に新陳代謝が起こり、今では、先代の頃からいた社員は全体の1割ほどしか残っていません」
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福島さんが大切にしているのは「好きこそものの上手なれ」という考え方。人は得意なことをするのが一番効率がいいと考えた結果です。
「会社の基本的な方針は経営陣から伝えますが、細かい指示は出しません。社員自身に考えて提案してもらい、OKが出たら、自分の方法で動いてもらっています」。その結果、自律的に動く社員が増え、社内の風通しがよくなってきたことで、売り上げ増につながりました。
「賃貸の仲介や管理ではあまり利益は出ないんですけれど、そこから得られた情報を売買や建築の部門がうまく吸い上げる形ができてきました。社員が自然に連携するようになるまでは時間もかかりますし、一時的に利益が落ちるときもあるんですけれど、数年経つと売り上げがどんどんのびて、結果的に利益の上がる体質に変えていくことができました」
効率を考え、利益を重視する会社の方針が社員に浸透し、8年目にそろそろ利益率が10パーセントに達しそうだという時、福島さんは利益の半分をITに先行投資するという決断をしました。
取り組んだことは、経理や顧客管理のシステム刷新です。入金確認の度に銀行へ記帳しに行くなど、それまでのアナログな方法を脱してクラウド化に踏み切りました。また、会議もリモート化を推進。導入費用として年間数千万円を投資したことで、一時的に利益と利益率は落ちましたが、2021年からその投資が寄与してくるフェーズに入り「あと数年で利益率が10パーセントを超える」と読んでいます。
「利益率を上げようとしたら、損益計算書の数字を追う人が多くいます。いわゆる、営業でもっとガンガン取ってこよう、みたいな考え方ですね。けれど、会社の効率を追求していくと利益率は絶対に上がるんです」
数字に関して細かく管理しているという福島さん。
「福徳不動産の損益計算書をご覧になったら、みなさん驚かれるだろうなと思うくらい勘定科目が多い。それを月毎に見ています。不動産業界は、一発ホームランで1年間ご飯が食べられたりするので、数字の管理がいわゆる『どんぶり勘定』になりがちなんです。しかし、細かく管理したうえで綿密に事業を計画し、予測を立ててホームランが打てたらもっと利益が出ますから」
福徳不動産が籍を置く長崎市は、2018、2019年に人口において転出が転入を上回る「社会減」が全国ワースト第1位という不名誉な称号を持ちました。そのことに危機感を覚える福島さんは「全国で一番労働人口が減っているんだったら、日本で一番、業務効率を追求しなければなりません」と言います。
「県や市の施策で若い人の流出を防ごうとしていますが、私の考えは逆です。若い人は一度県外に出て行ったほうがいいと思っています。県外でいろんな経験をして、また長崎に戻ってきてもらえるほうがいい。もしくは、県外出身の人にぜひ長崎で働きたいと思ってもらえるように、魅力的な労働環境を提供しなければならない」
そのために、クラウド管理などのシステム投資を軸として徹底的に効率を追求し、取引先の企業にシステムのノウハウを提供するなど貢献も惜しみません。そこにはもちろん「地域が活性化すれば不動産も活発になる」との考えもあります。
実は福徳不動産が将来を見据えて進めている戦略がもうひとつあります。外国人社員の起用です。
7年ほど前から起用を始め、現在では韓国・台湾・ベトナムから来日した19名が働いています。「今、世の中の回転が速くなり、日本人的な間接的な表現が通用しない場面が増えてきています。ですから外国人社員のはっきりものを言うアイデンティティを意図的に社内に持ち込んでいこうと考えました」
福島さんの長期的な目標は「不動産業にとどまらず、ITの会社として全国に業務を広げ、海外の拠点も作ること」だと言います。
「不動産業はすべてが土地に紐付くので、どうしてもエリア拡大は難しい。しかしシステムやITには場所の制約がない。長崎を本拠地にしながらもうひとつの拠点を東京に設け、全国、そして韓国・台湾・ベトナムといった海外にも広げていきたいですね」
効率化を重視し、先行投資を惜しまないことで利益率を上げ続ける3代目の挑戦は、これからも続いていきます。
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