「園長先生の息子」と見られて

 廊下に空から見た世界や、滑走路のデザインを施す――。「なりた空の保育園」はホテル日航成田内にある日本航空(JAL)の従業員向けの企業主導型保育園です。運営する株式会社ONEROOF代表の菊地元樹さん(38)は、祖父の代から続く社会福祉法人東京児童協会の後継者でもあります。

「なりた空の保育園」は空をイメージしたデザインにしました(ONEROOF提供)

 菊地さんは両親が運営する保育園の2階にある自宅で育ちました。「保育園の園長として地域の信頼を得ている両親は自慢の存在で、大きくなったら自分も保育園の仕事をすると自然に思っていました」

 大学卒業後に一般企業を経て、1年後に実家の運営する施設の一つである「白河かもめ保育園」に事務職で入りました。「当時は何をしても『園長先生の息子』という色眼鏡で見られました。保育の知識も経験もない自分に、周囲も期待していなかったと思います」

 3カ月後、厚生労働省の外郭団体である日本保育協会に出向することに。保育園や保育士を対象にした研修を担当し、全国の保育園を回りました。「ほかの園を知ることで、両親の保育事業のすばらしさを改めて実感するようになりました」。子どもの発達に合わせた遊びの環境づくりや、生活と食事の場を切り離すことで時間に余裕をつくる仕組みなど、当時の先端を走っていた両親のやり方を、目指すようになります。

「60歳で一人前」という業界

 一方で、菊地さんは保育業界に課題を感じていました。そのひとつが「60歳で一人前」とみられる風潮です。実際、多くの経営者が60代以上。「新しいことへの抵抗感がものすごく強い。地元の名士として世襲するケースも多く、挑戦する空気はあまり感じませんでした」と言います。

 業界の常識とは違う視点で、保育事業をビジネスとして成長させたいと考えた菊地さんは、ユニークな行動に出ます。銀座に1人で飲みに行って一から人脈を作ろうと、決して高くはなかった当時の月給のほとんどを飲み代につぎこみました。「まったくツテもなく緊張しながら、銀座のバーなどに毎晩、繰り出しました」

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