「金看板をもう一度輝かせたい」

 高級オーダースーツブランドを展開する「英國屋」は2009年、IT企業から戻ってきた小林英毅さんが3代目社長として事業承継しました。そのときに、小林社長の右腕に選ばれたのが、西日本の統括部長で実務に精通した小谷さんでした。

小林英毅社長(左)と小谷邦夫顧問。小林社長は社外の人脈を広げ、小谷さんが実務を取り仕切るという役割分担で経営を進めてきた

 小谷さんが人事を承諾したのにはここまで育ててくれた先代社長への恩返しだけでなく、もう一つの理由がありました。

 「くすんでしまった英国屋の金看板をもう一度輝かせたい」

 銀座英國屋のスーツに袖を通すことは、かつてあこがれを持って受け止められていました。小谷さんも同僚たちも、そのブランドのもとで働くことが誇りでした。しかし、2000年代に入ると、ファッションの業界が大きく変わります。

  • バブル以降の店舗閉店やリーマンショックなどの景気低迷
  • フルオーダーメイド、イージーオーダーの需要減少。既製品のニーズ増加
  • 顧客の購買行動の多様化
  • ラグジュアリーブランドの台頭による競争激化

 こうした変化に対応しようと英國屋は2000年ごろから低価格戦略を選択。15万円のスーツを10万円以下で売るなど値引きが常態化していました。安くたくさん売った方が、売り上げが伸びるように見えます。しかし、生地代、服の加工代を差し引けば、会社に残る1着あたりの利益はわずかなものとなり、ブランドの立ち位置もあいまいになっていました。

「怒られないための会議」を変えるまでに1年

 小谷さんが社内を見渡すと、疲弊し、思考停止に陥っている社員たちが目に入りました。経営会議では、発言すると幹部から怒られるため「できるだけ何も話さないことがよい、というどん底の雰囲気にありました」

(続きは会員登録で読めます)

ツギノジダイに会員登録をすると、記事全文をお読みいただけます。
おすすめ記事をまとめたメールマガジンも受信できます。