業務改善の事例から見る3つの解決策 よくある課題を専門家が解説
IT経営を実践する中小企業の事例をもとに、業務改善の成功のポイントを紹介します。後継ぎに大切なことは、先代から引き継いだ会社を「磨き上げる」こと。本業の売上や利益の拡大、社員や取引先との良好な関係作りなどやるべきことが多々あります。事業承継を機に問題点を洗い出して業務改善に取り組みましょう。
IT経営を実践する中小企業の事例をもとに、業務改善の成功のポイントを紹介します。後継ぎに大切なことは、先代から引き継いだ会社を「磨き上げる」こと。本業の売上や利益の拡大、社員や取引先との良好な関係作りなどやるべきことが多々あります。事業承継を機に問題点を洗い出して業務改善に取り組みましょう。
目次
業務改善は、トップダウンで強引に推し進めるよりも、社員の意識改革を含めて時間をかけて取り組むことが大切です。
承継者として経営者の立場に立つと、自分のカラーを出したいと考えがちです。新たな経営理念や事業計画などをトップダウンで進める事例は少なくありません。
例えば、「IT経営推進」を掲げたとしても、社員の納得性が無かったり、現場の実態からかけ離れたりすると失敗に陥る可能性は高くなります。承継者の想いとは裏腹に、社員がついてきてくれず、活用されないITの導入の結果に陥ってしまいます。
一番大事なことは、社員が納得する方針や計画を立てることです。
承継当初は、まだ、社員との間に距離があります。そのため、自分の想いを社員に理解させるよう、コミュニケーションの活発化することが重要です。社員が意見を出し合って、自分たちが取り組む計画を自分たちで作り上げてもらうように促しましょう。時間がかかる取組みですが、「IT経営」の重要性、業務改善を進める上での一人一人の立ち位置を理解してもらうことが、結果として事業計画を実現する早道となります。
例えば、IT導入プロジェクトを立ち上げ、プロジェクトリーダーや部門別リーダーを任命し、その活動を人事考課などできちんと評価する仕組みなどが有効です。
電気設備製造業の事例です。事業を引き継いだ時、赤字基調の状況でした。そのため、承継者は、経営者としての知見を高めるため色々な経営セミナーに参加し、IT経営のキーワードに出合いました。ITを導入することで業務改善を実現する方針を立て、ITベンダー主導で業務パッケージを導入しました。
結果は大失敗。現実の業務運用とかけ離れたシステムで社員の反発を招きました。
しかし、承継者は、IT経営は必要との信念から、IT経営に再チャレンジします。前回の轍を踏まないよう取り組んだことは2点。
まずは、社員との徹底したコミュニケーションで会社の置かれた状況とIT導入の必要性を理解・納得してもらいました。そのうえで、システム導入を急がず、社員主導で現状の業務プロセスを可視化し、無駄・無理の改善を進めました。
結局、システムの再導入までは3年を要しましたが、社員の意識向上につながり、システム導入効果を実感するようになっています。伸び悩む売上の状況下でも、効率的なオペレーションが実現し、現在では黒字基調となっています。
業務改善は、コストダウンよりも、影響を受ける社員の受け止め方に心配りをすることが大切です。
経営経験の浅い承継者は、業務改善はコストダウンにつながると短絡的に考える人も少なくありません。確かに、業務改善はコストダウンにつながる側面がありますが、コストダウンだけを目的化すると失敗する可能性が高くなります。
特に、社員の給与などの条件や配置転換などは細心の注意が必要です。例えば、安易に要員配置を変えると、業務の引継ぎなどがうまくいかず混乱を招きます。
社員に直接関連する業務改革は、社員のモチベーション低下や最悪の場合キーパーソンの離職など大きな痛手を被ることになります。
社員に直接関連する業務改革を実施する場合に、まず取り組むべきことは、「業務量の適正化」です。担当する業務に無駄を感じていたり、他の社員との業務量の不公平感を感じたりしていることは結構あります。
まずは、事業承継を良い機会に社員との会話を深め、社員の不平・不満感を吸い上げましょう。そのうえで、業務の優先度をつけて業務量の適正化を進めるのがポイントです。
業務の適正化の基本的な考え方としてECRSの原則があります。E(無くせないか)C(一緒にできないか)R(順番を変えられないか)S(単純化できないか)の視点で業務を見直すと自然に業務の優先度が見えてきます。優先順位の高い業務に対して人を重点的に配置することで、結果的に、社員に不満を抱かせずにコストを削減できます。
また、業務の変化に対応できる人材を育成することも必要です。様々な業務をこなすことができる人材を育成することで、人件費の削減にもつながります。
介護事業者の事例です。承継者は、慢性的な人材不足と、待遇に不満を抱える社員のモチベーション低下に悩まれていました。また、利用者に満足してもらうためには人材育成も必要でした。
この課題を解決するためにIT経営を導入し、①現場社員の負担軽減、②人によって偏りのない均一的なサービスの提供、③職員同士で感謝の気持ちを伝え合う機会の創出に取り組みました。 介護記録から請求業務までを一括で行えるよう業務支援システムを導入し、社員の負担を大幅に軽減しました。
また、サイボウズなど情報共有ツールを導入し、全社員が情報を共有することで、「誰が提供しても均一化された」サービスの提供ができるようになりました。結果として、社員の満足度が向上し、社員同士で感謝の気持ちを伝え合えるほどになっています。
改善の原点はなくすこと。IT経営の導入では、ハンコ・紙文化など思い切って古い文化をなくすことが大切です。
菅政権になって重要施策となったハンコの電子化。意外なことに多くの官公庁ではすでにワークフローなど多くの申請・承認システムは導入されています。
しかし、官公庁だけではなく、民間企業でも申請・承認システムから申請書などをプリントアウトし、それに押印し回送する運用が数多くなされています。
圧倒的な処理スピードのアップ、紙や保管場所のコスト削減など導入メリットは明らかですが、なぜか、ハンコ・紙にこだわる組織や個人が多いのが現状です。
ハンコ・紙文化に代表されるように、業歴の長い会社ほど昔からのやり方を変えることに抵抗感が強く残っています。ワークフロー導入などIT経営を進める上で大きな壁となっているのが、実は、現状に慣れ親しんだ社員の抵抗感です。入社間もない社員や将来の新入社員は不満をいうはずがありません。
また、’私がハンコを押さないと次に進めさせない‘’文章の書き方を教えている‘など時代錯誤的な価値観を持った人たちの存在も無視できません。
企業文化を変える方法はたった一つ。トップダウンによる強力な推進です。
日用品の卸・小売りの事業者の事例です。承継者は、途中入社で経理・人事など管理部門を担当していました。事業承継を機に、本業である営業をより強くするために業務改革に取り組みました。
営業部門の業務分析を行ってびっくりしたことは、紙とハンコの量が営業活動を邪魔するほどの量だったこと。手書き作成や押印待ちなど社内での工数が多すぎて、お客様への訪問時間が確保できない状況でした。
そのため、経費精算など経理や人事に提出するための書類を対象に、電子承認システムを導入することで営業業務の効率化を図ることにしました。抵抗したのが経理や人事の幹部社員です。‘統制が緩む’‘責任が持てない’などの理由で、プリントアウト・押印との併用を提案してきました。
しかし承継者には管理部門の経験があるので、その提案も理解できるものの、優先すべきはお客様との接触機会の確保。‘自分はプリントアウトしたものには押印しない’と社内全員に宣言し、ワークフローを導入。結果として営業活動は活性化し、受注額の前年度比2桁増につながりました。
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