映えなかった「みそ玉」が1000円の初期投資で季節の新商品に衣替え
お湯を注ぐだけで香り豊かな味噌汁が味わえる「みそ玉」が静岡県熱海市の地域ブランド商品として人気となっています。以前は見栄えのしなかった商品ですが、お金をかけずに季節感が出るアイデアと組み合わせることで、ホテルや駅チカの商業施設で扱われるようになりました。伴走しながら商品戦略を考えた熱海市チャレンジ応援センター(A-biz)から紹介します。
お湯を注ぐだけで香り豊かな味噌汁が味わえる「みそ玉」が静岡県熱海市の地域ブランド商品として人気となっています。以前は見栄えのしなかった商品ですが、お金をかけずに季節感が出るアイデアと組み合わせることで、ホテルや駅チカの商業施設で扱われるようになりました。伴走しながら商品戦略を考えた熱海市チャレンジ応援センター(A-biz)から紹介します。
みそ玉を販売しているのは、1889年(明治22年)から熱海で商売をしている老舗商店「杉本鰹節商店」です。
当初は食品や生活雑貨に加え、燃料となる薪や炭なども扱ういわゆる「よろず屋」でした。そこから熱海が観光の地となるにつれて市内の旅館や飲食店向けに、焼津や枕崎などから仕入れた鰹節を削って削り節として卸すことをメインとした鰹節商店となったのは、4代目の現店主杉本隆さんの先々代からでした。
1950年に発生した「熱海大火」と呼ばれる焼失979棟、被災1,465世帯にも上る大火事の際に一度店舗が焼失してしまいます。そんな中でも「これだけは」と先々代が大八車に載せて避難し、被災を免れたのが、「鳥羽式」と呼ばれる削り機です。古くから使われてきた削り機でつくる鰹節は昔ながらの風味を強く感じることができ、熱海の多くの料理人に愛されてきました。
そんな杉本さんがA-bizに最初に訪れたときの相談内容は、鰹節を削った際の副産物で出る「削り粉」の有効活用についてでした。粉と言っても鰹節なのでしっかりと出汁(だし)が出ます。
聞くと、粉だけをビニール袋に詰めて低価格で販売するのと、削り粉を出汁として混ぜ込んだ味噌を団子状に丸めた「みそ玉」をたまに市内のイベント時に販売するくらいで、どうしても余ってしまう状況であるとのこと。これをもう少し販売するためにはどうしたらよいかという相談でした。
当時の杉本鰹節商店の顧客は旅館や飲食店、学校給食などのto B向けと周辺住民向けのto Cでした。不織布のパックに入れて出汁パックとして販売してみるなどto B向けの新たな商品提案もアイデアとして出ましたが、こだわった削り節を好んで使っているお店には響かず、逆にコストを追求しているお店ではより安い大手メーカーの顆粒出汁に勝てないということで別のアイデアを検討する必要がありました。
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何度かディスカッションした後の2017年12月の相談の際に、熱海の冬が初めてだった筆者は、熱海には日本で一番早く咲く「あたみ桜」という早咲きの桜の木があり、1月下旬に見頃を迎えるのに合わせて桜まつりというイベントがあることを知りました。
そこで、to Cの中でも今までほとんどターゲットではなかった観光客向けの商品として「みそ玉」を活用してみることを提案しました。
A-bizのアドバイスの信条として「コストを掛けずに知恵出しで売上アップを狙う」というものがあります。パッケージやデザインにお金を掛ければ見栄えの良い商品ができるかもしれませんが、小規模な事業者に最初からリスクを負わせることはできません。
そこで提案したのは、ただの味噌の団子で見栄えも良くなかった「みそ玉」の上に花麩を載せることでした。業務用の花麩であれば1つあたり1円もしませんし、1,000円くらいの初期投資で試すことができます。早速、今まで透明のプラ容器に入れて5個入りで販売していた「みそ玉」に花麩を載せただけの商品を桜まつりの新商品として売り出しました。
好評ではあったものの、桜まつりの会場からは離れ、観光客も少ない自店舗のみの販売でしたので大ヒットとまではいきませんでしたが、桜まつりの新商品として地元新聞社が記事として取り上げてくれました。すると、なんと地元の老舗ホテルからオリジナル商品化して納品してもらえないかという声が掛かります。
売店で扱っている商品に熱海産のものを増やしていきたいという計画があり、それに見事にマッチしたのでした。ホテル売店での定期的な販売が決まればパッケージにも少し投資することができます。改めてパッケージを探し、デザインはホテル側で作成したものを用い販売が始まると、月に数個売れるかどうかだった「みそ玉」が50個以上売れるようになりました。
これに可能性を感じた店主の杉本さんは、「熱海ブランド(A-PLUS)」という地元の商工会議所が認定する地域ブランドの認定を目指します。こちらに認定される一番のメリットは、熱海駅隣接の商業施設の特設コーナーで販売できることです。
オリジナルパッケージのデザインや審査会でのPOP、陳列などもA-bizで継続サポートし、見事認定を勝ち取り、特設コーナーで販売を開始すると月500個売れる人気商品となったのでした。
通常であれば、この商品をしばらくこのまま売り続ければいいのですが、特設コーナーには翌年には新たに熱海ブランド認定された商品が出てくるため、目立たない売り場に下げられてしまう可能性があります。
そこで何度でも無料で活用でき、伴走支援ができるA-bizの強みを活かして、この「みそ玉」の売上を下げないための取り組みを提案しました。それはパッケージデザインや載せる麩を季節ごとに変えて見た目の鮮度を保つというものです。
杉本鰹節商店のサイトでは、「歴代パッケージ」を紹介しています。
中でも一番反響が大きかったものは、ちょうど新たな熱海ブランド認定商品が出てくるタイミングに合わせて投入した「ハロウィンみそ玉」です。みその団子をカボチャに見立てて、海苔で目や口を表現してもらいました。季節性もあり見た目にもインパクトのある商品により一番良い売り場を確保することができ、この月は過去一番の販売数となりました。
その後は特設コーナー従業員の方からクリスマスバージョンはでないのか?とリクエストが入るほど熱海ブランドの看板商品としての地位を築くことができています。
「みそ玉」の成功をきっかけに同じく削り粉を使った自家製ふりかけも観光客向けのお土産として販売するなど新しいチャレンジを積極的に続ける杉本さんですが、以前そのチャレンジの原動力は何ですか?と伺ったことがあります。
杉本さんが話していたのは、日本の出汁文化を守っていきたいということ、そしてその文化を守り続けていくためには息子に安心して事業を承継できるようにしないといけない、そのためには今の内に売上を上げておきたいんだ、ということでした。
将来的にはいろいろな出汁が飲める出汁バーも熱海でやってみたいと語る杉本さん。まだ40代と若いので今後もいろいろなチャレンジを続けていくのではないかと思います。
70年以上変わらずに大切に使い続け、杉本鰹節商店の削り節の味を守っている削り機と、振り返れば先祖代々時代やニーズに合わせて商売を変えてきた実績。守るべきものと変えていくべきもの、その二つのバランスを取り、きっと創業200年も迎えることでしょう。A-biz はこれからも伴走しながら一緒に商品戦略を考えています。
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