仕入れ先が廃業……まちのミシン屋の危機を救ったSDGs【世界へ販売】
「困ったぞ……」。仕入れ先の廃業で、中古ミシンの入手が難しくなった老舗ミシン店が岐阜県関市にありました。そこで始めたのがSDGs視点の「寄付ミシンプロジェクト」です。全国から送られてきた思い出のミシンを、海外へも届けています。新規顧客の獲得につながった事例を、関市ビジネスサポートセンター(セキビズ)から紹介します。
「困ったぞ……」。仕入れ先の廃業で、中古ミシンの入手が難しくなった老舗ミシン店が岐阜県関市にありました。そこで始めたのがSDGs視点の「寄付ミシンプロジェクト」です。全国から送られてきた思い出のミシンを、海外へも届けています。新規顧客の獲得につながった事例を、関市ビジネスサポートセンター(セキビズ)から紹介します。
アパレル産地・岐阜県にある「大映ミシン」は1955年の創業以来、新品、中古の家庭用・工業用のミシンの販売・修理を通じて地元のアパレル産業を支えてきました。
アパレルメーカーの海外進出に伴い、中国にも会社を設立。さらに近年は、目覚ましい発展を遂げている東南アジアへも販売を拡大していました。
3代目の佐々木清隆さんは「時流に乗って営業展開をしてはいるのですが、考えていた以上に厳しかったですね。ずっと東南アジアにばかり目を向けていたのですが、ふと考えを変えたときに『そういえば、家庭用ミシンって売れていないなあ』と思ったんですよ」と話します。
佐々木さんは家庭用ミシンの販売に力を入れたいと、セキビズへ相談に訪れました。話を聞いたセキビズは、大映ミシンが工業用ミシンの修理で培ってきた高いメンテナンス力に着目しました。
しかし、大映ミシンのサイトでは、こうした強みや「中古ミシンにも3ヶ月の保証期間がつく」というメリットを訴求できていませんでした。そこで、ブログによる情報発信の強化を提案しました。
佐々木さんは、修理実績や納品したミシンの情報、顧客の声などの記事を週に1〜2本のペースでこまめに更新。修理事例では、ミシンを分解して1カ所ずつ丁寧に調整を重ねる様子や、「お亡くなりになられたおばあちゃんが使っていた思い入れのある家庭用ミシン、修理出来ずギブアップ!」といった“失敗例”も包み隠さずアップしました。
難しい修理にも対応できる技術力や実直な企業姿勢がよく伝わり、2ヶ月を過ぎたころから来店者や問い合わせが増え始めました。
「徐々に『ブログを見ました』と言っていただくことも増え、続けてきてよかったと実感しています。工業用、家庭用問わず、ブログをきっかけに注文をいただきました」
ブログの反響に少しずつ手応えを感じ始めていたころ、新たな問題が浮上しました。中古ミシンを仕入れていた会社が廃業することになったのです。
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「その会社からかなりの量の中古ミシンを仕入れていたので、『困ったぞ』とセキビズへ早速相談に行きました」
これまで大映ミシンは中古ミシンを無料で引き取っていたため、高価買取では、ビジネスになりません。セキビズでは、買取金額ではなく、大切にミシンを扱ってきた人にとって、納得してもらえる引き取り方はないか、検討しました。
そこで着目したのが、SDGsでした。
SDGs(Sustainable Development Goals)とは、2015年9月の国連サミットで採択された2030年を期限とする先進国を含む国際社会全体の17の目標のこと。「誰一人取り残さない」社会の実現を目指して、経済・社会・環境をめぐるさまざまな課題に対し、民間企業をはじめ、すべての関係者の取り組みが求められています。
国際サミットで策定された持続可能な開発目標ときくと、地域の中小企業には関係のないことのように思えますが、そうではありません。企業がSDGsの達成に向けて社会課題解決に取り組むことにより、新サービスの開発、新たな販路開拓、社会的認知度の向上、取引先・消費者からの信頼の獲得など、企業の価値向上につながると考えられています。
今回の状況では、大映ミシンの事業に関連する社会課題の解決やソーシャルグッドな取り組みを行うことによって、ミシンが集まる仕組みを構築できないか、検討しました。
セキビズから提案したのが、「寄付ミシンプロジェクト」でした。
このプロジェクトは、使わなくなった家庭用ミシンや足踏みミシンを寄付してもらい、大映ミシンでメンテナンスした後で中古ミシンとして販売。その売り上げの一部で社会貢献活動を支援するというもの。これは大映ミシンの高い修理力があってこそ成り立つ仕組みです。
長年使っていないとはいえ、愛着のあるミシンを捨てたり売ったりするのは忍びない。しかし、それが資金難に悩む団体の手助けができ、大切に使い続けてもらえるなら手放してもいいと考える寄付者がいるはずと考えました。
支援先は、子どものためにミシンを使い始める人が多いことから、不登校やいじめに悩む子どもを持つ親の会として活動している市民団体「子どもを明日につなぐ会」に決定しました。
2018年から始めた取り組みは、お店に大きな変化をもたらしました。岐阜県の小さなミシン屋に、北海道から宮城、福島、東京、愛知、大阪、熊本、宮崎など全国各地から手紙を添えて、開始以来150台以上のミシンが集まるようになったのです。
集めた中古ミシンを顧客に販売し、寄付先の市民団体へも継続的な支援が続けられていています。
「東京や北海道からもきれいに梱包して、高い配送料をかけて送ってくださる方もいますね。先日も隣町までミシンを引き取りにいったんですけど、ずっと使っていた愛着あるミシンだったみたいで、ミシンに『ありがとうね』とお礼を言っておられました」
「また、買い替えを機に、15年以上使用していたミシンを寄付していただいた方からは、『このまま粗大ゴミに捨てるのは悲しく、大映ミシンのサイトにたどり着いたときはうれしかった。このミシンがメンテナンスを経て、第2の人生でどんな方に使用していただけるか楽しみにしています』というお手紙をいただきました」
この全国から集まったレトロな足踏みミシンは、思いがけない展開につながりました。中東のイラン、アフリカのウガンダやナイジェリア、東南アジアのベトナムなど、電力供給が不安定な地域に商社を通じて販売することになったのです。
また寄付ミシンプロジェクトは、一般向けではなく、工業用ミシンの取引先獲得にもつながっています。
「こんなミシン屋さん初めて出会いました。取引先として信用できるので、ぜひ御社からミシンを購入したい」という連絡が届いたとのこと。 佐々木さんは、一台一台のミシンに込められた愛情の深さを実感し、このプロジェクトの意義と責任をあらためて感じていると話します。
SDGsには、1つ目の「貧困をなくそう」から17番目の「.パートナーシップで目標を達成しよう」まで17の目標があります。
また17の目標を具体化した169のターゲットが示されています。一度これらを確認してみると、自社にとって何が関係してくるか、どのような目標やターゲットに貢献することができるか、検討することができるでしょう。
また地域ですでに活動している市民団体などに目を向けてみることをおすすめします。地域には問題意識を持ち、すでに取り組んでいる人がいるかもしれません。1社で解決できる問題ではないからこそ、今活動している団体に目をむけ、パートナーシップを組んで自社が貢献できることから始めることも1つの方法です。
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