お寺で「空き瓶回収」を始めた理由 今後の事業に必要な「三方良し」
社会に求められる価値を提供しない事業は売上に結びつきにくい時代になりました。新型コロナの影響で、福岡県直方市の空き瓶回収業の男性が始めたのは、地域のお寺を拠点とした社会貢献型の回収システムです。この仕組みづくりを支援した直鞍ビジネス支援センターは、自らの事業だけでなく地域に貢献する事業こそが事業者様の足腰を強くすることにつながると考えています。
社会に求められる価値を提供しない事業は売上に結びつきにくい時代になりました。新型コロナの影響で、福岡県直方市の空き瓶回収業の男性が始めたのは、地域のお寺を拠点とした社会貢献型の回収システムです。この仕組みづくりを支援した直鞍ビジネス支援センターは、自らの事業だけでなく地域に貢献する事業こそが事業者様の足腰を強くすることにつながると考えています。
誰も想像もしていなかった新型コロナウイルスが出現してから、1年が過ぎました。深刻な影響の一つは、人が集まることで「3密」状態が生じやすい飲食店の休業や時間短縮営業による収入減です。飲食店にはいくばくかの補償がありますが、飲食店と共に歩んでいる取引先に万全の補償がなされているとは言いがたい状況です。
飲食店にお酒を納めている酒店から空き瓶を回収している業者も、困難に見舞われているのは同じです。しかし、嘆いてばかりもいられません。今回の事例ではピンチをチャンスに変えて、アフターコロナのビジネスに資する取り組みができないかと考えました。
直方市で、2020年から税理士事務所を開業されている福島敏之さんは、同時に家業である空き瓶回収業「ふくしま商店」も経営しています。
直鞍ビジネス支援センターに相談へ訪れたのは、2020年9月のことです。かねてから税理士事務所開業に向けてのディスカッションは継続していましたが、今回はコロナ禍により、酒店からの空き瓶回収量が大きく減ってしまったことについて相談に訪れました。
緊急事態宣言の発令やステイホームの気運が高まり、巣ごもり需要で家庭には空き瓶が増えているかもしれません。しかし、福島さんがその一軒一軒を訪ねて回収することは商売の効率から考えて現実的でないように思えました。
そこで直鞍ビジネス支援センターは、二つの切り口で検討を始めました。
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「社会性のある空き瓶回収の仕組みを作ることはできないか」
「税理士としての福島さんを知ってもらうきっかけにもしたい」
もちろん空き瓶の回収量を増やす仕組み作りがなされることが大前提です。福島さんと、いろいろなディスカッションをしました。そして、一つの方向性を見出しました。
それは、地域のお寺で空き瓶回収をしてみよう、ということでした。
理由としては、お寺は、元々人と人との縁を結ぶところ。地域コミュニケーションの拠点の役割を果たしています。私たちの人生において、お寺に関わらないこととはほぼありません。
一方、コロナ禍でお葬式などの規模は縮小され、飲食を伴う法要もなかなか行われなくなっています。さらには高齢化が進展し、檀家や地域の方との繋がりが薄れつつあるとも言われています。
けれど、自分の菩提寺、または、近所のお寺で空き瓶回収が行われていることを知ったら、それが社会貢献につながるとしたら、地域の方が足を運ぶきっかけになるのではないかと考えました。
お寺と檀家、お寺と地域のハードルが少し高くなっている近年、これをきっかけに、また地域のコミュニティーを育む場として見直されるかもしれません。お寺にとっても悪いことではないのではないかと考えたのです。
具体的にはお寺と連携し、地域の方から空き瓶を回収します。そして今までは空き瓶を持参した個人に支払っていた謝金を、お寺へ1本あたり10円を寄付し、社会貢献事業に使っていただくことにしました。
モデルケースのお寺での活動がうまくいけば、お寺からお寺へ宗派をも超えた取り組みの輪が広がるのではないかと考えました。そして、福島さんは、お寺という地域の拠点を用意すればよいので、個人宅をまわらなくてもよくなります。
さらに、税理士としての福島さんにも、スポットライトが当たり、開業してまだ間もない税理士事務所の存在を知ってもらうことになります。士業が資格と知識だけで選ばれなくなってきた現在、専門家はご自身の個性や社会で果たしている役割を積極的に発信していく必要があると考えました。
2021年1月20日、飯塚市の正法寺(通称:こがえる寺)で、初めての空き瓶回収が始まりました。
この日は、緊急事態宣言に配慮しつつ、貴重な25本の空き瓶が集まりました。お寺は、250円の寄進を受けることができました。額にして250円は、決して多い額とはいえないかもしれません。しかし、まずは新たな取り組みを始めたことに意義があります。まず動くこと、そして動き続けること。コロナ禍にあっても下を向いて歩みを止めるのではなく、アフターコロナに向けて種を蒔いておくことが事業者様の足腰を強くすることに繋がると信じています。
この先もお寺と連携をし、一升瓶とビール瓶の回収をつづけていきたいと福島さんは話しています。空き瓶の回収活動は、新聞の地域面でも大きく取り上げられ、周知が進んだことは言うまでもありません。またさっそく空き瓶回収の新規依頼が舞い込むなど、小さな一歩ではありましたが、確実にビジネスの輪を広めることに繋がりました。
お寺での空き瓶回収の取り組みによって、ふくしま商店は「空き瓶回収量の増加」、お寺は「地域との関係性構築のための場作り」、空き瓶回収に協力した地域の人は社会貢献への参加という三方良しが実現しました。そのうえ、税理士としての福島さんは「開業まもない税理士事務所を知ってもらうきっかけ」もできました。
表面上のご相談は「空き瓶回収量を増やしたい」とのことでした。しかし、ひとつの課題を安直に解決する手段だけを提供するのでは、直鞍ビジネス支援センターのような公的産業振興施設の存在価値はないと考えています。
コロナ禍をきっかけに地域に根ざしたビジネスを続けている事業者はますます「社会性」が求められるようになったと痛感しています。社会に求められる価値を提供せずに、商品を売ろうとばかりしても売上には結びつかない時代になりました。
直鞍ビジネス支援センターもまもなく開設4年目を終えようとしています。今後も相談に訪れた事業者の事業を継続させるために必要な、本質的な「知恵」を生み出し続ける事業相談窓口でありたいと考えています。
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