後継者不足の対策に取り組む「せともの」の街 ものづくりの産地へ
昔からのものづくりの産地は全国に数多あります。愛知県瀬戸市もそんな産地の一つです。古くから陶器、陶磁器の産地として栄え、瀬戸、常滑、備前など日本六古窯の一つとされています。瀬戸で作られた陶磁器が「せともの」といわれましたが、今はどう活路を見出しているのでしょうか。愛知県陶磁器工業協同組合を訪ねました。
昔からのものづくりの産地は全国に数多あります。愛知県瀬戸市もそんな産地の一つです。古くから陶器、陶磁器の産地として栄え、瀬戸、常滑、備前など日本六古窯の一つとされています。瀬戸で作られた陶磁器が「せともの」といわれましたが、今はどう活路を見出しているのでしょうか。愛知県陶磁器工業協同組合を訪ねました。
瀬戸市でのやきものの生産の歴史は古く、諸説ありますが、約1000年前からつくりはじめられたといい、連綿と続くやきものの産地です。
愛知県陶磁器工業協同組合(愛陶工)の総務課の担当者に話を聞くと、組合員は1979年ごろで880社くらいあり、昭和初期には1000社以上あったといいます。かつては衛生陶器や瓦なども作っていましたが、今は和食器を中心に洋食器やノベルティ製品などを生産しています。
現状では組合員は282社までに減っているということです。ただ、組合に加盟していないアウトサイダーは多く、そうした組合員以外の生産者を合わせると結構の数になりますから、今でも陶磁器の産地として厳然たる存在であることは変わりありません。
瀬戸のやきものに対し、よく引き合いにだされるのが「美濃焼」です。愛知県のお隣、岐阜県東部に位置する東濃地方で生産されるやきものです。
美濃焼は生産の大規模化が進んだ産地といわれ、やきものの量産化が行われました。ただ、輸出など円高の直撃を受けて外国での需要が減少し美濃、瀬戸ともに痛手を受けました。瀬戸は1窯元あたり10人前後の規模の生産者が多く、それほど大規模化が少なかったため、需要の減少の痛手を受けることは最小限であったそうです。
経済産業省の生産動態調査によると、陶磁器のなかでも瀬戸がメインとしている生産品目である和飲食器、洋飲食器、ノベルティ製品などともに減少傾向にあることは否めません。
たとえば、2015年度の和飲食器の生産は3万4592トンでしたが、2019年度は3万2454トン、洋飲食器は2015年度が1万2979トンで2019年度は1万397トンとなっています。
最近では供給先として100円ショップなどが台頭しており、低価格の食器が増えてきているといいます。
一方で、一般的に価格の高い食器の需要は減っているようです。食器の販路としても食器専門店はかなり少なくなってきている上、比較的高級品を扱う百貨店での食器売り場も少なくなっているのが現状です。
輸出がほとんどなくなり、国内需要も漸減傾向をたどるなか、いわゆる父ちゃん、母ちゃん、兄ちゃんの3ちゃん企業や事業主として後継ぎがいなくなると、継者難に陥って自然廃業する企業が少なくありません。
現在のようなコロナ禍による景気への影響がこの先、どの程度続くか分かりませんが、どうしても家業を継いでほしいとは言いづらい環境のようです。
瀬戸も陶磁器産地としてなんとか活路を開けないかと後継者の育成にも乗り出しています。
たとえば、瀬戸市にある愛知県の名古屋高等技術専門校窯業校の生徒に声掛けし、やきものに絵付けをする講習会などを開いているなど後継者育成のための種々の取り組みをしてきたといいます。
後継者の育成も大事ですが、なによりも漸減傾向にある陶磁器の需要の喚起が、今の瀬戸市には欠かせない課題といっていいでしょう。
需要喚起の一環として、名鉄瀬戸線の「尾張瀬戸」駅近くの複合施設「瀬戸蔵」に、やきものの博物館機能を備えた「瀬戸蔵ミュージアム」を設置。アンテナショップ「瀬戸蔵セラミックプラザ」では組合員の製品を展示したり販売したりして一般の方のニーズを取り込んだりしています。
また、地元では春と秋に陶器市を毎年やっています。春は「せと陶祖まつり」・秋は「せともの祭」を開催し、特に「せともの祭」は道路一部歩行者天国にして各業者が「せともの」を並べ、一般消費者にアピールします。愛陶工、卸組合、商工会議所などが協賛して瀬戸で開く地元の祭りとして年2回開いています。
生産者組合の愛陶工では、生産品目別に組合員のグループを作っています。例えば「テーブルウエア」、「陶芸」「ファインセラミックス」「工業品」などと各部会があるところがユニークなところといえます。
実は瀬戸はファインセラミックスの国内唯一の集積地でもあります。窯を使って焼き上げるという意味では共通項はあります。ただ、工業製品的なファインセラミックスと一般食器等陶磁器では生産方法も違います。
同じファインセラミックスを製造しているメーカーも製造品目に得手不得手あるので、それぞれが融通して同じ産地で共存しています。
2年ほど前からは〝準組合員〟制度を作り、組合員の増強を図っています。組合の事業であるやきものの原料「土」を買ってもらったり、「瀬戸蔵セラミックプラザ」への出店などをしてもらったりして、正会員のステップとしています。
この活動の成果として従来、組合に入っていなかった工業系の会社、手作り品を製造する会社、作家のような人など7社ほどが最近、加入したということです。
かつての組合は原材料や原料の共同購入、共同販売などを行い組合員の発展を図ってきましたが、今は瀬戸という陶磁器の産地としての組合の機能も変わっているということでしょう。
歴史がある陶磁器の産地、「瀬戸」は姿を変え、新たな息吹を吹き込み、せとものの産地からものづくりの産地へと脱皮を図っています。
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