オンラインサロンで農家同士の「つなぎ役」

 中村さんは2020年8月に、食・農業に興味がある方を集めたオンラインサロン「#FOOD lab」を立ち上げました。参加者70人のほとんどは30~40代です。

 2021年1月は、大学で農業経営を学び、飲食業、金融業を経て農業法人「ふしちゃんファーム」を立ち上げた伏田直弘さんが「戦略的農業経営論」と題し、外部投資や融資の活用方法、販路開拓、単価を高く売る工夫などを伝えました。

伏田さんが登壇した「#FOOD lab」(フードラボ)

 中村さんは、オンラインサロンについて次のように説明します。

 「少しでも現状に危機意識があり、ベンチマークとなるリーダー農家に付いていきたいフォロワー農家の意識の底上げになります。また、農業は、作る作物が異なったり、住んでいる土地が違ったりすると、成功談にしろ、失敗談にしろ、情報共有できる場、機会が少ない業種です。もっとオープンに気軽に情報共有できる場として、農家さん同士の横のつながりを増やしていきたいです」

新規就農者は「起爆剤」

 農業就業者の高齢化が進むなか、中村さんは、農業就業者の平均年齢を30~40代にまで若返りをできないかと考えています。

 「僕に相談が来る農家さんは30-40代が多いです。危機意識を持って、現状より収益拡大する方法を考えているのがこの世代なのだと思います」

 若手がメインで活躍する食・農業界にするためには、後継者はもちろん、異業種からの農業への参入も欠かせません。

 「異業種や農業経験がない方が農業に新規参入する場合、固定概念や慣習にとらわれない自由な発想で農業を展開する場合が多いと感じています。実際、脱サラで就農された方の販売手法や、商品の見せ方・マーケティングは非常に面白いと思います」

異業種からの新規就農

 農業経営に、FC経営の考え方を取り入れたり、通常より高値で市場取引される有機栽培に特化したりし、従来の農業スタイルをただ模倣するだけではなく、経営方法やコンセプトなどオリジナリティにあふれているといいます。

 しかし、逆を言えば、熱い思いを持って新規参入しないと、続かないのが現状です。農業はすぐに結果がでるものではありません。5年経ってようやく安定して生産できるようになり、出荷や販売できるような商品として扱える作物を収穫できるようになるためには、7~8年はかかると言われています。

 「農業で成功したいというしっかりとした意志を持って新規参入に挑戦している人たちは、知恵を振り絞っているのです。そうした考え方、発想、努力をする新規就農者は、後継者農家、既存農家にとって刺激となり、良い起爆剤となります。若手が自由な発想でチャレンジできる環境作りをお手伝いし、食・農業界を盛り上げて行きたいと思います」

地域のリーダー農家が今後の食・農業界を引っ張る人材に

 中村さんが目指しているのは、各地域にリーダー農家を作ること。農業が盛り上がっている地域には、若手後継者や新規就農する人が多くなる傾向にあります。そのため、まずは地域農業を盛り上げ、その積み重なりにより、日本農業全体を盛り上げようと考えています。
 「規模ではなく、稼げる農業経営を体現できているベンチマークとなるリーダー農家が地域にいると、その地域の農家の目指すモデルとなり、成功ノウハウもリーダー農家から共有されるのでその地域は圧倒的に盛り上がります」

中村さんの思いを体現する家業

 そんな食・農業界全体の構想を語る中村さんですが、その思いを体現しているのが、家業のフルトリエ・中村果樹園(福岡県久留米市)でした。中村さんが継がなかった果樹園を妹の美紗さんが継いでいます。

 「妹が快く実家を継いでくれたので、躊躇なく自分の夢を追いかけることができたのもありがたかったですね。妹は本当に頼もしいです」

農業のセミナーに兄妹で登壇した中村美紗さん(左)

 美紗さんは2016年に中村果樹園に後継ぎとして入り、4年の間に、梨の単一栽培から、いちごとシャインマスカットの栽培も増やし、年間通して収穫可能にしたり、フルトリエという直売所、カフェ、観光農園を新たにオープンしたりと次々と新しい取り組みに挑戦しました。

 現在、社員4人、パート10人を雇用し、近い将来、法人化も視野に入れています。中村さんは「気づけば妹は家族経営の課題を自分で打破していました。こういう農家をもっと生み出していきたいです」と話します。

反対していた父、今は……

 父に起業すると伝えた時は、「農業コンサルでは絶対食っていけないからやめろ」と反対されました。農家からお金をもらうのは難しいことと心配していたようでした。
 起業から約2年が過ぎようとするなか、父からの評価はどう変わったのでしょうか。

 「父から直接聞いたわけではないですが、地元の人から僕の仕事に対して父が喜んでいるという話を聞くようになりました。今のFOODBOXやフードカタリストの僕がいるのは家族のおかげです。父が僕を後継者に縛らず、やりたいと思ったことを自由にやらせてくれたり、妹が立派に実家の後継者として働いてくれたりしているからです。同じ農業界で作り手と伴走者という役割に違いはあれ、家族が一緒の方向を見て仕事できていることはとても誇りに思います」

 中村さんのチャレンジはまだ始まったばかり。今日も食・農業界の「後継者」として、日本の食・農業界の未来を紡ぐため、様々な人や企業の新しい繋がり作りに奔走しています。