「はじめから、世界を前提に」海外事業を加速させる湧永製薬4代目
滋養強壮剤「キヨーレオピン」で知られる湧永製薬(大阪市)は、1955年の創業から10年足らずで海外に進出し、販売や製造、研究開発を磨いてきました。今は創業者の孫にあたる4代目が海外企業を買収するなど、流れを加速させています。日本企業が海外での事業を成功させるためのヒントを伺いました。
滋養強壮剤「キヨーレオピン」で知られる湧永製薬(大阪市)は、1955年の創業から10年足らずで海外に進出し、販売や製造、研究開発を磨いてきました。今は創業者の孫にあたる4代目が海外企業を買収するなど、流れを加速させています。日本企業が海外での事業を成功させるためのヒントを伺いました。
海外進出を目指しながらも、文化や言葉の壁を乗り越えられるか不安に陥る企業は多いはずです。一方、商流や法律の違う他国で事業を展開することで、国内での可能性も広がると信じる経営者もいます。
そんな経営者の一人が、湧永製薬の4代目社長・湧永寛仁さんです。創業者・湧永満之氏の孫にあたります。
今年で販売60周年を迎える「キヨーレオピン」は、満之氏がドイツ人のオイゲン・シュネル博士の指導で開発した熟成ニンニク抽出液を基としています。
体の調子を整えるニンニクの効能を、臭いが気にならない形で届けたいと開発したところ、熟成により生ニンニクにはない様々な効果が見られたのだそうです。「疾病を未然に防ぐことができるという意味で『基礎薬』と弊社で呼んでいます」と、湧永さんは説明します。
キヨーレオピンは滋養強壮に役立つ医薬品として、日本で長年トップシェアを占めてきました。世界市場では、健康補助食品のブランドとして、知る人ぞ知るロングセラー商品になっています。これまでに50カ国以上で「Kyolic」という商標のもと販売され、アメリカでサプリメントを扱う店には、必ずと言っていいほど置いている定番商品となっています。
新型コロナウイルスによるパンデミックに見舞われた2020年には、シリーズのひとつである「Kyolic Immune Formula」(キョ―リック・イミューン・フォーミュラ)の海外での売り上げが、前年比で1.7倍となったそうです。
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コロナ禍でも売り上げを伸ばしたカギは、英語で「免疫」を意味する「Immune」(イミューン)という言葉にあると、湧永さんは説明します。
日本の医薬品は、国から承認されている効能や効果の範囲を超えて記載することは認められていません。これに対し、アメリカをはじめ、オーストラリア、ドイツなど幾つかの国々では、諸条件はそれぞれ違っても、研究で確認され論文に載るなどして証明された効能は、健康補助食品の宣伝に使える場合もあるといいます。このため「Kyolic」では、免疫力増進効果を外箱に記載できるわけです。
こうした日本と諸外国の規制の違いを見極めることで、グローバル展開の大きな利点を見出せると、湧永さんは語ります。
同社の先見性は、創業間もない頃からありました。初代の満之氏は、熟成ニンニク抽出液を世界中の人に飲んでもらいたいと考え、海外進出の機会をうかがっていたと言います。「元気で長生き」は万人の願いであり、本当に良質な薬を作れば世界中で売れる可能性があると話していたそうです。
「祖父・満之は、我々がやっていることは海外にも通用すると信じていました」と湧永さんは振り返ります。
キヨーレオピン発売から5年に満たない1964年、評判を聞きつけた海外企業からの要請でオーストラリアに輸出したのが、海外進出の始まりでした。その後、1972年にアメリカの現地法人をハワイに設立し、1986年にはカリフォルニア州に本拠地を移して工場を開きました。
また、湧永製薬は世界中の大学などの研究機関と手を組んで熟成ニンニク抽出液の研究を続け、これまでに国内外で640件以上の論文発表や学会発表を行いました。こうした研究から、熟成ニンニク抽出液の幅広い効能を示唆するようなデータが明らかになってきたといいます。
ニンニク由来のサプリメントは、海外でも数多く存在します。しかし、「バイヤーから『ここまでエビデンスの多い製品は他にない』と言われます」と湧永さんは語ります。
2017年には「ワクナガ・オブ・ヨーロッパ」を設立。2020年1月にはドイツの製薬会社グリュンバルダー社を買収し、熟成ニンニク抽出液を伝統的な医薬品としての分類で承認申請を進めているとのことです。
スピード感を持って海外事業を行うため、「ワクナガ・オブ・アメリカ」の社長には、現地での運営に関する一切の権限を託し、素早い取引の決断を下せるようにしてきました。カリフォルニアにおいては、地元の農業従事者と密接に協働しながら有機ニンニクを栽培し、選りすぐりの原材料の現地調達を重視してきたといいます。
また、国内と海外で、レオピンシリーズの販売戦略も使い分けています。日本ではオーバー・ザ・カウンター(OTC)、つまり薬剤師の見立てと説明を要する製品として売り出しましたが、アメリカでは消費者が直接棚から手に取れるオフ・ザ・シェルフ型、およびネット販売に焦点を当ててきました。
近年多様化する国内の消費者のニーズに応え、アメリカなど海外でオフ・ザ・シェルフのサプリメントとして確立している「Kyolic」ブランドを日本に逆輸入し、企画生産は日本で行って、国内での売り上げを伸ばしているそうです。
湧永さんは、外部の企業で経験を積んだ後、湧永製薬に入社、2007年に33歳の若さで代表取締役社長に就任しました。慶應義塾大学経済学部に在学中、父親で2代目社長の湧永儀助氏が急逝し、自分が後を継がなければならないという現実に向き合ったそうです。
「事業を成功させる究極の秘訣は、世界で勝てる良いものを作るところに行きつく」と湧永さんは話します。カリフォルニアで、ニンニクの有機栽培に徹しているのも、世界中で絶え間なく研究を続けているのも、そのためです。
湧永さんは、日本企業は製品を開発するにあたり、国内市場に特化した様々な工夫を凝らしすぎて「オーバースペック」に陥りやすいと指摘。「はじめから、世界進出を前提に製品を作った方がよいのではないかと思います」と話します。しっかりとしたベースの技術があれば、どんな製品でも地球を舞台に勝負できるというわけです。
「医薬品に国境はない」という信念のもと、そうした「素材」を創り上げた祖父に感謝するとともに、それを更に世界に広めていくことに、後継ぎとして誇りを感じているそうです。
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