震災と父の死を乗り越え、復旧へ

 同社は1935年に創業しました。最高級ランクのスケソウダラを石臼ですりつぶす昔ながらの製法で、笹かまぼこを生産しています。本社にはレストランや工場見学コースを備え、海の駅としても人気(現在は感染予防のため休業中)で、年商は4億円にのぼります。

 武田さんは3兄弟の末っ子で、高校卒業後は仙台市でコピー機の営業マンとして働いていました。「兄もいましたし、当時は自分が後を継ぐことは全く想像していませんでした」

 家業に入るきっかけとなったのが、2003年1月でした。当時、家業を支えていた営業部長が病気で倒れ、営業経験があった武田さんに声がかかりました。入社後、商品の販売先を開拓したり、観光コースに組み込んでもらえるよう旅行会社に営業したりしながら、家業について学びました。

東日本大震災では、武田の笹かまぼこの工場が泥に覆われました(同社提供)

 営業部長を任されるまでになりましたが、2011年3月、東日本大震災が会社を襲いました。社屋は津波で約1メートルの高さまで浸水。1階の工場の機械が壊れ、海水や油を含んだ泥に覆われました。さらに震災の3日後、病気で入院していた2代目の父が亡くなりました。「会社をすぐに復旧させようなんて、その時はとても思えませんでした」

 悲しみの中、武田さんと兄は、震災直後から3月末まで社屋を一時避難所として開放。津波から避難していた人たちに、残っていた笹かまぼこを振る舞いました。「皆さん口々に『早く復旧してね』と声をかけてくれて、大きな力になりました」

 社員と共に急ピッチで復旧作業を進め、震災から約3カ月後の2011年6月に営業を再開しました。「工場が動く状態になった時は、感動もひとしおでした」。兄が3代目の社長となり、武田さん兄弟を中心に経営することになりました。

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