「商売っ気を出さない」デジタルマーケティングで1.2億円を新規受注
受注生産型により20年間で数件しか新規の引き合いのなかった企業が、デジタルマーケティングに取り組んで2年間で30社の新規開拓に成功。2020年には新規受注で1.2億円の成果を上げました。そんな営業のDXを進める関東製作所の渡邉章社長がオンラインイベントで寄せられた経営者の疑問に答えました。
受注生産型により20年間で数件しか新規の引き合いのなかった企業が、デジタルマーケティングに取り組んで2年間で30社の新規開拓に成功。2020年には新規受注で1.2億円の成果を上げました。そんな営業のDXを進める関東製作所の渡邉章社長がオンラインイベントで寄せられた経営者の疑問に答えました。
目次
関東製作所は、おもに自動車向けの内外装品、機能部品の金型・設備の製造・販売を手がけてきた企業です。ただし、受注生産型のため、業績は取引先の開発の波の影響を受けてしまいます。たとえば、ある取引先の売り上げが5分の1程度まで下がることがありました。
1社依存度、業界依存度が高いと、環境変化に対応できなくなってしまいます。また、値下げ要求に応じてしまうと利益率もなかなか上げられません。
「新規顧客を開拓し、受注を増やして経営を安定させられないか」と渡邉さんは感じていましたが、この20年で新規の引き合い(取引前の問い合わせ)は3、4件。
やみくもに営業しても受注につながる確率は低く、効率が良くありません。以前は成形メーカーを調べて、営業マンが売り込みをかけていました。しかし、すでに取引のある金型メーカーがあるため、新規参入は非常に困難であると同時に価格を安くしないと受注に至らず、結果として取引が長続きしませんでした。
そんな時に出会ったのが、デジタルマーケティングでした。
デジタルマーケティングに取り組んだきっかけについて、渡邉さんは「正直にお話しすると運です」と明かします。
関東製作所では、ちょうどそのころ、社内で教育システム構築のために船井総合研究所の片山和也上席コンサルタントに相談していました。勉強会を開くなかでたまたまデジタルマーケティングが話題に上りました。
関東製作所が2019年2月からデジタルマーケティングに取り組み始めました。具体的には、次の5つの取り組みをしました。
まずは、自社の商品・サービスに関心がありそうな見込み客のリストを充実させるために、展示会への出展、ホワイトペーパーの作成、情報プラットフォームや新聞広告の活用などに力を入れました。
↓ここから続き
そしてプラスチック成形の工法の一つである射出成形についてのソリューションサイト「射出成形ラボ」を立ち上げました。射出成形で起こるトラブルの解決方法などのコンテンツを出すことで「射出成形に関して調べたい」と考えているユーザーへの認知度を高めることを始めました。
ソリューションサイトのコツについて、渡邉さんは「あまり商売っ気を出さない方がよいと思います。できる限りターゲットとしている顧客が何を望んでいるのかをしっかりと考え、訪問者の期待に応えられるコンテンツが大切だと思います」と答えます。
問い合わせ内容の多くは困りごとのある企業です。そのため、製品を売るのではなく、課題を一緒に解決することを心がけました。
オンラインイベントの視聴者からは「どれぐらいのコストがかかるのか」という質問が寄せられました。これに対し、渡邉さんは「ソリューションサイトを立ち上げるだけで100万円、展示会も1回100万程度は最低かかるので、少なくとも200万円程度資金に余裕がある企業が対象だと思います」と答えました。
サイトでは、自社の強みを何なのかを問い直して、どのような人に何を伝えれば記憶に残してもらえるか言葉選びからを考えています。さらに、文字だけでなく不良品の対策セミナーをYouTubeにアップするなど、コンテンツの製作を続けています。
さらに、これまで得た見込み客のリストに、メルマガを配信し、ソリューションサイトへ誘導する取り組みをはじめました。メルマガはMA(マーケティングオートメーション)ツールを活用し、メルマガの開封率やクリック率などをもとに、さらに情報を発信するなどフォローアップをしました。
サイトの構築は外部に委託しましたが、社内で運用することを決めました。そこで、マーケティング専任者を新たに採用しました。マーケティングと営業を切り離し、引き合いを持ってくるまでがマーケティングの仕事、引き合いをもらってから受注まで結び付けるのが営業の仕事と、分業することで効率よく受注に結びつけようと考えました。
こうした仕組みを作っただけでは、効果は十分得られません。そこで、展示会に出展して見込み客リストの更新に加え、WEB広告でソリューションサイトへの誘導を図っています。渡邉さんは「日々の業務に追われている社員からすると、なぜコストをかけてそんなことをするのか、というようにまだ十分に浸透していないと感じています」と話します。
そこで、まず幹部には月1回勉強会を1日かけて開催し、幹部から各事業部や中間管理職に説明をしてもらうように努めています。さらに、一般社員には、年頭のあいさつや四半期報告会で、会社の取り組みを説明しています。
2020年には、経営理念、行動指針、社長の想い、会社の取り組み、就業規則を記した社員手帳を作りました。「そのような地道な取り組みを続けて、全員が同じ方向を目指せるようにしています」
「顧客との関係性はどのように変わったのか」という質問に対し、渡邉さんは「既存の顧客との関係は変わりません。ただ新規顧客は対等な立場で話ができるようになったと思います」と答えました。
新規受注の案件は、受注ロット、金額とも小さいものが多いですが、徐々に大きいロット、大きい金額の受注も出始めているといいます。「2022年1月期の決算では実感ができるようになると期待しています」
一方で、難易度に関しては、数段上がりました。
「今までは成形メーカーさんに言われたことを行っていればよかったのが、これからはこちらからの提案だけでなく、結果も伴わなくてはならないので感覚を変える必要があります。現時点で自分たちができない事は真摯に受け止め、改善し、できるようにする事で、企業としても成長できるようなるのではないかと考えています」
2019年は4社4000万円以上の売上を目標としましたが、結果は5社2000万円でした。関東製作所ではデジタルマーケティングを始めたのは2019年2月。
渡邉さんは「当社の売り込んでいる製品は開発段階のやり取りから開始されるので、モノによっては数年がかりで話し合って進めており、すぐに効果は出てこないのが実情です」と打ち明けます。
ただし、引き合い件数や商談件数は確実に伸びており、将来的には売上、利益に大きく貢献してくるものと考えています。2020年は1億2000万円程度、新規顧客からの受注があり、既存顧客のマイナスを補うことができました。2021年には新規で3億円程度の受注を見込んでいます。
関東製作所が新規受注を増やせた理由について、渡邉さんは「DX以外にも理由があります」と話します。それは成形事業を始めたことでした。この事業を始めたことで、顧客ターゲットが成形メーカーからプラスチック製品を扱うすべてのメーカーになりました。
デジタルマーケティングを導入するか迷っているという経営者の質問に対し「関東製作所でも成形事業を行わずに、デジタルマーケティングをしていても成功していないと感じています。マーケットの大きさを認識し、ペルソナをしっかりと設定してデジタルマーケティングを導入すべきかどうかは判断してください。ニッチな業界でシェアが高いとデジタルマーケティングには難しい場合もあるかもしれません」と話します。
さいごに、渡邉さんは同じ課題を持つ経営者に向けて次のように話しました。
まず経営者はどんな風な会社にして行きたいか、青写真を描く事が大切だと思います。最近DXというバズワードが飛び交っていますが、DXを導入する事が目的ではなく、DXを活用して、どのような会社にして行きたいかを考える事が大切だと思います。そして導入したら、うまくいくまで、社員と一緒になって自分も率先してデジタルツールを活用する事が大切なのではないでしょうか。信念をもって経営者自らが成し遂げる必要があると思います。
ここでいう、自らとはディーテールを自らやれと言っているわけではありません。実行は社員にやってもらうのですが、それが上手くいかなければ、なぜうまくいかないのか、どこが問題なのか、どのようにすればよいのかは、社員と一緒になって改善を行い、時には第三者の意見も取り込みながら、導入するのが良いのではないかと思います。
自分だけでシステムを構築する事は困難です。会計士さんやコンサルタントの活用も有益です。ソフトを導入するにしても、コンサルタントに入ってもらうにしてもコストがかかります。会社のお財布と相談しながら、一つ一つできる事から着手する事が良いと思います。
会社が倒産するほどの投資は問題がありますが、多少の怪我で済むのであれば、どんどんチャレンジして、改善を重ねて、結果を出すようにするのが良いと思います。考えているだけでは前に進みませんので、まず一歩、そして軌道修正しながら、目標に向かって進んでみてください。
2019年2月 展示会に初出展(ビッグサイト 機械要素展)
2019年4月 ソリューションサイト立ち上げ(射出成形ラボ)
2019年4月 メルマガ送信開始
2019年4月 MAソフト利用開始(最初はカイロス 現在はZOHO)
2019年6月 行動指針作成
2019年12月 ZOOMライセンス取得
2020年2月 展示会出展2回目(幕張メッセ 機械要素展)
2020年2月 ソリューションサイト 2本立ち上げ
部品加工東海NAVI 部品加工関東NAVI
2020年5月 マークラインズに広告
2020年6月 チャットワーク導入(グループチャット)
2020年6月 社員手帳配布(社員への啓蒙活動)
2020年7月 マーケティング専任者の採用(インサイドセールス)
2020年8月 一から学ぶ射出成形(ホワイトペーパーの作成)
2020年10月 展示会3回目(インテックス大阪 機械要素展)
2020年11月 SFA(営業支援ソフトNIコラボ)導入
2021年1月 コンテンツマーケティング キックオフミーティング
2021年2月 展示会4回目(幕張メッセ 機械要素展)
(コロナの緊急事態宣言延長に伴い不発)
2021年4月 展示会5回目(ビッグサイト インターモールド初出展)
2021年4月 オウンドメディア 公開予定
(続きは会員登録で読めます)
ツギノジダイに会員登録をすると、記事全文をお読みいただけます。
おすすめ記事をまとめたメールマガジンも受信できます。
おすすめのニュース、取材余話、イベントの優先案内など「ツギノジダイ」を一層お楽しみいただける情報を定期的に配信しています。メルマガを購読したい方は、会員登録をお願いいたします。
朝日インタラクティブが運営する「ツギノジダイ」は、中小企業の経営者や後継者、後を継ごうか迷っている人たちに寄り添うメディアです。さまざまな事業承継の選択肢や必要な基礎知識を紹介します。
さらに会社を継いだ経営者のインタビューや売り上げアップ、経営改革に役立つ事例など、次の時代を勝ち抜くヒントをお届けします。企業が今ある理由は、顧客に選ばれて続けてきたからです。刻々と変化する経営環境に柔軟に対応し、それぞれの強みを生かせば、さらに成長できます。
ツギノジダイは後継者不足という社会課題の解決に向けて、みなさまと一緒に考えていきます。