長崎から大きい市場を狙うコツ 売上高3500億円超の企業から受注
九州の西の端にある長崎県。大村市産業支援センターは2017年に大村・長崎の中小企業・事業者の公設無料経営相談所として開設しました。私が着任当初から意識していたことの一つは、可能性があれば大村・長崎の商圏に留まらずに、積極的に外貨(長崎県以外を意味する)を狙うことです。
九州の西の端にある長崎県。大村市産業支援センターは2017年に大村・長崎の中小企業・事業者の公設無料経営相談所として開設しました。私が着任当初から意識していたことの一つは、可能性があれば大村・長崎の商圏に留まらずに、積極的に外貨(長崎県以外を意味する)を狙うことです。
地域が発展していくには、市場としての大村・長崎だけではなく、事業者の意識・発想をも変えてローカルの枠に留まらずより大きい市場を狙っていくマインドが大切です。
ただ、これまでの経験からもこの意識の切り替えはけっこう難しいです。「そうはいってもどうやって?」となるのが通常です。そこで長崎以外でも十分通用する事業者の魅力を磨き上げ、一緒に仕掛けて目に見える成果を出すと初めて意識も切り替わり納得してもらえます。
今回は、相談事業者と積極的に大手企業をターゲットとして仕掛けていった事例を紹介します。
快眠デザイン研究所を運営している古泉典彦さんが初めて大村市産業支援センターへ相談に訪れたのは2019年6月でした。実家が寝具店という家に生まれ育ち、幼いころから睡眠には人並み以上の関心がありました。
「睡眠健康指導士上級」「睡眠環境診断士」などの資格を生かし、相談時は睡眠カウンセラーとして、個人を対象に寝具の販売や睡眠カウンセリング、また、県内の企業団体向けに健康と睡眠に関するセミナーを行ってきました。相談は、今後依頼をさらに増やしていきたいとの内容でした。
これまで古泉さんが実施してきた個別カウンセリングの話を聞くうちに、実際に多くのビジネスパーソンが不眠に苦しんでいること、また、睡眠日誌をベースにした個別カウンセリングなど様々なノウハウを持っていることがわかってきました。
そこで私は、「あなたが持っている睡眠ノウハウは大企業こそ今必要としているものだと思います。そこで、大手企業をターゲットに進めてみましょう!」と古泉さんに伝えました。古泉さんは当初、驚いた様子でしたが、私には市場のトレンドを把握した上での提案であり、また勝算もありました。
大手企業をターゲットにしたのには3つの理由がありました。1つ目は、健康経営やストレスチェック義務化などは中小企業においても叫ばれていましたが、実際に社員教育を含めてしっかり検討を進めることが出来るのは余裕がある一定規模以上の大手企業に限られるためです。
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2つ目は、米国西海岸シリコンバレーにある世界的IT企業において、積極的仮眠(パワーナップ)導入による生産性向上の成果が出ており、日本の大手企業も積極的仮眠(パワーナップ)の導入を検討し始めているなどのトレンドがあったためです。
3つ目は、実は私自身が産業支援センターに着任する前に企業や大学のHRD(Human Resource Development:人材開発)にかかわっていた実績もあり、日本企業のアセアンマーケット進出のための人材育成プログラムを提供したことがあったのですが、その時受託した企業は売上高1兆円を超える大企業でした。その経験からも、大手企業の研修担当者が、どのようなモノを求めているかを理解していました。
そこで、古泉さんのこれまでのノウハウを最大限活かすには、社員教育・福利厚生にあまり余裕がない地域企業をターゲットとして動くよりは、一定規模以上の企業をターゲットとして動いたほうが結果的に良い方向になると考えました。
具体的には、改めて健康経営、ビジネス上における睡眠のトレンドなどのリサーチを行い、これまでの古泉さんのノウハウをどう活用するかを検討しました。また、その内容をどのように大手企業担当者に伝えていくかの手法を検討したうえで、業界団体のリサーチやDMの発送などを行いました。
さらに、上記の分析と判断に基づいたホームページの改定・情報発信の改善をサポートしました。具体的キーワードの選択から、大手企業の総務・研修担当者の思考プロセスに合わせてストーリーが流れていくように古泉さんと打合せしながら組み立てていきました。
まず、大手企業の研修担当者がどのようなモノを求めているのか?思考プロセスはどうなっているかを古泉さんとマインドマップ的なチャートをつくって関連性と上位概念を検討しました。
たとえば、パワーナップ(積極的仮眠)なら、その目的と上位概念は「生産性の向上」というキーワードがある。健康経営なら、従業員の健康・生産性の向上・人材の採用時のPR、社員の定着率の向上など様々なキーワードがあり、それがどのように関連してつながっていくのかを思考プロセスにそって検討していきました。それらの検討結果を活かし、ホームページの改定・SNSでの情報発信内容のチェック・営業用プレゼン資料の改定を行っていきました。
その結果、しばらくして「睡眠に関するセミナーを検討しているんだが、詳しく内容を聞かせてほしい」との連絡が大手企業から直接来ました、と古泉さんからうれしい報告が入ってきました。
その企業は売上高3500億円を超える大企業で、結果的にセミナーを受注することができました。その後も、連結売上高1000億円を超える大手企業グループ企業からも依頼があり、睡眠に関するセミナーを受注、内容もとても好評だったとのことで、「来年度も是非」という話だけでなく、より踏み込んだ企画を検討したいとの話が寄せられるようになりました。
さらに、ビジネスパーソン向けの全国版WEBマガジンより、「睡眠に関する件で取材させてほしい」との依頼も舞い込んできました。
現在は、本格的に健康経営に取り組む企業向け新サービスを開発中で、新しい挑戦を始めています。
地方の個人事業主でも、しっかりしたコンテンツを持っていれば、超大企業からも直接依頼が来る時代であることは、古泉さんが実証してくれました。
地域にある産業支援にかかわる者として、ローカルだけにとらわれず、相談事業者の力を最大限伸ばしていくためにも、センター自身が常に全国・世界を目指す視点を意識しながら日々挑戦していきたいと思います。
大村市産業支援センターは、長崎県大村市が2017年7月に開設した無料の経営相談所。「できるだけお金をかけずに知恵をだして売上アップを目指す」をモットーに大村市ほか長崎県内の小売・製造・農業・介護・サービスなど幅広い業種の中小事業者の経営支援を行っています。
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