目次

  1. はじめに
  2. AIテクノロジーとは
  3. AIのビジネス応用
  4. AIテクノロジーの導入方法
  5. 中小企業がAIテクノロジーを利用するには
    1. テクノロジーはあくまで課題解決ツール
    2. 中小企業がITツールを選ぶときの注意点
    3. ITツールの選定
  6. AIの活用事例

 近年、AI(人工知能)のビジネスへの利用が、少しずつ広がってきています。その応用分野は着実に拡大しており、経営者なら、いつまでも無視はできないはずです。

 一般的なAIビジネス入門書は、資金も人材も豊富な大企業向けに書かれています。このため経営資源が潤沢にあるわけでない中小企業が、そのままの方式でAI導入をしようとすると、失敗するリスクが高くなります。

 そこでこの記事では、中小企業がAIテクノロジーを利用するには、どのような点に注意すべきかを交えながら解説していきます。

 機械学習やディープラーニングのようなAIテクノロジーは、従来からあるソフトウェアと大きく異なる点があります。

 それは「教師データ」と呼ばれる大量のデータから、「学習」ができることです。

手続き型プログラムとディープラーニングの仕組み

 一般的なコンピューターのプログラムは、上図のようにプログラマーがあらゆる条件を考慮して設計します。考慮されないような条件があった場合には、バグとしてエラーとなります。

 これに対してAIテクノロジー(ディープラーニング)では、一般的に「教師データ」を大量学習することで、学習済みモデルが生成できます。

 この教師データに、あらゆる条件が含まれていれば、正しい結果が得られます。しかし例外となるようなデータが含まれていないと、間違った結果を出力してしまいます。
つまりごく単純化していうと、プログラミング行為を教師データが肩代わりしたようなものなのです。したがって、この教師データの量と質が、非常に重要になってきます。

 AIテクノロジーは、非常に進化の激しい分野です。新しい技術をビジネスで利用するには、リスクが伴うため、AIテクノロジーの応用は難しい技術だといえます。

 研究段階では様々なビジネス領域にまで拡大していますが、実際のビジネスで利用するには、安定した技術でないとリスクが高くなります。

 このため現時点で、ビジネスで実際にAIテクノロジーを利用できる分野は、主には次の分野です。

  • 予測:売上予測など、過去のデータに基づいての予測
  • 認識(分類):画像、音声、文字、感情などのデータ分類
  • 自動化:RPAなどの定型的な処理の自動化
  • 提案:ユーザーに商品などをお勧めするレコメンド
  • 自然言語処理:チャットボット、スマートスピーカーなどの言語処理

 2016年ごろに起こったAIブームでは、ビジネスにどのように適用するかが分かりませんでした。

AI導入の流れ

 当初は、各企業やベンダーは試行錯誤を繰り返していましたが、次第に図のような工程で開発をするようになります。

 しかしこの「PoC(Proof of Concept)」と呼ばれる技術検証の段階で、8割は失敗に終わっています。

 それでも、メルカリやLINEのような自社で優秀なエンジニアを抱えているテック企業は、AIテクノロジーを適用できる領域を見極めることができるようになり、先駆者として大きな競争力を獲得できました。

 エンジニアやAIテクノロジーを理解している人材が乏しい企業では、大企業もITベンダーに丸投げしたために、いまだにAIテクノロジーを活用できていません。

 つまり、人材や資金が潤沢にない中小企業の場合には、大企業のようなやり方では、上手くAIテクノロジーを活用することはできないのです。

 それでは、中小企業がAIテクノロジーを利用するためには、どうすればよいでしょうか。

 現在、DXやAIが盛んに喧伝されていますが、これらのテクノロジーはあくまで「課題解決ツール」のための手段でしかありません。

 解決すべき経営課題を明確化しなければ、その手段も決められません。

 企業は様々な課題を抱えているはずですが、中小企業なら「労働生産性の向上」が解決すべき最も重要な課題だと、私は考えています。

 日本のGDPは世界3位ですが、内閣府によると、2019年の日本の国民1人当たりの名目GDP(国内総生産、ドル換算額)が経済協力開発機構(OECD)加盟37カ国中、19位。先進国の中では低く、その原因は日本企業の労働生産性の低さです。

 特に中小企業は大企業と比較して労働生産性が低く、そのために賃金も低くなり、人材も集まらないという負のスパイラルに陥りがちです。

 その中でもサービス業、特に飲食業は相対的に低いために従業員の確保が難しく、しかも定着率が悪くなりがちです。したがって人手不足を解消するためにも、労働生産性の向上は中小企業にとって、最優先課題なのです。

 では、企業の労働生産性を上げるためには、どうすればよいでしょうか。従業員を増やさずに売上を増やすには、作業の自動化が必要です。

 様々なITツールは、そもそも「労働生産性向上ツール」として開発されています。

 したがって、これらのITツールを利用することになります。AIテクノロジーは、このITツールに組み込まれているテクノロジーの1つなのです。

 先ほど中小企業は、AIテクノロジーを利用する際には、大企業と同じような方法ではいけないと述べました。中小企業には、経営資源に十分な余裕があるとは言えません。

 実験要素が非常に高いPoCから始めなければならないITツール類は、避けるべきなのです。

 また、AIテクノロジーを利用している・いないに関わらず、ITツールは会社ごとにカスタマイズする製品が多いのですが、これも避けるべきです。

 あくまでパッケージ化された製品を選択し、製品の標準仕様で利用することが重要なことです。

 現実には社内での運用方法や利用方法とは差異があるので、自社専用に製品のカスタマイズを要求する日本企業が多いのも実態です。

 しかしこれをすると、後々大きな費用が発生することになるので、絶対にしてはいけません。

 だからといって、あまりに使いづらいと、生産性が上がらなくなるので、導入する意味がなくなります。

 ITツールの選定には、慎重にするべきなのです。

 では、自社の労働生産性を上げるには、具体的にどうすればよいのでしょうか。様々な自動化ツールがありますが、どの製品をどのように選定するべきでしょうか。

 やり方として2種類が考えられます。

  1. 経理や人事部門、営業活動で手作業がまだ残っているような、バックオフィス系での労働生産性向上を狙う
  2. 製造や運送、小売など、主力事業となる現場部門での労働生産性向上を狙う

 1のバックオフィス系のITツールは、汎用性が高いために様々なパッケージソフトやクラウドサービスがあります。

 特にクラウド経理などは、高機能低価格のサービスが多いので、既に導入している企業も多いと思います。未導入の企業なら、まずここから始めるべきです。

 またAIテクノロジーとまではいえませんが、「RPA」というパソコン作業を自動化するツール、「チャットボット」という問い合わせ自動応答ツールもあります。

 これらは比較的安価で導入も容易なので、近年官公庁などでも導入が進んでおり、検討してもよいと思います。

 2の主力事業の場合には、業種ごとに個別開発しなければならないため、パッケージ化されたサービスは少ないのが実状です。

 大企業は、ここにAI機能を搭載しようとして、PoCをしてきました。その成果は次第に出てきていますが、日本のAIベンダーからは、現時点で業種別のパッケージサービスは、ほとんど出ていないようです。

 もし自社の業務に適合したパッケージのサービスやソフトウェアがない場合には、独自に開発が必要となります。

 このためには、自社の作業工程のどこを自動化するべきかを決める必要があります。

 まず従業員の作業工程を洗い出し、各工程の時間を測定します。

 最も時間と人数がかかっている作業工程を「見える化(可視化)」させることで、自動化対象となる作業工程が判明します。

 実際には、絶対に自動化が不可能な作業もありますし、自動化するとその企業のサービスや製品の最大の付加価値がなくなる場合もあるので、ここは十分な検討が必要です。

 次に、自動化対象とする作業工程が、本当に自動化できるのかを調査します。

 ここは自社内で調査するより、専門の外部ベンダーに委託して提案させた方がよい場合があります。

 この場合でも必ず複数のベンダーに依頼して、相見積もりすることが肝要です。そして提示された金額は、本当に投資対効果(ROI)が高いのかを検討して、導入の可否を判断することになります。

 では最後に、AIテクノロジーを既に活用している事例を、少しになりますが紹介します。

 AIテクノロジーの応用分野で、ビジネスでも安定した性能を発揮できるのは、現時点では「画像認識」です。

 画像認識とは、入力された画像データを「教師画像データ」と同じカテゴリーに、分類することです。

ディープラーニングによる画像認識処理

 例えば、図のようにリンゴとミカンとイチゴの教師画像を大量に学習したAI(CNN)は、この3種類の画像が入力されると、3つのカテゴリーに分類できるようになります。

 このスピードと正確性が人間を上回ることができたので、AIのビジネス応用が活発化したのです。

 具体的には、製造部門での「外観検査」が、日本ではAIテクノロジーの応用先として先行してきました。

 ただし、この場合でも「不良品画像データ」が重要となるので、このデータが大量にないと良い結果は得られないので注意が必要です。

 他には、パン屋さんで多種多様なパンを瞬時に見分けたり、食堂でトレイに載せた料理を見分けてレジを自動化するようなPOSレジもあります。

 在庫管理でも、物品にQRコードを付与しなくても物品の写真画像だけで在庫管理できるようなサービスも登場しています。

 またスマートスピーカーは、あまり日本ではビジネスに利用されていませんが、1万円程度にも関わらず高度なAI機能が搭載されているので利用価値があります。

 例えば、数十の言語をリアルタイムで同時通訳できるので、外国人を相手に商売をしている場合には便利です。

 東南アジアの人たちの来院が多いクリニックでは、英語が通じないのであらゆる言語を通訳してくれるスマートスピーカーやスマホの通訳アプリを使っています。

 AIテクノロジーは魔法の杖ではないので、できることはまだ限られています。

 それでも理解しがたいブラックボックスとして捉えることなく、経営課題を解決するITツールの一つとしてAIテクノロジーを活用してください。