冠婚葬祭需要が蒸発した和菓子店 V字回復の理由は「スポーツ専用」
天然のいけすと呼ばれる富山湾に面する氷見市に、地域密着型の経営を営む和菓子店があります。新型コロナの影響で、主力の冠婚葬祭向けの注文がなくなるなか、新たに開発したのが、富山県が力を入れているスポーツ専用の和菓子でした。全国から注文が集まるようになった新商品について、開発をサポートした氷見市ビジネスサポートセンター Himi-Biz(ヒミビズ)から紹介します。
天然のいけすと呼ばれる富山湾に面する氷見市に、地域密着型の経営を営む和菓子店があります。新型コロナの影響で、主力の冠婚葬祭向けの注文がなくなるなか、新たに開発したのが、富山県が力を入れているスポーツ専用の和菓子でした。全国から注文が集まるようになった新商品について、開発をサポートした氷見市ビジネスサポートセンター Himi-Biz(ヒミビズ)から紹介します。
氷見寒ブリをはじめとした港町として有名な富山県氷見市にある「松木菓子舗」は、1949年に創業し、3代目である現店主の松木功太代表の祖父の代から、代々地域に根ざした経営をしてきました。
創業当初は、日本三大和菓子処の金沢和菓子の流れを汲み、素材にこだわった伝統的な和菓子づくりを行うお店として展開していましたが、3代目の松木さんが経営に関わるようになってからは、洋菓子の要素を加えた新しいお菓子作りにも挑戦するなど、枠にとらわれないお菓子作りに取り組んでいます。冠婚葬祭で重宝されているバウムクーヘンは看板商品の1つです。
富山県氷見市でも新型コロナの影響は大きく、売上の8割を占めていた商品は、冠婚葬祭が中止となったことで、軒並み注文が無くなったほか、富山県の要請を受けて店舗休業・営業活動を縮小した結果、2020年5月の売上は昨年対比7割減と大きく落ち込みました。
6月に入ってからも売上は大きく戻る見込みが立たず、今後どのようにお店を続けていくか考えていたとき、6月1日にOPENしたヒミビズのことを知り、相談開始2日目に松木さんは相談に訪れました。
松木さんの話を聞いたヒミビズでは、松木さんが安心・安全な無添加素材を使用したこだわりのお菓子づくりを大切にされていること、また、和菓子店でありながら、看板商品が和菓子づくりの技術を活かしたバウムクーヘンであるという柔軟な開発力に着目しました。
この柔軟な開発力を生かす新商品のアイデアとして生まれたのが、新型コロナウイルスの影響で、三密回避のために伸びる兆しを見せていたアウトドアスポーツ向けの和菓子でした。
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そのアウトドアスポーツとは、サイクリングです。富山県全体でサイクリングコースの整備に力をいれており、そのなかでも富山湾沿いを走れば、海越しの立山連峰を眺めたり、山側に入れば棚田の間を走り抜けたりと自然豊かな景色を満喫できます。氷見市は、サイクリストにとってそのような魅力的なコースを有しています。
そこで、和菓子屋の定番商品である「羊羹(ようかん)」を、サイクリスト向けの専用商品として販売をし、これまでお茶菓子として使われてきた羊羹を、「補給食」として提案してみてはどうかアドバイスをしました。
筆者自身もサイクリングを楽しむことがあり、サイクリストはロングライド(長距離の自転車走行)をする際、素早くエネルギーを補給するために補給食を食べるのですが、運動中の補給食は口の中の水分が取られず、少量で高カロリーが摂取できるものを好むため、みずみずしく小さく高カロリーである羊羹はまさにうってつけな商品でした。
松木さんは、祖父の代から引き継がれてきた羊羹のレシピをもとに、サイクリスト向けの羊羹として塩分を通常の2倍にしてミネラル補給ができ、かつ、携帯がしやすく食べやすい一口サイズの商品の開発に取り組みました。
サイクリストが好むように、パッケージデザインやネーミングにもこだわり、松木さんの商品デザインをサポートされているデザイナーの林久美さんを交えてディスカッションし、自転車レースで世界的に有名なツール・ド・フランスの優秀選手が表彰される際に着る4賞ジャージをモチーフとしたデザインを取り入れることに決めました。
ネーミングについては、シンプルにサイクリスト向けの商品であることが伝わるよう、サイクリングとようかんを組み合わせて「CYCLEようかん」とし、2020年9月3日に、新商品として発売を開始していくことができました。
9月3日に発売を開始したCYCLEようかんは、地元富山県のTVや新聞で大きく取り上げられる商品となり、サイクリストが愛読する自転車専門誌などでも紹介されることになりました。その結果、全国のサイクリストや自転車団体からもオンラインショップを通じて注文が入るようになりました。
また、サイクリストだけでなく、地元の新規客や、新型コロナウイルスに不安を覚えて外出を控えていた常連客も来店が増え、2020年は客数が前年比130%増となり、売上も前年比110%に高めることができました。
新型コロナの影響で中止が相次いだ自転車のイベントですが、2021年は富山県で最も大きなサイクリングイベントの「富山湾岸サイクリング2021」で、休憩地点であるエイドステーションに用意する補給食として、CYCLEようかんの採用が決まるなど、取り扱いも広がり続けています。
新型コロナウイルスの影響によって、松木菓子舗も一時大きく売上を下げることになりましたが、松木さんは事業を見つめ直し、新たなチャレンジを行うきっかけとなったと話しています。
事業を続けていくためには、変化に対応をしていくことが必要不可欠です。松木さんが和菓子店でありながら、洋菓子の開発にもチャレンジされてきたからこそ、看板商品のバウムクーヘンの開発に成功されたように、新型コロナウイルスの影響によって生じた変化をきっかけとし、新たなチャレンジを行うことが、今後の事業継続において重要です。
一方で、正解の無い企業経営において、一人で考えていくとなかなか変化に向けた第一歩を踏み出せない経営者の方もいると思います。
ヒミビズは経営者の皆さんと一緒になって事業について考え、皆さんのセールスポイントを活かした、お金のかからないアイデアを提供し、事業者の皆さんの新たなチャレンジをサポートし続けていきたいと思います。
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