温泉郷全体をブランディング

 金沢市から南へ40キロ。加賀温泉郷は粟津、片山津、山代、山中という四つの温泉地の総称です。1956年に創業した「よろづや観光」の3代目社長・萬谷浩幸さん(45)は、山代温泉で「葉渡莉」「瑠璃光」という二つの旅館を経営しています。

 半径8キロ圏内に点在し、元々はライバル関係だった四つの温泉地を、萬谷さんは「加賀温泉郷」としてブランディング。今も山代温泉観光協会の宣伝企画部長として、手腕を発揮しています。

 萬谷さんは、北陸新幹線の金沢駅開業前年の2014年、30代でよろづや観光の社長に就任しました。しかし、後継者への道を着々と歩んできたわけではありませんでした。

萬谷さんが経営する旅館「瑠璃光」

不完全燃焼の日々が一転

 「早稲田大学時代は、音楽や美術にはまっていました」。格安チケットでニューヨークやパリに行っては、美術館や映画館に入り浸っていました。「ビジネスマンになって出世を目指す道もピンとこなくて、兄がいたので家業に入ったとしても継ぐことはないだろうと思っていました」

 大学卒業後、よろづや観光に入社。東京事務所のいち営業マンとして働きました。「学生時代にどっぷりつかった文化的なことから離れ、営業という仕事に情熱が持てませんでした。一方で、経営側としてバリバリやりたい気持ちもあって、中ぶらりんでした」

 しかし、芸術肌だった萬谷さんの不完全燃焼の日々は、兄が独立して飲食店の経営をはじめたことをきっかけに一転。2003年、後継者として加賀に戻ることとなりました。

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