コロナ禍でも業績を上向きに

 「1年前の今頃は本当に苦しかった」。三福タクシー社長の岩崎一沖さん(58)は声を絞り出しました。同社は1957年に創業し、岩崎さんは2002年、父の後を受けて、5代目社長に就きました。タクシー事業のほか、路線バスや貸し切りバスも手掛けて観光誘客にも力を入れ、従業員数は約50人にのぼります。

 全国に1回目の緊急事態宣言が発令された2020年4月以降、岩崎さんは「観光は厳しい」と感じ、企業が現場に向かう従業員の送り迎えで使うバスの営業をかけました。GoToキャンペーン期間中の同年10月には、バスで観光地を巡りながら、車内で地元シェフの料理を味わう「若狭路レストランバス」の運行を手掛け、完売となりました。

 岩崎さんは「コロナ禍でも業績を上向きにできたからこそ、今回のM&Aが実現できた」と話します。では、なぜ同業のM&Aに乗り出したのでしょうか。

三福タクシーのハイヤー。福井県内の観光での利用を想定しています

事業譲渡の希望を知って交渉

 2020年11月、岩崎さんは福井県のタクシー協会を通じて、小浜市から約100キロ離れた福井市の共栄タクシーが、事業譲渡を希望していることを知りました。

 共栄タクシーは1962年創業で、同市の福井赤十字病院を利用する人たちの足となっていました。しかし、社長の隅田強さん(65)は、廃業を検討していました。コロナ禍で人の往来が減って見舞客が激減。経営は苦しくなる一方でした。「息子たちは畑違いの仕事をしていた」ために、事業承継は難しく、存続も厳しくなっていました。

 隅田さんは「顧客や従業員の生活をどうやって守るか」を考え、2020年10月、県の事業引継ぎ支援センターに相談に訪れました。センターは事業譲渡の可能性を探るため、三福タクシーとの橋渡しを行い、同年秋から交渉がスタートしました。

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