目次

  1. 改姓の影響、女性経営者の支援団体が調査
    1. 「不便・不都合を感じたことがある」が6割
    2. 改姓が結婚をためらう要因にも
  2. 女性経営者が直面している具体的な課題とは
  3. アンケートで寄せられた声
    1. 公的・⾦融機関手続きの煩雑さとコスト
    2. 業務上の⽀障および混乱
    3. アイデンティティの損失
    4. ファミリービジネスのブランド毀損
    5. 精神的苦痛
  4. アンケートの概要と回答者の属性 

 選択的夫婦別姓をめぐる議論が活発になるなか、女性経営者や後継予定者を支援する日本跡取り娘共育協会の内山統子代表理事らは「結婚や離婚による改姓が、女性が経営する上で障壁となっているのではないか」と考え、女性経営者191人にアンケート調査を実施しました。アンケートの概要は記事末尾に記載します。

 アンケートの回答を分析すると、191人中、6割にあたる118人が「不便・不都合を感じたことがある」と回答しました。不便や不都合の詳しい内容について、複数回答で尋ねたところ、行政や金融機関での手続きの煩雑さやコストを挙げる人がそれぞれ101人、96人いました。

 そのほかに多かった回答は次の通りです。

「通称の旧姓と戸籍上の姓の二重使用で生じる社外での混乱」(61人)
「旧姓時の活動(取材や公開文書など)と、新姓時の活動が分断される」(54人)
「婚姻・離婚情報が明るみになる、またそれに伴うハラスメント」(49人)
「通称の旧姓と戸籍上の姓の二重管理による生産性の低下(自社内)」(47人)

 「婚姻に伴って姓を変更すること(または変更する可能性があること)が、結婚する、あるいは経営を承継することをためらわせる要因になったことがありますか」という質問に対し、「結婚をためらうことになった」と回答した人は59人(30.9%)に上りました。

婚姻に伴って姓を変更すること(または変更する可能性があること)が、結婚する、あるいは経営を承継することをためらわせる要因になったことがありますか?についての回答結果

 さらに「結婚したとき(するとき)、選択的夫婦別姓制度があれば、あなたは夫婦別姓を選びますか」という質問に対しては「選ぶ」と回答した人が123人に上りました。

 選択的夫婦別姓が認められないなかで、女性経営者は具体的にどのような課題に直面しているのでしょうか。

 愛知県の建設会社「丸山組」の元代表取締役で、協会の運営パートナーでもある丸山祥子さんは次のように話しています。

 「改姓するかどうかは本人の意思が前提ですが、女性経営者は、結婚または離婚時の改姓により様々な負担がかかっています。改姓により様々な行政手続きを本人や社員がしなければならない仕事が増えるだけでなく、創業家としてのブランドが損なわれたり、女性というだけで対等に扱われず会社の代表としての尊厳が損なわれたりするといった課題も抱えています」

 4月20日に「選択的夫婦別姓の早期実現を求めるビジネスリーダー有志の会」や日本跡取り娘共育協会などが開催したオンラインイベントには、サイボウズ社長の青野慶久さんやワーク・ライフバランス社長の小室淑恵さんらが参加しました。

 小室さんはイベントの中で次のように話しました。

 「労働力が足りないことが社会問題となっているなか、夫婦別姓は、企業内での事務手続きを増やし、生産性を下げる要因になっています。また、女性自身にとってこれまで築いてきた自分のブランディングを手放さなければならなかったり、グローバルに仕事をする上で日本の制度を理解してもらえなかったりと苦労しています」

 このほか、参加者からも「家業のブランディングの連続性が失われてしまう。旧姓を名乗ることが変ではないという多様性を認める社会になってほしい」という声が上がりました。

 アンケートの自由回答からは、具体的な課題に対する声も寄せられました。課題ごとに分類します。

 結婚で夫の姓となった30代起業家「旧姓併記続きは、マイナンバー、住民票、運転免許書など、1日で終えられない不都合に遭いました。海外渡航の際は、いままで使ってきた身分証明をすべて新姓に書き換えねばなりません。まさに、改姓した一方のみが物理的にも精神的にも負担を強いられる事を、身をもって体感している最中です」

 結婚で夫の姓となった40代起業家「金融機関(約20ヵ所)に行って、変更するのがとにかく大変で、いまだに旧姓のまま使用しているカードもある。結婚、離婚、再婚で計60ヶ所の金融機関に行く手間と時間を考えるとかなりの経済的損失を生み出した」

 婚姻歴があり、今は自分の姓となった50代の企業承継者「特許では旧姓が認められていないため、同一人物とみなされず、混乱をきたした」

 結婚で夫の姓となった50代企業承継者「海外出張時に夫の姓を使うと、周りから不審に思われる。2つの姓の使い分け、それに伴う事務処理負担も重い。通称制度があれば良いと勘違いがされている」

 結婚で夫の姓となった30代企業承継者「旧姓を通称として使っていますが、登記上は配偶者の姓となっているため、大手取引先からの感謝状贈呈を受けた際に配偶者の姓になっていたり、取引先のパーティー等の招待状なども配偶者の姓で来たりします。社内でも、たまに混乱する場面があり、申し訳なく感じます」

 結婚で夫の姓となった30代企業承継者「旧姓家での跡取りという意識が⾃分の中でありそのためにこれまで⽣きてきたので、新姓でこの仕事をしている⾃分にもしっくりきていなかった。アイデンティティの混同というか」

 結婚で夫の姓となった30代企業承継者「社名に旧姓が⼊っているため、名字が変わると繋がりがないように思われてしまう」

 結婚で夫の姓となった40代企業承継者「創業者は父ですが、私は配偶者の姓を名乗っています。姓が違う事で、あなた誰?と取引先や銀行に言われた」

 結婚で夫の姓となった40代起業家「実家の稼業を継ぎたかったが名前を変えることで権利を失い、⾃分で起業することにした。結婚後も旧姓を名乗りたかった(夫が私の名前へ改姓してほしかった)が夫側の実家が許さなかった。夫側は何も経営しておらず稼業の継承もないのに、世間体という意味不明の理由で許さず、私は実家の継承及び(それなりの)財産を放棄することになった。悔しかった」

 アンケートの概要は次の通りです。

対象者:女性経営者191人
調査方式: インターネットを通じたアンケート
調査期間:2021 年4月5~23 日

 回答者の属性は次の通りです。

経営者就任経緯:起業55%、事業承継32%、その他13%
所在地:首都圏40%、関西圏7%、その他 52%
年代:20代未満3% 、30代18%、 40代44%、50代30%、 60代以上5%
婚姻歴:既婚または婚姻歴あり(配偶者姓)65%、既婚または婚姻歴あり(自分の姓)18%、 事実婚5%、未婚10%、その他 2%