目次

  1. 今さら聞けないフレームワークの基本
    1. PDCAとは?
    2. 近年注目されているOODA
  2. フレームワーク活用は“組織のステージの見極め”が鍵
    1. “探る”“回す”“手放す”“仕込む”の4つのステージ
    2. PDCAが適しているのは“回す”のステージ
    3. “手放す”ステージで役立つOODA
    4. 安定的な成長が続いたら思い切って“仕込む” 
  3. 中小企業の経営者が陥りがちな失敗
    1. 現場との認識のズレがフレームワークのミスマッチを生む
    2. 経営者は一人では戦えない
  4. フレームワークに踊らされず、組織の状況に合った活用を

 PDCAサイクルとは、Plan(計画)・Do(実行)・Check(評価)・Action(改善)の頭文字を取ったもので、1950年代から提唱されているビジネスの手法です。

 当時は製造業などをはじめとして品質管理のためのフレームワークとして普及しましたが、現在は営業職など幅広いビジネスの分野で活用されています。

 一般的にPDCAのメリットは、最初にPlan(計画)をするため目標が明確になり、やるべき事に集中して取り組めることが挙げられます。

 それゆえ、目標を達成するための改善点を見つけやすく、効率的に改善を続ける事ができます。その反面、一連のサイクルを回すのに時間がかかる事や、想定外の事態が起きても対処がしづらい、新しいアイディアが生まれにくいなどのデメリットもあります。

 PDCAに続き、注目されているのがOODAです。Observe(観察)、Orient(状況判断)、Decide(意思決定)、Act(行動)の4つのループで回します。元々はアメリカの航空戦術として考え出された意思決定のメソッドですが、日本国内でも変化の激しいコロナ禍でのビジネスに使えるフレームワークとして、注目を浴びています。

 OODAを活用する最大のメリットはそのスピード感。最初に計画を立てず、現場に決定権を委譲するため、予期せぬ問題にも素早く柔軟に対応出来ます。しかしながらトップである経営者のビジョンが明確に浸透していないと、チームがバラバラに動いてしまうという欠点もあります。

 中小企業で自社に向いているフレームワークを判断するためには、何が決め手となるのでしょうか。

 「最も重要なのは組織のステージを見極める事」と高橋さんは指摘します。高橋さんによると、組織は“探る”“回す”“手放す”“仕込む”の4つのステージに分類できると言います。

組織のステージ(TORiX提供)

 「アクションやKPI(重要業績評価指標)の絞り込みができていない“探る”の段階で無理にPDCAサイクルに当てはめようとしても上手く行きません。例えばコロナ禍の影響でこれまでの前提が覆されてしまったような状況は、次なるプランを“探る”のステージと言えます。

 この段階で重要になるのは、ある程度の失敗を許容して、新しい環境で勝ちパターンを見いだす事。PDCA の最初のPlan(計画)部分を無くし、DDCA - Do(実行)・Do(実行)・Check(評価)・Action(改善)の様なイメージで、まずは“やってみる型”のフレームワークを実行すると良いでしょう。

 より簡単な方法として、KPTもおすすめです。K(Keep)は良かったから続けようと思うこと、P(Problem)は改善しようと思う事、T(Try)は次に試してみようと思う事。その3つを定期的に洗い出すだけでも、勝ちパターンが見えてきます」(高橋さん)

 ではPDCAが有効になるのはどの段階なのでしょうか。

 「方針や戦略がある程度明確になった“回す”の段階で活用できるのがPDCAです。営業で例えると、“探る”の段階では、コロナ禍のあおりでアポ取りが難しくなってしまったので、アポ数を増やす方法をとにかく試行錯誤してみるという状況。

 それが“回す”の段階では、“他社と共同セミナーを実施して、お客様からの問い合わせを受ける仕組みを作り、最終的にアポにつなげる”といったような勝ちパターンが既に見えて来ています。

 やるべき事が明確化されていますので、PDCAを回すことで勝ちパターンがブラッシュアップされ、業績向上が見込めます」(高橋さん)

 PDCAが上手く作用し業績が向上すると、言われたことしかやらない人が増えるなど、決められたことを忠実に実行するなかで起こる弊害が見え始めます。こうなったら、素早く“手放す”ステージに移行しましょう。

 「ここで活躍するフレームワークがOODAです。現場に決定権を委譲してより多くを任せる事で、組織の急成長が望めます。経営者が会議に出席する必要がなくなった、直接指示を出さなくても社員が動けるようになった、などが“手放す”のステージに到達したサインです」と高橋さんは説明します。

 OODAが上手く機能し、ある程度安定的な成長が続いており、順調に回っている状態が見えたら“仕込む”段階です。

 「ここで安心して歩みを止めるのではなく、さらなる成長を目指してリスクを取ります。上手く行っているうちに次の準備を始めましょう。新しいチャレンジをし、これまでとは違う次元に進むので、最初の“探る”ステージへ戻ります。」(高橋さん)

 歩みを止める事なく、4つのステージを循環させ続けることが、組織の成長の鍵だと言います。

 高橋さんの経験上、中小企業でフレームワークが上手く活用できない原因の多くは、経営者と現場のステージ認識のズレだと言います。例えば、経営者は“回す”の段階だと認識しているが、現場はまだ“探る”の段階である場合です。

 「経営者が先走ってPDCAを回し始めてしまうと、現場がついていけなくなってしまいます。企業のステージを見極めるコツは、“再現性”に注目する事です。

 “再現性”とは、同じ事象が繰り返し起こる事。例えば、同じ手法で連続して良い結果が得られたら“回す”ステージ、部下が言われたことしかやらないという状況が何度も見受けられたら“手放す”ステージといった要領で判断して行きます」(高橋さん)

 逆に、経営者が以前の成功にこだわって、次のステージに舵を切れないパターンにも、高橋さんは警鐘を鳴らします。

 「例えば“探る”のステージで試行錯誤を繰り返して、良い結果に繋がったからと言って、いつまでも“回す”のステージへ進まずにいると、やることが増えすぎて、勝ちパターンに集中でません。結果的に部下が疲弊し、効率が下がってしまいます」

 ステージを上手く見極めたとしても、中小企業でフレームワークが上手く機能しないことがあると言います。その多くは、経営者が一人で抱え込んでしまう場合。高橋さんは4つの役割でチームワークを説明します。

 「“考える人”“決める人”“回す人”“盛り上げる人”の4種の人材が揃うと、フレームワークが上手く回りやすいのです。まずはこの4つの役割を意識してチームの体制を整えましょう。

 経営者は“決める人”として役割に参加し、最終的には現場に権限を委譲して“決める人”の役割からも抜けます。人材が不足している場合でも、役割の兼任は1人で2役までが限度と考えてください」(高橋さん)

チームを機能させるのに必要な4つの役割(TORiX提供)

 「全てに対応できる万能のフレームワークはありません。フレームワークに踊らされず、組織のステージを見極め、段階に沿った方法を上手く活用しましょう。

 また、人に任せられずに孤立してしまう状況は、経営者であれば誰しも通る道ではないでしょうか。まずは4つの役割を意識し、一役ずつ人に任せて行きましょう。一人で戦わず、チームで戦う事が組織を成長させる秘訣です」(高橋さん)

高橋浩一

経営コンサルタント

外資系戦略コンサルティング会社を経て25歳で起業、アルー株式会社に創業参画。2011年にTORiX株式会社を設立。3万人以上の営業強化支援に携わる。 2019年『無敗営業「3つの質問」と「4つの力」』、2020年に続編となる『無敗営業 チーム戦略』(ともに日経BP)を出版 、シリーズ累計6万部突破。2021年『なぜか声がかかる人の習慣』(日本経済新聞出版)を出版。 年間200回以上の講演や研修に登壇する傍ら、300人規模のオンラインサロンを主宰し、運営している。